第10話 黒歴史でも歴史なり。
〈七月二十三日・午前五時半〉
簡単な晩酌を済ませた後の私達と母さんは今後の方針を話し合う。父さんの管理物から情報を抜き出して世界地図として描き起こしてね。
「とりあえずは姉さん達と合流してから、私達の対となる子達の捜索と、確保でいいわね?」
「ええ。確保後に複製を残しておきなさいよ」
「ああ、失踪したとか大騒ぎになりそうね?」
「一応でも王女様だもんね。それで他の三人は何処にいるの?」
「
「えっと、それなら私は合流後に火山跡地から入った方がいいかな。鉱山というとドワーフ」
ドワーフの名が尻すぼみとなった
私は苦笑しつつ揶揄ってあげた。
「
「ま、祀られそうな気配がするよ」
そう、
すると母さんが溜息を吐きながら、
「ドワーフ達にバレなければ問題はないわ。自分から名乗るなら、話は変わるけどね?」
自分から言わなければ問題は無いわね。
「絶対に名乗らない!」
同意というより宣言ね。
私達は顔を見合わせて苦笑し声を揃えた。
「「「フラグ」」」
「ちょ!? そういう事を言わないで!?」
言わないでって言われてもねぇ。
当人の言った事の逆が旗建てだもの。
すると
「私はそのまま大森林を抜けて平野部に出たらいいわね。その時に
母さんに許可を求めた。
私も連れて・・・はダメね。
そこから逃げたようなものだし。
母さんは思惑を読み取りながら頷いた。
「
「それなら連れて行くわ」
許可が得られた
どうやら持ち込む品を選んでいるようだ。
菓子とか非常食とか大森林から出た時に困らないように。食品に関しては
あとはあちらで使える金も持ち込むようだ。
(貨幣も必要か。あちらにある金庫から持ち込みましょうかね? 伊達に商業神ではないし)
私はそのまま貨幣を拾ってから使うけど。
その際に気づいた事を
「でも、目立つと思うわよ?」
どういう意味で目立つかと言えば顔立ちもそうだが派手なのだ。黒髪時の印象を知っているから言える事だが今は派手な金髪金瞳だから。
「絶対、目立つと思う!」
「
姉さん達も〈隠形〉したうえで歩き回っていたものね。あれも姉さんが目立つ事を回避するために行った事だった。
「そこは〈変装〉スキルで染めさせるわよ」
「ああ、それなら大丈夫か」
「どの程度まで染められるか、だけどね」
「せめて光沢は消した方がいいでしょうね」
「そうなると
「うんうん。私っぽ・・・いの? 母さん?」
「ええ。素の
「というか鍛冶神と鉱石神だからドワーフが見たら確実に拝み倒すわね」
「ああ、それは。うん。染めさせましょうか」
(というかあの子達だけ対が居ないのは何故かしら? 私達は居てもね。そうでないとあの子達が絶対行かないといけない話になるし。というより呼び出された件は、あの子達も原因?)
私がそう思案していると、
「元々の予定はあったのよ。でも管理神器の上限に引っかかって出来なかったの。男女毎に最大二十五個が上限だからね。まぁカナ君みたいに男系で用意すれば良かったけどね」
母さんが困った顔で事実の一端を明かした。
(それって例の三個が原因よね?)
それがあるから増やせないって事だから。
すると母さんは真顔に戻して語りだした。
「その三個は最重要だから仕方ないのよ。元々は一個だったけど。私の予備も外せないしね」
真顔って事は本当に必要な神核なのだろう。
私は
「重要、ね。あとで絶対教えてよ?」
「ええ、教えるわ。どのみち会うでしょうし」
「「「「会う?」」」」
それはどういう意味だろう?
私達はきょとんとしたまま話を済ませた。
◇ ◇ ◇
〈七月二十三日・午前八時〉
それから数時間後。
各自の準備を済ませて廊下にて話し合い、
「さて、向かいますか」
「ええ、迎えは無理でも」
「手助けだけは行わないと」
「私も娘を作れば良かった」
「「「その
「う、うっさい!」
私達は自室に入り、ベッドへと横になる。
私達の留守中は就寝している事になるから。
自意識を内側に向け憑依体との連動を切る。
私達の神体が外に出たあとの憑依体は、睡眠モードに切り替わり、疑似魂魄を発生させる。
それが無いとそこらの雑霊が入り込むから。
『神装を羽織って・・・気のせいかしら? 胸が育ってる? Eはあるわね』
その際に自身の胸を見たら前以上に育っていたのだ。姉さん達を見ている時に妙な息苦しさがあったのは、それが原因なのかもしれない。
私達の体は誰かが成長すると連動するのだ。
同一化とも言うが急成長が現れると
(今はつるぺったーんが似合う体型だから)
私がそう考えていると壁をすり抜けて、
『つるぺったーんで悪かったな!』
つるぺったーんが胸を揺らして飛んできた。
否、育つだけ育った
憑依体の作り直しが必要な程に育っていた。
『扉を開けてきなさいよ』
『
『いや、私と同じで平面勢じゃない。だから』
『自分で言ってて悲しくならない? それ』
『すっごい悲しいわね、うん』
あとになって辛くなった私だった。
『帰ったら、作り直しね』
『それがいいかもね。とはいえ急成長したらしたで言い訳も考えないといけないけど』
だから私は対面部屋に居る者を例に出す。
『そこは補正下着で潰してしまえばいいわ』
『ああ、
『そうそう。平面に』
という
出たらツッコミが飛んできた。
『私は潰してないわよ!?』
『『そうだっけ?』』
『単に着痩せしているだけじゃない。選ぶ服次第だもの』
『ああ、そういえば』
『そうだったかも』
私と
ただ、術着に着替えたら丸わかりなので、男性医師からはエロ院長と呼ばれているそうだ。
セクハラ医師が多いのね。あの病院。
すると
『どのみち
『私の服は子供服じゃないよ!?』
『『『特注品には変わりない』』』
『ぐ、ぐぬぬ』
その特注品も自分達で創るのだけど。
余所に依頼出来る代物ではないしね。
そうして家屋を出た私達は、縁側で父さんと芋を焼く母さんに手を振りつつ、近くの社へ移動する。そこから先が他世界へ繋がる経路だ。
一人ずつ神力を練り上げて門を見上げる。
すると
『あら? こちらの門は?』
本来は二箇所のはずだが三箇所あったのだ。
一箇所は本拠地。本来ならばそこで過ごさねばならない重要な場所へと繋がっている。
一箇所はこれから向かう管理物の世界だ。
私と
『何か定期的に母さんが通っている門みたい』
『大量の焼き芋を風呂敷に包んで行商人のようにね。一体全体、何をしているんだか?』
『また新しく創って管理しているのかしら?』
『母さんの思考回路だけは私も分からないよ』
『『『確かに』』』
そこだけは姉妹揃って同じ事を思うよね。
単純に分からない。それに尽きるのだ。
ともあれ、〈名称未確定〉とされた門には触れず〈
潜った先は閑散としていて、
『ああ、やっぱり』
『酷い有様ね』
埃まみれだった。否、神素まみれね。
私と
『ここらの掃除が先かしら?』
『それもあるわね。広範囲だけど』
『というか、これって』
『ああ、見た感じ蓋が開いているから』
『備蓄分が外に拡散したって事?』
『おそらく』
『蓋が開いていたから、何かと思ったら』
『備蓄分がすっからかんだね。これは何かの拍子に開いたのかな?』
『さぁ? 姉さんが閉め忘れたとか?』
『それは無いんじゃない。無駄が大嫌いな
『そうよね。一体何があったのかしら?』
『というか、隣の予備庫まで消えているから、かなり不味いね』
『このまま補充しておきましょうか?』
『うん。全属性に属性変換して』
そしてそのまま備蓄庫へと二人分の最大量神力を属性変換と神素変換を経由して注ぎ入れていた。元々は三人分が収まる分量だから、それでも足りないみたいだけど。
私達は二人を眺めつつ、ハンディータイプの掃除機を創り出して、少しずつ片付け始めた。
『こちらを片付けて追加した方がいいわね』
『そうね。こういう時、
『分かる。旋風で巻き上げて一括補填ってね』
『風魔法が苦手なのよね、私』
『私もよ。得意なのは自身の属性だけね』
創造系は全員が得意とする事だが魔法に関しては、私達四人は得意属性以外は苦手なのだ。
例外は魔導神の
あの三人は長女・次女・三女というだけあって技術的に苦手な事が全く存在しない。
強いて言えば互いを苦手とする部分だけだ。
『お尻が弱点なのは私達も同じだけど』
『
『
『
『まさに三竦みよね』
『互いを牽制する時とか、抑える時だけ』
『強引に揉んで、恥辱を与えているけど』
その恥辱の中にはとんでもない行為もある。
『
『姉さんが
『私達の神体では機能しない部分でも』
『一応は存在するからあてがう的なね』
そう、私達の神体は各種機能が存在しない。
食べた物がそのまま神力に変換されるのでお腹に溜まる事が無いのだ。それは水分とて同じでありトイレの必要性が皆無だった。
まぁ憑依体では擬似的に動かして経験だけはしているけどね。行かないと不審がられるし。
姉さん達は行くフリして即座に出るらしい。
『幸い、憑依体では行わないけどね』
『行ったら、私の出番になるもの』
『入院させて手術して時間停止後に』
『新しい憑依体で退院させるわよ』
それは備蓄庫の蓋を閉じる
そうしてある程度の掃除を終えると地面が見えてきた。
『これくらいでいいでしょ』
『そうね。でも、一体なんで蓋が?』
すると
『こればかりは父さんでも分からないわよね』
『彷徨いていた記録が残ってたから助かった』
どうも今回の件の原因が判明したようだ。
私と
『『開けていたって?』』
『三バカ男に股を開いた子が一番の原因よ』
『『は?』』
補足説明は焼き芋を取り出して、薄皮を剥き始めた
『その子が封印後に興味津々で開いていたみたい。閉じる事もせず下界に降りて転生したと』
薄皮を全属性の神素還元させながらね。
『『ほ、他の子は?』』
『他の子は見て回るだけだったみたい。そのまま興味津々な子と共に下界に降りていったよ』
だから、およそ十六年という短期間ですっからかんになっていたのね。
数千年分の神素が一瞬で消え去るレベルで。
『ね、姉さんの悪い面が』
『ええ、出ている結果ね』
知識神の特性が封印しても出てくるとはね。
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