第63話 同郷のひと

 もちろん、などと口にしたレイカと違って俺はこの世界が何なのかは知らない。

 俺にとっては元の世界と同じ一寸先の見えないリアル。


 だから、レイカが見ているにハーレムルートがあるのかは知らないが、別に無くても構わない。

 カマかけとでも言い訳はすぐに出来るし、本質は別にあるからだ。


「……やっぱりそうだったんだ。おかしいとは思ってたけど、上手く隠したわね」

「で、答えは?」


「どうでもいいでしょ。で、あなたはどっちなの?」

「もちろん考えたことがある。ハーレムなんて面倒事を作るだけでロクなもんじゃない。特にこういう社会じゃな」


 帝国うちの相続法を知らないから何とも言えないが、やはり理想は健康な男子が一人。

 これに限る。


 継承権を持つ人間が増えれば増えるほど血みどろの争いになりかねないからな……。


「……そうじゃなくて。元から男だったのか女から皇帝になったのかってこと」

「なんだそんなことか。元から男だが?」


「っぱね。エロ目的じゃん。だから、あの時ルーナリアに告白したんだ?」

「……何の話だ?」


「男はルーナリアのビジュ好きだもんね。そりゃ救える立場になったら自分のモノにしちゃうか」

「む……」


 見る人間の視点が変わるとこうも違うのか……。


 確かに、俺はあの時ルーナリアに一目惚れしたし告白した。

 だが、そこには国家間の関係を守るという思惑も少なからずあったし、社会としての見方はほぼそれで一色だった。


 つまり、亡き皇后を偲び続けた貞節な皇帝が皇太子の犯した過ちを上手く穴埋めした。

 これが世間の一般的な見解だったのだ。


「ってかさ、分かってるなら何で邪魔すんの?」

「邪魔?」


「だから……私がホンモノなの。この世界のヒロインなの。邪魔する理由無くない?」

「ガキが……お前以外も全員、みんな生きてるホンモノだろうが」


「偉そうに、誰がガキよ。前世も合わせたら余裕で三十超えてますけど?」

「おいおい、年上かよ……」


 あのジルベルト君による離婚劇がだったとしても、いい大人なら違う方法を取れそうなもの。

 だから、てっきり見た目通りの年端も行かない少女だと思いきやこれだ。


「はぁ!?」

「俺は二十代で来たのも今年だ」


「わ、私も来た時は二十代よ!」

「あっそ。でも、合わせれば三十超えてるなら年上だろ?」


「うっっっっっざ! ってか、デリカシー無さ過ぎ!」

「そりゃ失礼。……あっ、失礼な言い方をして申し訳ございませんでした」


 ここは社会人らしく年上の相手に敬意を払うべし。

 と、わざと仰々しく頭を下げ謝罪する。


「腹立つー……なによその態度……。よくよく考えれば私のおかげでルーナリアと結婚出来たようなものじゃない。むしろ感謝してもいいくらいでしょ」

「あっ、そうでしたね! その節は本当にお世話になりまして心からお礼申し上げます。ありがとうございました!」


「ざけんなオッサン! 私はあんたの息子と同い年っ、年上じゃない!」

「でも、中身は違う。だろ? なんでもっと上手くやれなかった?」


「はぁ!?」

「ルーナリアはもちろん、ジルベルトも傷つかずに済ますことも出来たはずだ」


「あー、はいはい、そういうことね。ルーナリアの肩持つんだ、ホント好きねー?」

「そういうことじゃない」


 彼女らの過去を俺は知らない。

 そして、レイカの知る世界を俺は知らない。


 だから、自身をヒロインと言い放ちこちらを小馬鹿にするような目を向ける彼女に、俺はただ否定することしか出来なかった。

 それも影響しただろうか、再び余裕を取り戻した彼女は愉悦を浮かべながら口を開く。


「好きだった女の子、それも自分の子どもと同じ歳の奥さんを貰えたのに、この私にそんな言い方するんだ?」

「それとこれは別だろ」


「どこがよ。私のおかげで若くてエロい奥さんとイチャイチャ出来てるんじゃない」

「俺はお前とは違う」


「何が違うのよ……まさか、まだヤってないとか? ぷぷぷ」

「別に……他人に馬鹿にされることじゃねーだろ。俺は彼女が卒業するまでプラトニックに付き合っていくんだよ」


「プラトニック、ぷぷ……結婚してるくせに。ってか、元の世界のこと引きずってんのウケる」

「ちっ……そういうお前こそ未婚でヤッってるなら姦通罪だからな。いいのかなぁ、聖女が淫乱で?」


「はい、終わりでーす。貫け、アイシクルランス!」

「ぬぉおおお!?」


 急に目が据わったレイカが杖の宝玉を向け唱えると、輝きと共に氷の槍が現れた。

 思わず剣で逸らしながら避けたが、明らかに殺意の籠った一撃に冷や汗が流れる。


「おいっ、殺すつもりは無かったんじゃないのかよ!?」

「……何言ってんのよ。あんたがこんくらいで死ぬ訳ないでしょ?」


「はぁ!?」

「あー……もしかしてあんた自分のこと知らない感じ? 貫け、アイシクルランス」


「自分のことって、くっ……どういうことだよ?」

「こんな風に聖女の魔法を剣で捌けるのも、覚醒した使徒とやりあって生きてるのも普通じゃないの」


「そりゃあ……まぁ……だよな?」

「やっぱ知らないのね。ま、没になったダウンロードコンテンツだし知らなくても無理ないけど」


「ダウンロードコンテンツ……?」

「そ、皇帝は最初の方からキャラクターとして登場はしてたけど、ジルベルト絡みでちょこちょこ出て来るだけでお話にはそこまで関わってなかったでしょ?」


 レイカはあくまでも、元の世界でゲームとして描かれたこの世界を俺がプレイしたことがあるという体で話を進める。

 無論、俺から否定する気は無い……少なくとも今はまだ、だ。


 けど、そうか……ゲームのキャラだったのか。

 まぁ納得というか、確かに、普通におかしい強さ……だもんなぁ……。

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