第6話 帝国鉱山大捜査
「あれが鉱山の入口かニャ。」
「人がいっぱいだね。」
二人が行き着いた先は広い作業場になっていた。
そしてその先には鉱山内部への巨大な入口があり、何本ものレールが中へと伸びていた。
事務所のような建物があり、たくさんの作業員が行き来していたが、
その中には縄で繋がれた大柄の猫たちの列があり、
現場監督らしき者に鞭打たれている猫もいた。
「ユキにゃん、あれは?」
「山猫族ニャ。無理やり働かされているニャ。」
「環境汚染の上、強制労働に虐待まで? テイコクって人、なんて悪い奴なの! 許せない!」
「…。タマちゃん、ひょっとして『テイコク』って人の名前だと思ってるニャ?」
「ちがうの? いいから、早く逮捕しにいこ!」
「待つニャ、タマちゃん。正面からだとあっという間に捕まるニャ。」
ユキはそっと物陰から辺りを見回して、何かを見つけるとニヤリとした。
「コラ! そこの二人!」
「は、はい? 本官…いや私ですか?」
「遅いぞ、サボるんじゃない! お前ら第2班だな。さっさと乗って、はやく第9工区の総現場監督の所に行け!」
「了解!」
作業着にヘルメット姿のタマは現場監督に敬礼をすると、トロッコに乗り込んだ。
「ユキにゃんも早く乗って!」
「動きにくいニャ~。」
ユキはタマよりも作業着がダボダボでヘルメットもスカスカだったが仕方がなかった。
「これ、どうやって動かすのかな?」
「そこにレバーがあるニャ!」
レバーを上げると、トロッコがゆっくりとレール上を進み出した。
トロッコは少しずつ速くなり、入り口をくぐり中へと進んでいった。
鉱山の中は壁面に松明が一定間隔であるものの、暗くて先がよく見えなかった。
「どこに進めば良いのかな?」
「あニャ、底に図面があったニャ。」
広大な鉱山の全域は工区ごとにわかれており、番号が割り振られているようだった。
トロッコはぐんぐんとスピードをあげていった。
「楽しい! テーマパークみたい~。」
「何ニャそれ? あわわわニャ。タマちゃん、意外と平気ニャ?」
ユキはタマにギュッとしがみついた。
しばらく走ると、レールが左右に分かれている箇所にでくわした。
「ユキにゃん、どっちが正解かな?」
「たぶん…右かニャ?」
「まかせて!」
タマがシャベルでスイングしてタイミングよくポイントをぶっ叩くと、
レールが切り替わりトロッコは右へと進み出した。
「タマちゃん、すごいニャ!」
「フッ、元ソフトボール部よ。」
「ただ、ひとつ謝る事があるニャ。」
「なあに?」
「図面、さかさまに見てたニャ。」
「オマイガッ。」
トロッコは一段とスピードをあげ、爆走しはじめた。
「ちょっとさすがにこわいかも。」
「今、ドクロマークの看板が見えたような気がするニャ。」
「見なかったことでヨシ!」
「タマちゃん、これがブレーキかニャ?」
タマが、ユキが見つけたレバーを思い切り引っ張ると、ギギギギ! と凄まじい音がしてレバーがとれてしまった。
「あれ? お約束か…。」
「何してるニャ! こわしたな、タマちゃん!」
「元はと言えばユキにゃんが間違えたからでしょ!」
二人はお互いにしがみつき合いながら口喧嘩をした。
なおもトロッコは暴走した。
「あ、レールが。」
「途切れてるニャ~!?」
ガッターン!!
脱線し、宙を舞うトロッコ。
少し先に洞窟と、またその中へ続くレールが見えた。
「ユキにゃん、まだ望みはある! あそこまで飛んで着地すれば…。」
「あニャ~。何も見たくないニャ!」
ユキはますますタマにしがみついた。
だがトロッコは失速し、今度はすごい速さで真下の暗闇に落下し始めた。
「あわわわ、まさか第6話で終わり?」
「タマちゃん、何を言ってるニャ~!」
ところが、トロッコは何か柔らかい感触に着地しビヨ~ンと跳ねた。
「うわわわ、何これ!?」
「タマちゃん、網が張ってあるニャ!」
タマがこわごわ下をハンドライトで照らすと、蜘蛛の巣のような形状にロープで安全網が張られていた。
「助かった…。」
安心して脱力したタマに、ユキが話しかけた。
「タマちゃんの胸にしがみついてたら、ママを思い出したニャ。」
「ユキにゃん…ひょっとしてあなたも?」
「うん、ボクも小さい頃にパパもママもニャ…。」
「そうだったんだ…。本官と同じだね。」
「だから、ボクこわくてもタマちゃんにしがみついていたら安心だったニャ!」
ユキはよほど怖かったのか、泣き笑いのような顔をしていた。
「そっか、ユキにゃんもすごく怖かったんだね。ごめんね、おいで。」
ユキはまたタマに抱きついた。
「よしよし。」
タマはユキの頭をフワフワとなでた。
「ところでタマちゃん、ひとついいかニャ?」
「なあに?」
「この網、ボロボロで今にも破れそうみたいニャ。」
「早く言って!!」
網がプツプツと音を立てて切れ始め、ついにはまたトロッコは落下し始めた!
「ところでユキにゃん、好きな食べ物は何?」
「それ、どうしても今する話かニャ?」
「何か喋ってないと正気を保てなさそう…。」
地底がグングン近づいてきて、
二人はかたく抱き合った。
ドッスーン!!
グシャ!!
凄まじい衝撃音がして土煙が舞った。
「ゴホゴホニャ。」
「ユキにゃん! 大丈夫?」
「生きてるニャ。タマちゃんも大丈夫ニャ?」
「大丈夫! あれ? さっきグシャッて音がしなかった…?」
土煙が落ち着くと、二人の乗った少しひしゃげたトロッコは何かに取り囲まれている様子だった。
それは数え切れない数の、暗闇に光る点だった。
「あわわわ、また大ネズミの大群?」
「タマちゃん、はやく『けんじう』ニャ!」
「り、了解!」
タマは震える手で拳銃を抜き、左手にハンドライトを持ち右手を交差して、暗闇に向かって銃口を向けた。
残弾数はあと1発だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます