【完結】(百合要素あり)新人警察官・香箱タマ、ただ今異世界を白猫少女ユキにゃんと警ら中!ー本官は悪いテイコクさんを逮捕しにいくのであります!ー

みみにゃん出版社

序章 なんでこんなことに?


「へ~、これがギロチンなんだ。初めてみた。」


 能天気な口調で言ったのは、

おかしな紺色の服に身を包んだ小柄なショートカットの人物だった。


 頭には妙な丸い帽子をかぶっている。


 自分が置かれている絶望的な状況をわかっているのかいないのか、至って呑気な様子だ。


 なぜ絶望的かというと、

なにせ今のその人物の状態ときたら…


 全身をぐるぐる巻きにロープで縛られている上に、

板に空いた穴から頭と両手首を出しており、日光を反射してキラリと光っている巨大な刃の下に転がされていたからだった。


 巨大な刃はロープで吊られており、

そのロープの先は地面に楔で固定されていた。


 ロープのそばには上半身裸で筋骨隆々、スキンヘッドのあごひげ男が大きな半月刀を持ち仁王立ちしていた。


 そばにもう一人いた、頭に布を巻いた口髭の老人がうなずくと、あごひげ男は大声を張り上げた。


「これより、虚言で人心を惑わせた罪により…こ、こ、…?? おい!」


 あごひげ男はギロチン台の人物に小声で話しかけた。


(おまえのなまえ、なんだっけ?)


(こうばこ たま、だよ!)


(ありがとよ、すまねえな。)


(どういたしまして。)


 周りに集まった群衆によく見えるようにか、

木で組まれた舞台のような台上でそれは執り行われていた。


 台は街中の広場にあり、まわりはドームのような尖った屋根のある、タイルで装飾を施された美しい建物がいくつも建ち並んでいた。


 あごひげ男は気を取り直してまた声を張り上げた。


「これより、人心を惑わせた罪により、『こうばこ たま』なる異教徒を…」


 急に、ぐるぐる巻きの人物が割り込んだ。


「ちょっと待って!」


「なんだ、見せ場なのに。」


「異教徒じゃないよ、本官の階級は巡査、じゅ・ん・さ。わかった?」


 群衆からはやくしろ~!とヤジが飛んだ。

ついでに卵やリンゴの芯も飛んできた。


 あごひげ男はまた気を取り直して叫んだ。


「これより、『こうばこたま』なる『じゅんさ』の斬首刑を執り行う!」


 周りを幾重にも取り囲む群衆からやんややんやの喝采と同時に、激しいブーイングも巻き起こった。


 斬首刑賛成派と反対派で小競り合いも起きそうな状況だった。


 あごひげ男はまたそのタマという人物に話しかけた。


「何か言い残すことはあるか。」


「ん~。がっつりトンキーのチョコパフェ食べたい!」


 スキンヘッドは呆れたように言った。


「はあ? おまえ、なんでそんなに落ち着いていられるんだ。これからお前は死刑になるんだぞ?」


 すると、タマは自信たっぷりに答えた。


「ならないよーだ! 親友が助けに来てくれるもんね!」


 男は心底うんざりした表情で返した。


「あのなあ、おまえ。周りを見てみろ。何人兵隊がいると思う? あそこで陛下も見ておられるだろうが。助けに来る奴なんか…。」


「来るもん! 親友だから!」


「だから、来るわけねえって。もしそんな酔狂な馬鹿がいたら俺が代わりにギロチン台にのってやらあ。」


 腹を抱えて笑うあごひげ男につられて、

群衆からも笑い声が起こった。


 と同時に、悲鳴も巻き起こった。


 いつのまにそこにいたのか、

誰も気がつかなかった。


 あごひげ男の頭の上にちょこんと座っている人物…いや、服を着た猫がいた。


 一見少女のようだが、

手足は白い毛に覆われており、

頭には立った耳、宝石のような目の上には細い眉毛が無数に立ち、

口の横からはヒゲがピンと生えていた。

しきりに手をなめては顔を洗っている。


「ユキにゃん! やっぱり来てくれたんだ!」


 ユキと呼ばれた猫は答えた。


「勘違いするニャ。タマちゃんの首が転がるところを特等席で見物に来ただけニャ。」


「またまた~本官にベタ惚れのクセに~。」


「…帰るニャ。」


「待って! 冗談だってば!」


 驚いて固まっていたあごひげ男は我に返って激怒した。


「俺の頭は特等席じゃねえ!」


 一閃する半月刀。

だがユキは余裕綽々で刀をかわすと音もなく地面に着地した。


 ユキはタマに話しかけた。


「素直に謝れば助けてやるニャ。」


「謝ることってなんだっけ? すぐにユキにゃんのベッドに潜り込むこと? お風呂をのぞくこと? それとも…」


「おい、そこのあごひげニャ。早く刃を落とすニャ。」


「待ってー! 謝る、謝るから早く助けて。」


 群衆は何が起こったのかと押し合いへしあいで見物していた。


 騒ぎが大きくなりそうなので、警備の兵隊たちが動き出し、ギロチンめがけて殺到し始めた。


「この野郎!」


 あごひげ筋肉男がまた刀でユキに斬りかかった。


 が、またしてもひらりと余裕でかわされた。


 勢い余った男は刀を持ったまま大転倒し、

楔で固定されていたロープを切ってしまった。


「あニャ~。こりゃしまったニャ。」


「ひえ~ッ! なにしてんのユキにゃん!」


巨大なギロチンの刃が凄まじい速さで落下してきた!

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