第15話 一条と姫川

「ああ、…おーい!入ってくれ。一条、姫川」


おっさんが扉に向かって呼びかけると、扉が開き、一組の男女が病室に入ってくる。


どちらも高校生ぐらいの年ごろで、男の方はなかなか鋭い目つきに髪の毛を逆立たせている。うーむ、ちょっと男だった時の私に雰囲気が似ている。


女の方は栗毛色の髪の毛をツインテールにしてニコニコとした表情を貼り付けている。


「お嬢ちゃん、紹介しよう、イスカリオテの騎士団のメンバー、「粉砕者」一条猛と「叡智者」姫川愛理だ」


一条猛に姫川愛理ね。…で


「この二人をなぜ私に紹介を?」


「ああ、この二人には嬢ちゃんの護衛になってもらう」


「…護衛?」


「ああ、君は協会にとって貴重な戦力になる可能性がある、ただまだまだ未熟だ、瞬間的な戦闘力は非常に高い水準だが、探索者としても経験が不足している。よってこの2人とパーティーを組んでもらうよ」


なるほど、護衛兼教育係というわけか。


「…春樹はどうするんだ?」


「それはね、」


「おい」


おっさんが話しかけたところで、一条とやらが話に割って入ってきた。


「…なんだ?」


「お前の名前は?」


「…小池樹」


私は一条に自己紹介をする。


「そうか…樹、お前、あの春樹とやらのガキと、ダンジョン探索を続けるつもりか」


「え?…ああ、まぁ」


彼の父親を見つけないといけないしね。


「やめとけ、死ぬぞ」


「…」


突然何を?


「一体何を言って」


「…現実を観ろと言っているんだ、お前は執行使徒に直接狙われているんだぞ、足手まといを抱えたままなんて正気の沙汰じゃねぇ」


一条は吐き捨てるように言う


「あ、足手まといって、春樹は…」


「聞いた話だと、執行使徒に威圧されただけで、泡吹いて倒れたらしいじゃねぇか」


「それは…」


確かにそれは事実だが


「それにもしお前が一人だったら、古館さんから渡された、帰還の羽で撤退できただろう」


「…」


「お前は現状を正しく理解しようとしてねぇ…だからもう一度言うぞ…死ぬぞ、お前、あのガキ共々な、このままだと」


…確かにそうかもしれない、春樹の覚悟を聞いて、仲間としたが、今の私は非常に危険な立場なのだ、不本意なことに。


「…幸い、お前はゴブリンゴッドを一方的に葬るほどの実力がある。俺たちと行動すれば万一、執行使徒に遭遇しても撃退できると思う…で、どうする、そのガキとともに、奴らに殺されるか…それとも…」


「もー、一条君、脅しすぎだよ!」


とそこで今度は栗毛の女、姫川が話に割って入った。


「ちょ、お前、話の途中」


「樹ちゃん、私、姫川杏里っていうの!よろしくね!」


姫川は私の目の前まで来て、私の手を握りながらそう言った。


…押しの強い人だ


「あ、ああよろしく」


すると、姫川はニイッと笑うと突然に私の頭を撫でだした。


「にしても、かっわいいねー、樹ちゃん!まるで天使みたいだよ、どこに住んでるの?ルイン交換しよう!」


「ちょ…」


いや、押しが強すぎないか!?


私が困惑していると


「やめろ」


―バシッ!


「あう!」


一条が姫川の後頭部をひっぱたいた


「今は割と重要な話をしているんだよ、引っ込んでろ!この少女趣味変態女」


「へ、変態って、私はただかわいい女の子が好きなだけだよ!」


「黙れ、変態女、引っ込んでいやがれ」


一条は姫川の襟首をつかむとそのまま後方に投げ飛ばした。


「ひやあああ」


放物線を描いて後ろへ吹っ飛んでく姫川。病室で暴れるなよ…


「…随分と個性的な方々なことで」


私はボソッと呟く


「おい、俺をあの変態女と一緒にするんじゃねぇ」


「…」


「…まあ、ともかくあんなのでもそこそこ役に立つ」


「へぇ、じゃあ、あんたは?」


「まあ、空狼さん意外となら、イスカリオテの騎士団のどいつでも、大体渡り合えるな」


「空狼?は別格と…」


「…ああ、あの人は別格だな、正直底がみぇねぇ」


さっきから自信満々の一条がここまで言うとは、さっきの空狼とやらがどれだけなのか…


ダンジョンが発見されてそんなに時間は経っていないはずなのになぜ、奴だけ突出しているのか、スキルが余程協力なのだろうか。


「まあ、とにかくお前は俺たちとパーティーを組み、レベルを上げ、経験を積み、…そして来るべき執行使徒達との戦闘に備えるんだよ」


「…私が執行使徒との戦いに巻き込まれるのは確定なんだ?」


「あ、なんだ、お前…まさかあいつらの仲間にでもなるっていうのか?」


なにを言っているんだか。


「…さすがに自分を殺しに来た相手と組むつもりはないかな」


「なら、お前の今後は確定だな。イスカリオテの騎士団のメンバーとして、執行使徒たちと戦う」


「…呪神武器の代償まで支払った結果、変な組織抗争にまきこまれるのかぁ」


はぁ、全く運がない


「…ところで嬢ちゃん…君はどんな代償を支払ったんだ?」


ここで黙って成り行きを見守っいていたおっさんが声をかけてくる。


「代償か…あれ?」


…なんか大事な物を支払ったはずだが


「…覚えてない、な」


「はぁ?覚えてない?」


一条があきれた表情をしている


しかし、おっさんは真剣な表情のまま問いかけてくる。


「…あと、お嬢ちゃん、君、一人称「俺」じゃなかったけ」


「…え?」


私の一人称が「俺」だったって、いやそんなはず…まてよ。


「ッ!?」


そこで私は自分がどんな代償を支払ったのか…思い出した。


そう私の一人称は「俺」だった。しかし今、自分を俺と呼ぼうとすると、強烈な違和感を覚えてしまう。


「…はぁ、なるほどな」


「思い出したのかい?」


「ああ、…思い出したな、簡単に言えば、木乃伊取りが木乃伊になった」


「…なるほど、つまり探索者になった目的から、遠ざかるような代償を支払ったというわけか」


理解が早いな、おっさん


「…それで、寿命化か、誰かの命か…何を支払ったんだ?


…?


「いや、たしかに私にとっては重要な物だったが…寿命とか、他人の命とかそんなヤバいものではなかったぞ?」


まぁ、男に戻る、という私の目標にとってはかなりの代償だったが


「…へ?」


「…は?」


と、おっさんと一条がそろって奇妙な表情をしている。


そしてそれはしだいに驚愕の表情へと変わっていく


「そんなはずは…」


「そんなはずねぇ!」


おっさんを遮り一条が強い口調で言う。


「呪神武器っていうのはな!場合によっては使徒スキルを凌駕する力を手に入れられるんだ。生半可な代償のはずがねぇ!」


…えーと、でも使徒スキルは代償ないんだろう?なら別に


「…そんなこと言われても、実際にそうだが?」


「…嘘ついている様にはみえねぇな…マジかよ」


「もしかしたら、お嬢ちゃんの使徒スキルが関係しているのかもしれない」


「…使徒スキル?でもまだ発現してないんじゃ」


代行者だっけ、変な名前だな、アウトソーシング的な?


「使徒スキル「代行者」その能力が発現しかけで、それが呪神武器の代償に影響したのかもしれない」


はぁ、というか


「なんか、超越者とか粉砕者とか叡智者とかって、使徒スキルとやらの名前だったんだな」


「ああ、そういえば説明していなかったね。そうだよ、その通り」


なるほどねぇ、しかし


「…代行者ってどんなスキルなんだ?」


「それはお嬢ちゃんが発現してみないとわからないね」


「…でも、執行使徒とやらは何か知っていみたいだが」


「ああ…それが謎なんだ…なぜ奴らは発現する前の使徒スキルを知っているんだ」


おっさんにも分からないのか


「…まぁ、とにかくお嬢ちゃんが、そこまでの代償を支払っていなのなら安心だ」


「具体的に何を支払ったんだ?」


一条が問うてくる


「…黙秘する」


「…そうかよ、まあいい」


意外なことに、一条はそれ以上追及してこなかった。


まぁ、この話はここまでだろう、それより


「…そういえば春樹はどうすればいいんだ。私といると危険なんだろ?」


「…まさか、あのガキと一緒に暮らしているのか?」


「ああ、今は二人暮らしだ」


「ちびっこ二人で二人暮らしとか正気かよ…」


また、一条あきれている。


「しかし、困ったね、春樹君がお嬢ちゃんと一緒に住み続けるのは危険だからね」


おじさんが困った顔をする


「…でも春樹は身寄りがないぞ」


「うーむ」


「…」


私たちが悩んでいると


「へぇー、…つまり小さなかかわいい女の子が小さな男の子と一緒に暮らしてたってこと!?」


「え、あ」


いつの間にか復活していた姫川がなんか言ってる、…というか今まで気絶していたのかな?


「つ、つまりは…グヘっ!」


一条のチョップが姫川の後頭部に決まる。


「…姫川、お前という奴は…」


「いつつ…何言ってるの一条君、これはじあ…」


「それ以上しゃべるな!このロリコンショタコン変態クソ女ぁああああ!」


「ひゃああああああ」


再び襟首を一条につかまれ投げ飛ばされ、吹っ飛んでく変態…もとい姫川



「…なぁ、ホントにあいつで大丈夫なのか?」


「はは、どうしよう俺も自信がなくなってきた…」


あのさっきまで自信満々だった一条が自信をなくしている…


「はぁ…」


そして、おっさんのため息が病室に響いたのだった、さもありなん。


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