第13話  おっさんと執行使徒

「さて」


奴は倒した…後は…




―時間切れじゃ、かなりギリギリじゃったのう。




「え?」


突然、手に持っていた三笠刀が消失した。


それと同時に熱した鉄のようになっていた私の精神が急速に冷やされ冷静になる。


あれ…私は…何を?


…やばい、テンションが上がって大暴れして、なんか色々とこっぱずかしいことを言った記憶がある。


…誰にも聞かれてないよな…ん?誰にも?


…そうだ、春樹は!?


慌て周囲を見回すと、遠くの方に倒れている小さな人影が見える。


「春き…え」


私が慌ててそちらに駆け寄ろうとする、しかし、私は突然、崩れ落ちるように倒れる。


「な」


体が…動かない…力が…入らない。


同時に意識までもぼんやりとし始める。


―だから言ったじゃろ、時間切れだと


くっ…せめて春樹の安否を


立ち上がろうとするが力が入らない。


そんなこんなあがいていたら、いつの間にか私の意識は闇へと落ちていた。














「はぁ…すさまじいね」


僕は春樹という少年の息があることを確認しながらつぶやく


僕の名前は古館悟、とある嬢ちゃんから変なおっさん呼ばわりされているがれっきとした二十代の若者である。まあ、来年で三十だけどね。


それにしても…すさまじい、第一層のボス部屋は激しい戦闘があった爪痕で一部が血みどろでボロボロになっていた。


ちなみに僕は外から中の様子をスキルでずっと覗いていた。


…まさか…一層で奴らが出現し、事を起こすなど、想像にしていなかった。


僕は倒れている嬢ちゃんの元に向かう。


嬢ちゃんは返り血で真っ赤に染まったレインコートを羽織ったままだ。


…これじゃ、まるで、赤ずきんだね。返り血だけど


そんなのしょうもないことを考えながら、嬢ちゃんのそばにかがみ、脈を確認する。


…よかった、気絶しているだけみたいだ。


「だが」


そう、この嬢ちゃんは呪神武器を使ったのだろう、大きな代償を支払って。


「はぁ…」


あの時の嬢ちゃんの力は異常なほどに強力だった、いくらゴブリンとはいえ神位に該当するゴブリンゴッドをほとんど一方的に葬ったのだから、たかだがレベル10で、…一体どんな代償を払ったのか想像がつかない。


だが、一度、代償を払えば呪神武器は心強い味方となる。そうこの嬢ちゃんは僕が所属する探索者協会にとって強力な戦力になるだろう。


だから…奴らに殺させるわけにはいかない。


「…いるんだろう?アパスルの執行使徒」


「あれれ、ばれちゃいましたか」


そうして現れる制服を着た仮面の女。


「アパスル」それは僕が、僕ら探索者が所属する探索者協会と敵対する謎の組織。


その構成員はなぜか全員が黒い仮面を被っている不気味な存在だ…イタい連中ともいえるかな…そしてその構成員のなかで指導者的な役割を持つ者たちがいる。


それが「執行使徒」だ。…ほんとこいつらネーミングセンスねぇな。


…執行使徒は一人一人が「使徒スキル」持ちか呪神武器持ちであり、その実力は他の探索者とは隔絶している。


執行使徒ひとりで現代の軍隊の一個師団を蹴散らせるぐらいだ。人間戦略核兵器とも評される。


「まあ、狙いはだいたいわかっているが…何の用だ?」


「もちろん、その子を処分するためにここにいるんですよ」


まあ、そうだろな


「駄目だね、この子は探索者病院に連れていく」


「別にあなたの許可なんて取りませんよ」


僕は腰からロングソードを引き抜く、ダマスカス銅を魔法で強化した刀身を持つ剣だ。


「ならば、ここで君を切る」


「お得意の言霊スキルは使わないんですか、古館悟さん?」


「ははは、第2席執行使徒さまに効く能力ではないからね。」


「…おっさんのくせにちょっと私を馬鹿にしてますね、あなた…それは、それは…てい、溶融砲」


唐突に奴、つまり第2席執行使徒「核熱の使徒」は奴が多用することで有名な「溶融砲」


を放ってきた。大蛇ほどに太い碧く輝くレーザービームがこちらに向かってくる。


それに向かって剣をつきつけ…言う


「否定する」


するとこちらに向かって来ていた碧く輝くレーザービームは消失した。


「…相変わらず、チートじみてますね。その能力」


「君のだけは言われたくないさ…それで、このまま戦いを続けるかい?」


「うーん、あなたと戦うのは、しちめんどいので今日のところは、さっさと撤退します♪」


そういうや否や、奴の姿が空間に溶けるように消えていった。


…気配を感じない、どうやらほんとに撤退したようだ。


それにしても奴ら、「アパスル」の目的は何だったんだろうか。嬢ちゃんに呪神武器を使わせて戦力に組み込もうとしていたのか…いや違うな、奴らの今の戦力は過剰なぐらいだ、恐らく本当に奴らは嬢ちゃんを殺すためだったのだろう。なぜだ?なぜ嬢ちゃんを狙う?


…そういえば「核熱の使徒」は嬢ちゃんに「代行者」と言っていたな…


代行者…俺の「否定者」と同じような力か?


ならばそれが狙われる原因になったということか、しかし[代行者]なんて力は聞いたことがない。…それに奴はなぜあっさり身を引いた?


…まあいつまでもこんなところで考え事をしていてもらちが明かない。


取り敢えず嬢ちゃんたちを探索者病院へと搬送するか


そして僕は嬢ちゃんを抱え上げて、歩き出す。










「…ここは?」


気が付いたら私は一面真っ白な空間にいた。


「にゃー」


と、目の前にいつかの三毛猫がいた。


なんだ、ここは、私は夢を見ているのだろうか。


「にゃー」


…うむ、目覚めようとしても目覚められない。どうしたものか


「にゃー、にゃー」


にしてもまるで現実のような夢だな。ん…まてよ、似たような状況を聞いたことがあるような。…そうだ!春樹が見たっていう夢と酷似している。猫もいるし


「にゃー、代行者」


そうすると、今は何か特殊な状況と…え


…今、この猫しゃべらなかったか?


「にゃー、代行者、目覚めるにゃ」


…うん、人語話してるなこの三毛猫


「にゃー、戦いのときはそう遠くはないにゃー」



…なんだろう、なんかめちゃくちゃ不穏なことを言ってないかこの猫。














ぼんやりと意識が覚醒していくのがわかる。


そして、ゆっくり目を見開くと、白い天井が見えた。


「…ここは?」


…知らない天井だ。


あれ、私はなんでこんなところに。


…そうだ!ゴブリンゴッドとやらを打倒した後、意識を失って…


ああ!そういえば春樹の安否を確認しようとして!


あわてて起き上がり、あたりを見回してみる。どうやらどこぞの病室のようだ。


…一体なぜ?


「やあ、起きたかい嬢ちゃん」


と、奥の扉が開いて、誰かが…ああ、変なおっさんか、が入ってきた。


「おっさん!」


「…そういえばまだ名乗ってなかったね、僕は古館悟っていうんだ。」


「そうか、で変なおっさん、聞きたいことがある」


「…名乗ってもおっさん呼びは変わらないんだね…もういいや…で、なんだい」


「春樹の安否は?」


「彼かい?彼なら別の病室にいるよ、僕が見たときはまだ目覚めてはいなかったけど、けがはしていない」


「そうか…」


よかった、どうやらあの戦いの巻き添えにはなっていなかったようだ。


「…まだ聞きたいことがあるんじゃないか嬢ちゃん」


と、突然おっさんが真剣な表情で言う。


「…聞きたいこと?まぁ…ここがどこかとか、…あの黒仮面の女の事とか」


うん、たくさん聞きたいことがあるな


「ああ、話すよ、僕らと…奴らについて」


僕らと…奴ら?


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