第97話

 煉チャンネルのSNSに生放送の告知が投稿された。

 タイトルは『【雑談配信】色々振り返り配信』であった。煉チャンネルでは全く行っていなかった雑談配信。そもそもこれまで一度しか行っていなかった生配信である。すでに視聴者は興味津々であり、開始30分前の待機所には既に多くの視聴者が待機していた。


【早く始まって欲しい】

【楽しみ】

【振り返りか、この前のテロのこととか聞けるかな?】

【煉くんはあんまり言わないような気がす】

【そうね】


 その反応を見ながら優弥は呆れ顔であった。


「煉が生配信やるってだけでこの反響。凄いね」

「そうか」

「そんな注目されてる配信でアレを流すって...まあ悪い手では無いだろうけどね」

「出来るだけ自然に頼む。一応仕込みは用意してるが」

「了解」


 煉は今回考えた嫌がらせ配信は、通常の人なら効果は皆無だと思われる。しかしユラや来栖から聞いた主人マスターの行動や今回の騒動を考えた結果、効果があると思った。


 そして配信がスタートする。


【始まった!】

【煉くーん!!】

【始まった!!】

【おーい】


「こんばんは、煉です。それと」

「友人くんです」

「何かこいつが質問が多すぎるから雑談でもしろと言ってきたので、やることになりました。多分今後やる予定はありません」

「おい! この前の騒動の後とか炎上レベルで質問が殺到したんだからね。頼むから定期的にやってください」


【今後も雑談配信希望】

【配信開始直後にもう2度とやらねー宣言は草】

【初心者講座なら生配信で質問に答えるのもいいのでは】

【というか友人くんが早速この前のテロに触れたぞw

 w】

【これは聞いて良い流れ?】


 友人がこの前の騒動、つまり国際カンファレンスでのテロについてさらっと触れると、案の定視聴者が飛び付く。


「ああ、カンファレンスでの話ですか? まあ話せる範囲なら良いですよ。まあこのチャンネルの振り返りとは関係がないからほどほどにですが」


 煉はその反応に消極的な態度を取りつつ話し始める。主人や『ロイヤル』、『スロウ』のこと。『天廻』の連中に探索者たちが倒された後のことを中心に。

 ここで煉が意識することは、事実を語ることである。そして選別について聞かれた際もある程度素直に答える。


「特別なという点では、前にクリアフィで守護者からドロップした『スキルオーブ』で獲得したスキルは特別かもしれませんね。他は特には思い付きませんが」


【『スキルオーブ』!!】

【それは特別】

【実在したんか!】

【どんなスキルなの?】


「すみませんが、このスキルは切り札的なモノなので詳細は言えません」


【探索者のスキルを聞くのはマナー違反】

【それはしゃーない】

【気にしないで】


 言えないことは言わない。原初スキルについて仄めかす程度はしてもそれ以上は語らない。ただやはり一度、テロの話になるとそれ以外の話題に転換することは難しい


【探索者が倒されたときどう思いましたか?】

【煉くんは『ロイヤル』と戦ったんだよね】

【てかそろそろチャンネルの振り返り聞きたい】

【確かに】


 しかし幸運なことに話題の転換がしやすいコメントがあったのでそれに乗っかることにする。


「そうですか...ならこの前の話はこの辺にします」


【えー!!】

【もっと聞きたい】


「時間も限られてますしすみません」


【まあ本来テロ騒動は煉チャンネルと無関係だしね】

【しゃーない】

【それなら、『アトラ』について聞きたい】


「『アトラ』ですか...えーとゆうじんくん?」

「友人くん呼び全く慣れてないね。ほいっ『アトラ』の動画映した」

「動画を見つつ振り返っていきます」


【おお、本人解説付きだ】

【助かる】

【もっとカンファレンスの話聞きたかった】


 この前、煉チャンネルに投稿された動画。煉が『アトラ』を探索し最後に『海王』を倒す動画である。ただ投稿した動画には『海王』に会う前の選択の間の出来事はカットしてあった。しかし今回の配信ではカットしていないバージョンを流してしまう。


「あっ!」

「どうした?」


【どうした友人くん】

【ポカった?】

【うん? これ何か前と違う?】

【確かに...】


「これ、この後のシーン、カットしてないやつだよ」

「この後? 結局カットしたんだ。別に本人に許可取ったんだからいいでしょ」

「でも」

「もし何かあったら本人に謝っとくよ」


【なんだなんだ?】

【気になる】

【『アトラ』なら『Fairy-Fairy』か『Chaos』と出会ったと予想】


 そんな視聴者の予想は裏切られることとなる。選択の間、『水妖精ウィンディーネ』の登場、海王撃破後の諸々。それらは見ている視聴者に途轍もない衝撃を与えた。


【えぇ...】

【ウィンディーネ、ダンジョンの君主?】

【意味わからん】

【すげぇ】


「じゃあ次の振り返りを―」

「いやもう少し解説を」


【ほんとそれ】

【解説してくれ頼む】

【衝撃だけ与えて次は...】

【ちょっと待ってくれ】

【まだ立ち直れてない】


「じゃあ取り敢えずウィンディーネのことから解説しますね」


 こうして生配信のかなりの時間を『アトラ』での出来事の解説に取られることになったのだった。


 ―――――――――――――――


 生配信が終了した。

 結局あまり振り返りはできなかった。ただこの生配信は煉の想定通りにいったと言って良い。これで目的が果たされるかは分からないが。


「反響は凄いけどね。話を聞いた限りだと配信で主人とかについて注意喚起したり、そういうスキル持ちの人は隠れるように言う方がいいんじゃないの?」

「主人たちの対策はユラさんが、原初スキルの対策は来栖さんとドリーがやってる。俺の今回の目的は狙いを俺に向けること。簡単に言えば挑発に近い」

「挑発?」

「色々と総合して主人は『傲慢』だ」

「それはスキルの話?」

「性格含めての話。目立ちたがりとかかまってちゃんと評しても良い。ただ原初スキル持ちを探すだけならチャンネルをジャックする必要は無いだろ?」

「そうかもね」


 チャンネルをジャックしてただカンファレンスの映像を写すだけなら、まだ分かる。しかし主人が動画に出演する必要性は無かった。それは今回のテロの主犯であることをアピールしたかった、自分が今回の主役であると認知されたかったのだろう。

 ここで煉が積極的に注意喚起をするのは主人を喜ばせることになる。逆に徹底して語らないのも煉たちが主人を意識している証拠である。それも良いとは言えない。


「今回、主人たちについて言える範囲で言った。その上で『アトラ』の話題が勝った。俺や優弥ではなく視聴者が選んだ結果、主人は主役を奪われた」

「確かに嫌がらせだね」

「まあ普通の人には全く効果が無いからどうなるか分からないが」


 自意識過剰かもしれないが、煉自身をどうにかしようとするならば、主人たちでもそれなりに準備期間が必要だと思う。もし今回の挑発に乗るほどの目立ちたがり馬鹿であればその期間中はユラや来栖さんたちの対策が邪魔されるリスクは減るだろう。


「...てか僕も挑発に荷担したことになってない?」

「俺らの演技が自然なら、故意に挑発してないからお前が狙われることは少ない。ルシファの例があるから投稿主が狙われる可能性はゼロではない。主人の性格的に一般人を狙って弱い者虐めのレッテル貼られるのは嫌がるだろうが」

「...まあしょうがないね。このリスクを嫌がるくらいなら、煉を動画投稿に誘う資格は無いからね」

「悪いな。一応防護は考えてる」

「助かるよ」


 こうして煉による嫌がらせ配信は大盛況で幕を閉じた。これが上手くいったかどうか分かるのはこれよりかなり先の話となる。

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