第80話

 国際カンファレンス開催が迫ってきた今日、煉は久しぶりに相模ダンジョンの深層に来ていた。


「やれることは前より格段に増えたが、使いこなせなきゃ意味がない」


 煉は周りの探索者に比べスキルの習得が早い。そして『王剣グラル』は『暴食』により喰えば喰うほど強化されていく。これによりやれることはどんどん増えて行ってる煉だが、果たしてそれらをしっかりと使いこなせているかと言えば疑問である。ついつい『暴食』や次元流剣術という高火力で汎用性の高いスキルに頼ってしまっている。それが一概に悪い訳では無いが、今、煉が一番興味のあるモンスター『海神蛇』は間違いなく原初スキル持ちである。とすれば『暴食』は通用しない。となれば煉が普段あまり使っていないスキルにフォーカスを当てていくのもアリだと考えたのだ。

 

「まあこんなもんか」


 とはいえ煉が覚えたスキルは兎も角、グラルな吸収した能力は元の能力の劣化版であるため、活用するのためには様々な工夫が必要だろう。一朝一夕では難しい。


「あとは…そうだ前からやろうと思ってたアレが残ってた」


 煉が言うアレとは、『色欲』を入手したときからやろうと思っていたが中々やる機会がなく今日までやれていなかった『本能覚醒』の完全解放である。


「前にセーブして『本能覚醒』を使った時もそこその強化率だったしな。…一応持続性ポーション飲んどくか」


 『蟲の女王』が蟻たちに使っていた時は生存本能を覚醒させ、身体を異常に強化した結果、その強化に身体が耐えきれず生命を脅かすという本末転倒的な結果となっていた。煉もそうなるとは限らないが安全性は多少でも確保しとくのが良いと判断した。

 そして準備を終えた煉はスキルを発動する。


「『本能覚醒』」


 そこで煉の意識は途切れる。


―――――――――――――――


 『本能覚醒』の本来の使い方は、本能を強化した上でその本能に即した命令を授け実行させることでたる。具体例を挙げれば、蟻たちは生存本能を強化された上で『生存のため敵対する存在を排除せよ』や『種の生存のため女王を守れ』といった命令を実行させられていた。

 しかし煉は今回、そのような命令を自分に授けずに『本能覚醒』を発動した。そのため煉は、本当に本能の赴くままに行動することになった。


「『空間断裂』」


 探索者の本能を限界まで強化された結果、モンスターを薙ぎ倒しダンジョンを進む獣と化していた。


「......『炎獄』」


 ただ探索者として死骸を放置しないという意識は残ってるのか、素材となるモノは『亜空』にしまい、それ以外は燃やすという普段のルーティンは変わらず行っていた。煉にとってこれらの行動は本能レベルに染み付いているのかもしれない。


『『魔力掌握』』


 周りのモンスターを殲滅し終えた煉は、『魔力掌握』で作り出した外部魔力の足場を使い、軽やかに空中歩行で移動するのだった。


―――――――――――――――


 煉が意識を取り戻す。辺りを見渡すと見覚えのある部屋に来ていた。


「ここはダンジョンボスの部屋か? 何も無いが...本能のままボス部屋まで来たのか?」


 時間にして30分弱、『本能覚醒』を使用した位置からここまで来たとすれば、普段の煉よりもかなり早い。ボスモンスターも倒しているのだから探索に支障は無いのかもしれない。ただ、意識を失った状態でダンジョン探索をしても面白くも何ともないので『本能覚醒』の完全解放は封印される運びとなった。




 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る