第56話 ヴィーナスリング
火曜日の放課後、来栖の研究室に来た煉の前には綺麗な指輪が置かれていた。
「これは『ヴィーナスリング』。『色欲』を発動させると使用者も精神汚染されちゃうデメリットは極力抑えてるよー。もし不安ならグラルで喰らえば大丈夫だと思うーよ」
「そうですか」
煉は指輪を手に取り、いつの間にか取り出した『王剣グラル』を近づける。
「グラル喰え――っと、やっぱり反発しますね。ありがとうございます」
「ほんとに躊躇が無いねー。反発しなかったら腕ごと喰われてたよー」
「まあそうなったらそうなったで、治せますので」
「治せるからってやることでもないけどねー」
原初スキル同士の反発が実際に確認できて満足げな煉と、やるとは思っていたが本当にやられると若干引いてしまう来栖。
「『色欲』が付与されてるからー、状態異常、特に精神干渉系スキルへのちょー耐性が得られると思うよ。後は『色欲』の使い方しだいかなー」
「分かりました。ありがとうございます」
これで煉は、原初スキルが付与された装備を2つ持っていることとなる。スキルを得るよりも権能は弱まっているだろうが、原初スキルを2つも手中に納めた他に類のない探索者となったと言える。
「なんだか楽しそーだね」
「週末に行く予定のダンジョンについて考えてました。ダンジョンのギミックとして状態異常が――」
本人がどれほどこの事態を正しく認識しているかは分からないが。
―――――――――――――――
『
[はは、いいねいいね。どんどん開発しちゃえよ!]
[あーリーダー。島の開発はいいんですが、ダンジョンの攻略が滞り始めてますよ?]
リーダーと呼ばれた男は、酒を置いて秘書の方に顔を向けた。
[まじか。この前勧誘したヘマントは?]
[頑張ってくれてますが…]
[そっか。それなら他のを勧誘するしかないか。えーと候補者としては…神埼煉。日本人じゃん。この子とかどう?]
[神埼…彼は会えるかどうか分かりませんね。何度かメッセージは送ってますが断られてますので]
[ふーん。そっか。なら取り敢えず日本で勧誘活動するついでに神埼煉にも会ってみよう。大丈夫。アイツのスキルならワンチャンあるって、なぁ!]
突然声を掛けられた少女は、怯えたようにビックリと身を震わせたがすぐにか細い声で返答した。
[は、はい]
[頼むぜ本当に。あ、そう言えば最近、効力が落ちてきたって先方が怒ってんだった。おい日本に行くまで植物部屋でやすんどけ]
[は、はい]
少女が退出するのを見届けた男は、酒を飲みながら秘書とこれからのことについて話し始める。
[かの国についてはこれまで通りでいいが、他の国がな]
[同士はかなり集まりましたが、今いる同士たちだけでは、国家に襲われたら厳しいですからね]
[そうだな。アイツのスキルは俺らと同じような境遇の奴らには効果があるからな。とすると日本は探索者がかなり冷遇されてるんだよな?]
[はい]
[なら、チャンスはあるだろ。確かに胡散臭いと断られることは多いが、実際にアイツのスキルを体験すれば考えを変える奴らは多いしな。だろ?]
[はい。そうですね]
『理想郷計画』の次の目的地が決定するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます