第36話 ミナミの惨劇
それなりに探索者として活動している煉も聞いたことのないスキル名に困惑してしまう。
「『憤怒』ですか?」
「知らない? まあ緘口令敷かれてたしレンレンが知らないのも無理はないか。昔、探索者の1人がそのスキルを習得してダンジョン内で大暴れしたんだよ。それでかなりの死者が出た。」
「…もしかして『ジキルとハイド』ですか?」
「よく知ってるね。その『ジキルとハイド』が起こした『ミナミの惨劇』は彼が習得していた『憤怒』スキルによって引き起こされたんだ」
『ジキルとハイド』とは昔、関西方面で活動をし何度もダンジョンクリアを成し遂げ、氾濫も何度も終息させた英雄。しかしそんな人物が起こしたダンジョン内部での探索者の殺戮事件。それが通称『ミナミの惨劇』であった。その事件自体は煉も知っていたし、その事件を起こした探索者も子どもながらに憧れてた思い出がある。その分、事件を知って少しショックだったのだが。
「『ジキルとハイド』が持っていた『憤怒』は自身の能力を何倍にも高めるバフ系の能力だったよ。代償に高めた分だけ感情が怒りに染まる。あの時、彼の能力を遥かに越えるモンスターの群、後ろには守らなければならない多くの仲間。彼は限界を超えて『憤怒』を使用した。そのお陰でモンスターの群は撃退できた。その代償に怒りに身を任せた彼は、守りたかった仲間に…とまあそんな話」
『ミナミの惨劇』の概要を語る来栖の表情は何だか辛そうに見えた。
「知り合いですか?」
「『ジキルとハイド』? しーらない」
「そうですか。…じゃあそのスキルオーブは来栖さんに預けていいですか?」
「‥いいの?」
「今、それを使っても自分じゃ使いこなせなさそうですし、来栖さんなら何とかしてくれますよね?」
「うん…ありがと」
「お願いします。何かありましたら連絡してください」
そう言って煉は来栖宅を後にするのだった。
煉がいなくなった室内で『スキルオーブ』を見ながら来栖は呟く。
「やっぱり似てるんだよなーアイツに」
―――――――――――――――
煉は七つの大罪について考えていた。『憤怒』と『暴食』と続くのであれば他の大罪系スキルを発現する者も現れるかもしれない。
デメリットはあるが相手にするとなると厄介この上ない。
「大罪スキルか」
煉は思う。そういった奇想天外な相手と戦うのならば、自身もそういった能力を身に付けるべきだと。次元流剣術などが良い例だが、状況を打開できる切り札はあった方が良い。竜王戦も次元流剣術がなければじり貧だっただろう
とは言え一朝一夕で編み出せるモノでもないだろう。結局ダンジョン探索に、近道などないのだ。
「そう考えると『スキルオーブ』って怖いな。『スキルオーブ』を解析出来る所なんて限られているから、分からず使う場合がほとんどだし、それで強力だがデメリットが強いスキルを得る。ただの罠だろ」
そう考えると本当に近道などないと分かるのものである。
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