第25話 幼馴染みと受付嬢

 ダンジョンまでの道中、何を重点的に教えれば良いかを確認した煉は、ダンジョン到着後すぐにカメラを回し始める。


「今回は、知り合いに戦闘について教える動画となります。では早速教えて――」

「最初に私を紹介してくれないかしら」

「氷華です」

「あなたね…。こんにちは『氷天華祭』リーダーの氷華と申します。煉とは昔からの幼なじみと言うことで動画に出させて貰うことになりました。よろしくお願いします」

「では早速本題に――」

「あなたは自己紹介をしないのかしら?」

「なぜ? 俺の動画なのに?」

「この動画が初めてって方もいるのよ?」

「そうか…こんにちは煉です」

「よろしい」


 氷華の提言を聞き入れた煉を見て彼女は満足げに頷いていた。それはそうとようやく本題に入っていく。


「魔法は俺も本職じゃ無いけど、スキルと同じで使いこなす必要がある」

「使いこなす?」

「魔力操作を練習すれば、魔法の効果範囲、威力、その他諸々を自由にカスタマイズすることができる。極端な話『火球ファイアボール』で『点火』から『灼熱』まで再現できるようにもなる」

「それは、凄いわね」

「そうやって自由にカスタマイズすることで新たな魔法やスキルを生み出すこともある。そのためにも魔力操作の練習は続けるべきだ。その練習を続けていけば同時に『魔力感知』習得できるしな」


 魔法は覚えているがあくまで本職は近接戦闘である煉に、魔法戦闘主体の氷華に教えられることは少ない。そのため実践的なものが多くなる。


「前衛はモンスターの動きを見て接近するかしないか判断してる。接近を開始する直前に魔法で攻撃を加えると動きが変化する危険がある」

「でも魔法を撃つ絶好のタイミングだったわ」

「タイミングは完璧だった。だからこそ俺の動きを把握して狙う場所と放つ魔法の種類を考えなきゃならない」

「…理解したわ」

「なら次だ」


 前衛役を煉が務め、色々な想定で動く煉に氷華が連携する。急造パーティに完璧な連携を求めるような無茶だが、氷華は持ち前の聡明さで煉の言うことをどんどんと吸収していくのだった。


「取り敢えず今日は終わりだ。今度、パーティが集まれる日にでも続きをやる、でよかったか?」

「お願いするわ」

「じゃあ協会の受付に寄ったら帰るか」

「ええ、そうね」


 煉の個人レッスンは夕暮れまで続いた。煉はいつもよりかなり浅層での探索なので疲労している様子が微塵もないが、氷華はかなりキツそうであった。

 そのため少し早めではあったが、レッスンは終了して帰還することにした。そしていつも通り協会支部の受付に今日の成果を提出しに行ったのだが、氷華は久しぶりに相模ダンジョンに来たので、勿論支部に来るのも久しぶりであった。そのため氷華は1人の受付嬢と旧交を温めていた、


「…お久しぶりです摩耶さん」

「お久しぶり氷華ちゃん」

「まだここに居たんですね。昇進したと聞いたのでもう本部にでも栄転なさったのかと」

「氷華ちゃんこそ、最近はここに来なくなったから飽きたのかと思ってたよ」

「受付嬢が探索者の情報を知らないのはどうかと思いますが?」

「ごめんね。最近煉くんの、の専属になって忙しかったから」


 氷華と摩耶は会うとだいたいこんな感じで会話をしだす。氷華が摩耶に噛み付き、摩耶はそれを軽くあしらいながら煽る。


「2人は仲良しだな」

「煉、あなたの眼は節穴かしら?」

「そうか? 氷華は兎も角、摩耶さんは楽しそうだからな」

「そうそう、喧嘩するほどってやつだよ。ね、氷華ちゃん?」

「口を閉じていただけないかしら摩耶さん?」


 早めにダンジョンから帰還したのに、結局夜遅くに帰ることとなる2人であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る