第23話 氷華
朱里から連絡するように言われたので、氷華に電話をする煉。彼としては家も近いから会いに行けばいいとも思ったが夜も遅いのでおとなしく電話をすることにした。
「もしもし」
「もしもし! ひ、久しぶりね煉」
「久しぶりか? 学校に行くときとかにたまに見掛けるし、そんな感じしなかった」
「そ、そうなのね。気が付かなかったわ」
「そうか。電話で伝えたところで伝わるか分からんが、特に後遺症もないし元気だぞ?」
「あ、そう。それはよかったわ。竜王のブレスを直撃したときは本当にビックリしたんだから」
「すまないな。一番早く倒せる方法があれしか思い付かなかったんだ」
「それでも、あなたが傷付く必要はなかったと思うわ。無傷で倒す方法が無かったのなら撤退も考えるべきだわ」
「そうか」
「そうよ」
氷華の心配性は相変わらずである。あの戦いを見て煉を叱ってきたのは彼女が初めてであった。そこに彼女らしさを感じるのだ。
「そういえば優弥に聞いたが、お前も動画配信をやってるんだな」
「ええ。祭がどうせやるなら形に残したいって言って、もう1人の
「見たのか。すまんな。俺は氷華の動画は見れてなくて――」
「見なくていいわ」
「そうか?」
「ええ、絶対に見なくていいわ。分かった?」
「わかった」
知り合いに動画を見られる気恥ずかしさは煉も思うところがあるので、特に詮索することもせず了承する。
「じゃあそろそろ夜も遅いし切るわ。じゃあ」
「あ、待って…」
「なに?」
「えーと、その、あなた今動画のネタに困っているわよね?」
「よく分かるな。その通りだよ」
「わ、私たちと一緒にダンジョンに行って動画を撮らない?」
「はあ? なんで?」
煉は氷華がどの程度の探索者かは、把握していないが、おそらく中層付近を探索しているのだろう。となると一緒にとなると煉が氷華に合わせる形となる。動画のためだけに中層付近をうろちょろはしたくないのが本音である。しかし氷華はそんな煉の考えは折り込み済みであった。
「私たちのパーティー、中層から下層に行こうと頑張ってるのだけど、そろそろ誰かさんの助言が貰いたいの」
「…了解」
「その風景を動画で取れば良いわ。初心者に助言をするあなたという構図で」
「ありがとうございます」
小学校の頃からダンジョンに興味があった煉は、数少ない友人に片っ端から一緒にダンジョンに行くように誘っていた。勿論氷華や祭にも。その時に言った言葉が
「もし何かあれば俺が助けてやるからさ」
であった。この約束を引用すると煉を即座にダンジョンに呼び出すことが出来るのだ。義理堅い煉だからこその効力なので過去、この約束が持ち出されたのは数回程度。そのため少し違和感を覚えつつも煉は素直に従うのだった。
―――――――――――――――
煉との通話を終えた氷華は続けて親友に電話をかける。
「まつりー」
「おお氷華。誘えた?」
「誘えたわ」
「ちゃんと4日後の半日授業の日にした?」
「ええ、そうしたわ。煉がこっちまで迎えにきてくれるそうよ」
「さすが煉。義理堅い。取り敢えず氷華はそこで頑張ってよ。いつまでもオロオロされても困るし」
「わ、分かっているわ。大丈夫よ」
「さてさて。じゃあ私は朱里にお礼言っとくから」
「私も後で電話するわ」
「りょ!」
親友にも今後の予定を伝えた氷華は、ほっと息を吐き机の上に置いてあるカレンダーの4日後の日付に印をつけた。
「よしっ!」
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