鈍感令嬢ですが幽閉先で魔王に求婚されています(でも魔王の姿が見えないのですが……えっこのはりねずみがそうなんですか?)
雨宮いろり・浅木伊都
第1話 祝・幽閉
「アマリリス・デル・フィーナ。明日をもって貴殿の身柄を辺境領ドラセナ城へと移し、以後王都への帰還を禁ずる」
訪れた執務官の冷静な声に、私は耳を疑った。
「つまり、私は――ドラセナ城へ幽閉される、ということですの?」
「その通りだ。今後、貴殿が王都の門をくぐることは許されない」
「……」
「気の毒だが、王命は覆せぬ。荷物をまとめて、明日には出立せよ」
「承知いたしましたわ」
私は物分かりの良いふりをして、執務官がゆっくりとドアへ向かうのをじりじりと見守る。
そうして我が邸宅の、少しきしみがちな扉が閉まるのを待って――。
「やったぁあああああああああ! ついにっ、ついに王都から出られますのね~!」
歓喜の声を上げてしまった。
扉の外に丸聞こえだっただろうか? いやもう心底どうでもいい、だって私は自由の身!
「何しろ今までは、ちょっと家の外にお買い物に行くのにも護衛だの侍女だのがぞろぞろついてきて、きゅうくつだったんですもの~! ドラセナ城ってあれですわよね、辺境領にあるところ! 自殺の名所ですわ~!」
ドラセナ城は、ドラセナ辺境伯の持ち物だ。
レ・ケーリョという名の森に囲まれており、近くの村に行くのにも幾日かかかるド田舎らしい。
しかも魔獣がうようよいて、特に魔狼の群れに襲われれば、骨の一本も残らないともっぱらの評判だ。
素晴らしい。最高だ。魔狼に死体を片づけてもらえるのなら、自殺の名所にもなろうというもの。
「しかも王都への帰還を禁ずるということは、私、ついに後継者争いから降りられたんですのね。ああ、最高……っ」
そう、私アマリリス・デル・フィーナ十八歳は、何の手違いか、国王陛下の血を引いてしまっていた。
父親がこの国――タスマリアの国王なのだ。
それゆえに、私が女王として王位につくという選択肢もありえてしまった。
何しろこの世界は血筋によって魔力の質が変わってくる。
質次第では国一つを滅ぼせる「杭の獣」だの「禍根の獣」だのを召喚できてしまうため、国を統べる王はできるだけ血統が良い方が良いのだそうだ。
でも。
「お母様はただの司書ですし、何度鑑定しても、私の魔力は平凡そのもの。ただ『私の産む子どもが、ものすごい魔力を持っているかもしれない』。この一点のみで今までぐずぐずと後継者争いに居残っていたわけですものね」
正直国王なんて立場を狙う気なんてさらさらなかったし、勝ち目も非常に薄かった。
だからあまり敵視されていなかったのだけれど、こうして幽閉されるということは、王位継承争いに何か動きがあったんだろう。
王位継承権を持っている人間はざっと十五人。
彼らの派閥やら利害関係やらが変動し、結果として私が幽閉される運びになったわけだ。
「いやー、暗殺される可能性もあった中で、幽閉というのは上々の仕上がりじゃありませんこと? ま、幽閉してそのまま死ぬのを望まれているのでしょうが、この自由を味わい尽くすまでは死ぬものですか」
自由。十八年の人生で初めて手に入れたものだ!
どこに行っても咎められない、怪我をしても怒られない。
一挙手一投足を評価され、勝手に期待されたり、失望されることもない。
もちろん、状況はちゃんとわかっている。幽閉された身にあまり未来はない。
餓死するか、病死するか、あるいは殺される可能性だってある。
だけどそれまで、私の人生は私だけのものだ。
「ああ、こうしちゃいられませんわね! 使用人たちの紹介状を書いて、修道院の支援体制を引き継いで、引っ越し準備をして……忙しくなりますわよ~!」
私はいそいそと立ち上がり、心なしかいつもより足音を立てて、部屋から飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます