トラックに轢かれるのが特技なんだが未だに異世界転生できません

梓馬みやこ

(前編)16歳の誕生日に。

 通算、210と3回…

 俺がトラックに轢かれた回数だ。

 ラノベだのコミックスだので異世界転生が流行っている中、それほど書籍化されているなら実は本当に異世界転生してるやつもいるんじゃ!?などと思ったのが16歳の誕生日だった。

 昔から異世界ファンタジーが好きで割と本気で16歳の誕生日に異世界に召喚されるのではと思っていた。



 オレの16歳の誕生日は、何事もなく過ぎた。




 誕生日の翌日。俺は本気で異世界転生をしようと、トラックに轢かれてみることにした。



 210と4回。

 人生でこれほどトラックに轢かれる人間はそうはいまい。

 今まで不幸だと思っていたがこうなるともはや幸運体質以外の何者でもないのではないだろうか。しかも、大体無傷だ。


「危ない!」


 右折巻き込みを狙って横断歩道を渡ってみたが、バーコードはげの勇敢なおっさんに俺は助け(?)られた。


「君、大丈夫かい? ……あぁ、怪我はなかったね、良かった」


 そう爽やかに白い歯を見せて眼鏡をきらめかせたおっさんが妙にカッコよく見えてどうしようかと思っただけでその日は終わった。

 おっさんは勢いつけて乱れた髪を風になびかせながら颯爽と去って行った。



 その翌日。

 俺はちょっと冷静になってしまっていた。

 飛び出しをして俺を轢いたトラックの運転手は、過失致死とかなんとか罪の問われて職を失うかもしれない。

 俺も本当に死んだらどうしよう。


 考えてみれば、今まで轢かれてきたのは俺の意図しないところでの話だった。

 自分から飛び込んだら本気で死ぬかもしれない。


 そう考えたら、自分の危険も顧みず助けてくれた昨日のバーコードのおっさんが勇者に見えてきた。

 あのバーコードもレジでスキャンしたら300万くらいの価値があるかもしれない。

 俺は異世界転生の方法を別のアプローチで考えてみようと思っ……




 キキキキィーーーーー! ドン!



 耳をつんざくような音とともに、信号無視の大型トラックがつっこんできた。

 通算210と5回目、俺はトラックに轢かれた。



 こうなるともう特技としかいいようがない。

 初めて俺が「トラックに轢かれた」と認識したのは5歳の頃だった。

 すこし小柄な俺は当時の身長なんて1メートルにも満たず、道反対側の公園の砂場までふっとんだ。トラックに轢かれたというより全身砂まみれになった記憶の方が強烈だった。


 あまりにも轢かれるので両親が記録を付け始めたのもその頃。

 俺がカウントを始めたのは小学校6年の頃。

 だから本当はもっと轢かれている。


 今日も異世界転生は出来なかった。

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