第21話
「はい?」
「だからサボろ。」
「いやいや聞こえてますよ。じゃなくて何言ってるんですか。名物の一つなんですよ?それをサボるなんて…。」
応援合戦はリレーに次ぐ体育祭の目玉。
これをきっかけに私も望まない知名度が上がってしまったくらい、注目されている。
一部の人はリレーよりも熱を入れているくらいだし、初参加の1年生でさえもこれが大きいことだと知っている。
「先輩のクラスだって張り切っているし、私の学年もお近付きになるためにって…。」
「知ってる。でもそれって黒崎さん目当てが多いでしょ。さっきも囲まれてたし、それが分からない君じゃないでしょ。」
「それは、そうですけど…。」
「あんな無防備で可愛いところ見せたくないし、何より黒崎さんには私がいるでしょ。」
チア衣装はさすがにやり過ぎだった。特に彼女は細身なのにものすごくスタイルがいいから絶対下心ありでしか見られないだろう。
「それはそうですけど…って今なんて?」
「ん?黒崎さんには私がいるじゃん。」
「その前!」
「無防備で可愛いんだから見せたく…な…。」
改めて言うのすごく照れるんですけど。
え、これまさか何度も言わされるという新手の嫌がらせかな。
「先輩、あの時可愛いって思ってくれたってことですか…?」
「えっと…。」
「答えて下さい。」
「そうだよ。衣装姿を見たとき似合ってたし、可愛いと思ったんだよ。」
つい目線が合わせられなくなり、視線を外す。
「じゃあどうしてそれを言ってくれなかったんですか。」
「はぁ、もっと黒崎さんは仮でも付き合っていることを自覚すべきでしょ。あんな無防備なところ見せたくないから着替えろって言ったのに。」
「そ、そうだったんですね。てっきり…。」
ここまで言うつもりはなかったけども、黒崎さん本人が思っている以上に人気があることを自覚してほしかった。
「ひどい態度とっちゃってごめんなさい、先輩。」
「私こそ言葉足らずでごめん。」
一時はどうしたものかとヒヤヒヤした。
元々好かれてないけど、これ以上黒崎さんには嫌われたくなかったから。
一件落着かな。
「じゃあ仲直りにだ、抱きしめて下さい!」
「ぅえっ!?」
落着してなかった。
それどころか爆弾放り込んできた。
どこから抱きしめるという発想になったのか。それにじゃあってなんだ!!
「ダメなんですか?」
「いや、だって…付き合っていても仮だし。」
「ダメなんですか?」
圧が…。
断ろうとするとジト目で見てくるのはなぜ!
なぞの圧力を感じるんだけども。
「線引はやはり必要というか。」
「綾乃ちゃんとはあんな情熱的に抱き合ってたのに?」
み、見ていたの!?
こっち見ずに無視してたから見てないかと思っていたのに。
「恋人が他の女の子と抱き合っていたら浮気を疑いません?」
「いや妹だからね!?」
「妹にできて恋人にできないんですか?」
「妹にするのと黒崎さんにするのは意味が違うというか…。」
「やらないと許しませんよ。」
これは逃がしてはくれないようだ。本当にやらないと本当に許してくれない。
このまま喧嘩別れも嫌だし、覚悟を決めるしかない。
「分かった。」
バクバクと鼓動が速くなるのをなんとか無視して黒崎さんを抱きしめる。
抵抗しない彼女はすっぽりと腕の中に収まる。
「ぁ…。」
戸惑いながらも腕を回してくれることになぜだが嬉しく感じる。
触れることを許してくれているみたいで…言葉にできないが、綾乃の時と違う気持ちになる。
「これで、どうかな。」
「しょうがないですね、許してあげます。」
少し上からの物言いだが、満足そうに微笑んでくれる彼女が可愛いと思った。
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