退廃

万華鏡を傾けると極楽が見えることがある

向こう側は楽園なのだと言う

そうなのだとしたら私の部屋なんて見る価値はないのではないかと思う

こんなところを覗いて楽しいことだろうか

ここには枯れた花が折り重なっていて茶色くくすんで倒れ込んでいるだけ

褪せてしまった思い出たちが寄り集まっているだけ

舌の上で蕩ける飴玉 気怠げに光る真珠も 眠りを誘うオルゴールの音色も

ここにはなにひとつないのに

美しいものは消えてしまってどこにもありはしない

それでもあなたにとってはきっとこの場所こそが極楽なのだろう

なんだかとても

可哀想


瓶詰地獄に氷砂糖

現実なんて砂糖漬けにされればいい

容器の中の住人が

困ろうが 怯えようが 避難しようが 押し潰されようが 苦しかろうが

私の知ったことではない

あなたもそう思っているんではないんだろうか

私が悲しかったとき同じをことしたと言ってもあなたは気づかない そんな言葉に意味はない

誰かを傷つける言葉に意味はない

全く鈍感で羨ましい限りだ 私なんて今にも押し潰されそうで

ほら 空から大きな礫が降ってくる

なんて甘いのだろう


あなたは毎日嘘ばかりついて報われている

私は気の利いた言葉の一つも言えずに不貞腐れている

「そんなもの要らない」と言えたらどれだけ気楽なのだろうか私も大声で絵空事みたいな言葉を空に描いてみたりなんかして

みんなに自慢してやりたい

みんなに自慢してやりたかった

思い出は不可逆的で一度変わってしまったものは戻ることはない

熱で溶けた蝋人形や塩で溶けた蛞蝓が戻ることがないのと同じようにあの教室で皆して必死になって油絵を描いていたあの日も戻ることはない

決して戻らない日々とはなんと美しいのだろう

あなたはそんないつかの日常の残滓を私の箱庭に見ているのだろうか


知らないままが良かった

気怠げな目元

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