打ちひしがれたバースデーボーイ
あてもなく走り回ったが、残念ながら僕は健脚じゃない。すぐに疲れ果てて、ベンチを見つけるなりふらふらと倒れ込んだ。
目の前の案内板を見ると、僕はコルニクスの駐車場の、さらに端にある運動場まで来たらしい。駐車場を挟んで東側は学校らしく校舎が立ち並んでいるけれど、端っこの運動場はまるで市民公園みたいだ。
姿勢を直してベンチに腰掛けていると、ランニング中らしい格好のおじいさんが、パグと一緒に僕の前を横切っていった。
――あのパグも昼の国のパグなんだ。いいなあ、僕もパグになりたい。でもパグになったら歌えないか。
思えば僕は、今朝ホワイトパスを受け取ってからというもの、ずっとずっと頭の中で爆竹が鳴り続けているようにパニックだった。けれど今、ようやく少しだけ冷静になった気がする。たくさん走って疲れたせい。
ミッカと会うチャンスはまだある。少しくらいテストが長引いたって平気だ、僕らの家は自転車で行けるくらい近いんだから。
さあ、オリオン、考えるんだ。問題はそこじゃない。
僕はミッカとの約束を絶対守って夢を叶えたい。僕とミッカがバンドを組むにはどうしたらいい?
そう、僕にとって一番大事なこと。それは今日の午後八時を過ぎても、ミッカと一緒に過ごす方法を見つけることだ。
そんなことは不可能だって、普通はそう思う。それでも、もしかしたら普通じゃない方法があるかもしれないじゃないか。
幽霊になる……というのはダメだ! リスクが大きすぎるし、死んで自由にどこへでも行けるなら、世界中のみんながとっくに死んでるはずだもの。
きっと、十三歳になったばかりで特に賢くもない僕が、こうしていくら考えたって良い案なんて浮かばない。だから答えは探しに行くんだ。
どこへ行けばいい?
誰ならその方法を知っている?
もう十七時を過ぎている。僕は残りの時間をどう使うべきか……。
「バースデーボーイ?」
頭を抱えてローファーのつま先を見つめていた僕は、はっとして顔を上げた。いつの間にか、ベンチの隣に紫色のジャージを着た女の子が座っていた。
知らない子だ。カールした髪をオレンジ色に染めていて、僕より少し年上に見える。
「僕に用?」
「あんたは今日が誕生日で、予想外にホワイトパスを突き付けられて打ちひしがれてる少年?」
まあ、そう、と、僕はしどろもどろに答えた。慌ててタキシードを着たままおばあちゃんの家を出てきたから、誰の目にも誕生日だとわかってしまう。便利だけど少し恥ずかしい。本当に今更だけど。
「ちょうどホワイトパスに絶望してうなだれてる子を探してたんだ。こっちに来て」
そう言うと、女の子はすくっとベンチから立ち上がった。
一体、彼女は何を言っているんだろう。どこへ行くって? 何が起こっているのか全然わからない。
僕がぽかんとしていると、女の子は「来なよ」と、僕の顔を真上から覗き込むようにした。彼女の大きな黒い瞳は妙に迫力があって、ただ見つめられているだけなのに、僕は何も言えないし目もそらせない。
「いいから早く来とけったら。昼の国に何にも未練がないなら別だけど」
彼女はそれだけ言うと、すたすたと駐車場のほうへ歩いて行ってしまった。僕はわけがわからないまま、それでも急いで彼女を追いかけた。
答えがどこにあるかもわからない、賢くもない。そんな僕にできることは限られている。今は藁でも何でも掴みに行かなくちゃ!
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