第28話ー招かれざる参列者ー


 方舟都市外海に所属不明のステルス潜水艦が出現。

 その情報は即時企業連合内部に伝達された。


「はぁッ、はあッ……クソ、振り切れないどうなってんだ……!!」


 取り押さえられていた政府軍所属兵士、アッシュは粒子砲の衝撃でガンドックファクトリーの社員もろとも吹き飛ばされたが、これ幸いと逃げ出していた。

 だがその背中を見逃さなかったヒナキに追われていたのだ。


 ガンドックファクトリー製フルメイルアーマーには身体補助機能が備えられており、走る速度も持久力も常人を遥かに凌いでいるはずなのだ。

 だが振り切れない。

 

今、破壊された防護壁……いわば方舟都市の出口に向かって人混みをかき分け逃げていたのだが、目的の場所へ近づくに連れ人が少なくなってきていた。

 方舟都市の中心に向かって人々が避難しているのだから当然だが……。


 人が少なくなるということは盾にできる人間がいなくなるということ。


 それすなわち……人混みの中でも寸分違わず自分の位置を補足し追ってくる男が銃を使用できるということだ。


「ぐおッ……!!」


 後方で銃声。

 左膝後ろに凄まじい衝撃と激痛が走り、姿勢を崩して膝から転倒。

 膝を確認するとおびただしい量の血液が流れ始めていた。


「流石に背部関節部分なら貫通するか」


 後方にライフルを構えた赤いジャケットを着た黒仮面の男。


「鬼ごっこもここで終わりだ、アッシュ。何が目的で粒子砲を暴走させたか言え、さっさと」


「黙れ、バケモンが」


「バケモン?」


「お前もあっち側の奴らなんだろ。バケモンじゃなくてなんなんだ?」


「まあ半分はそうだよ。……また時間稼ぎか? 」


「いいや、もう稼ぐ必要もないさ。そこまで来てるからな」


 嫌な気配を感じ、破壊された防護壁の方に視線を移した。

 その後すぐに右耳のインカムからネロの声が聞こえてきた。


《しどぉ、ちょっとやばいかもぉ》


「外でなんか起こってるな、それか?」


《そぉ。潜水艦がカタパルトこっち向けてるぅ》


「カタパルト? なんか撃ち込んでくるつもりか?」


 砲塔ではなく、なにか大きな物を撃ち出すためのカタパルトを展開しているという。

 直接コチラを砲撃するのが目的ではないだろう。


「なんだ……?」


 防護壁の穴の向こうから黒い球状のものが飛んできているのが見える。


《しどぉ、ちょっとやばいやつかもぉ》


「何だあれ、ドミネーターか? それにしては感覚がちょっと……」


 フォンっという風切り音と共に防護壁の穴を通り抜けて方舟に侵入しヒナキの頭上を通り過ぎていった。

 全部で9つの球体は、今現在人々が避難しようとしている方舟都市中心部に向かって飛んでいっている。


 ビルにぶつかり、ゴムボールのように弾みながらも9つそれぞれが方舟都市中心部付近でバラバラに落下。

 底に向かって避難していた人々が驚きざわついた。

 落下地点にいた民衆がその黒い球体に潰されそうになったが、警備二脚機甲が身を呈して護っていたようで軽傷者が出たものの死傷者は出なかったようだ。


 《第1地点警備部隊から本部へ。方舟外から侵入してきた黒い球体を確認した。落下によるけが人今のところ数名確認しているが重傷及び死傷者はなし》


《こちら警備部隊本部。得体が知れない。その球体から人々を離れさせ、避難誘導を続行しろ》


《了解。避難誘導を続行……なんだ?》


 警備二脚機甲コクピットから黒い球体を確認していた兵士が、その球体がボコボコと泡立つようにうごめいている事を確認した。

 その機甲兵器は装備していた機甲兵器用の警棒を構えてその球体に対して半身に構えた。


《球体が蠢いている。……変形しているようだ》


《変形?》


《ああ……なにかごつい人型に……なんだ!?》


 警備二脚機甲からの通信に凄まじい衝撃を受けた音とともに大きなノイズが走った。

 

《おい、どうした!?》


 その蠢き始めた黒い球体に近づこうとした警備二脚機甲の胴体コクピット部分に異様な太さを持つ黒い腕が突き立っていた。

 直後、またも悲鳴の波が周囲を包む。


 短い足に異様に肥大化した上半身と、その肥大化した上半身を持ってしてもまた異様な大きさを誇る腕を持った黒い体表をもつ黒い人型の塊が機甲兵器を圧倒していた。

 ぎょろりとし人間のような巨大な目が、頭部と思しき場所に開眼し、周囲をせわしなく確認するような仕草を見せた。


 都市中心部に怪物ドミネーターが撃ち込まれた。


 その衝撃的な自体はこのパレードに来ていた民衆を絶望と混沌の渦に巻き込んでゆく。

 

 都市中心部を目指して避難していた民衆や観光客は一転、踵を返して今までとは逆方向に逃げ出していく。


《しどぉ、ドミネータぁ!!》


「嘘だろ……こんな都市ど真ん中で」


「ほら、のんびりしてて良いのか? 半分人間なんだろ、助けに行けよ」


「……あァ、お前をきっちり殺してからそうさせてもらうよ」


 このまま逃してしまうよりここで始末をつけたほうがいい。そう判断した。

 ライフル、MIG-6の銃口をアッシュの頭部へ向け発砲。


 5.56mm弾頭はメットを貫通しアッシュの頭部を破壊し、上半身を地面に倒れ込ませた。


「クソが……なんだったんだあの感覚……あの球体、あれじゃまるで人間の気配だっただろうが……」


 振り返るとコチラに向かって走ってくる人々の影が見える。

 奥に撃ち込まれたドミネーターから逃げて来ているのだろう。


「ネロ、屋上から援護してくれ」


《しどぉはどうするのぉ?》


「直接行って叩く。久々の対ドミネーター戦だ、ワクワクしてくるぜクソッタレ」


 都市の中でネロを暴れさせるわけにはいかない。

 ドミネーターが現れたため、他の警備部隊も対処に当たるはずだが……、次々に二脚機甲兵器が破壊されているところを見るに逼迫した状況になるのは間違いない。


 機甲兵器無しで叩くしかない。


 こちらに向かって避難してくる人々に逆らう形で、ヒナキは走り出す。

 そしてビルの屋上にいるネロは自分の背丈以上もあるバッグから中身を取り出した。


 取り出したのは対ドミネーター用超大口径狙撃ライフル。

 全長3メートル弱もあり、弾薬に至ってはネロの腕の太さ以上もある化け物ライフル。

 本来地面に固定し、3名体制でようやく1発撃てるような代物ではあるがネロはそのライフルを軽々と持ち、ビルの縁に足をかけて構えた。


「しどぉ、そこから先もっと人来るわよぉ」


《了解。抜けられそうな箇所があったら指示頼む》


「おっけぇ。……ん」


《どうした?》


「しどぉの横辺りにバカがいるぅ」


《バカ?》


 ヒナキとは避難民を隔ててはいるが、並走するようにしてもうひとり、ドミネーターにむかっている人物がいるらしい。

 その人物は巨大なブレードを背負っているようで……。


 避難してくる人混みを抜け、奇形人型ドミネーターが暴れている現場に到着する時にはメインストリートにその二人の男が肩を並べることとなる。

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