第21話
▫︎◇▫︎
Side. ライアン
義父上が医者を手配しながら走って義姉上のお部屋に向かっている。そんな状況を呆然と眺めながら、思考の処理能力を超えた事態に、俺はただただ無意識で足を動かしている。母上の顔色も今にも倒れそうなくらいにとても悪い。ここ最近は、義姉上の配慮のおかげもあり、だいぶ良くなっていたのに、逆戻りだ。
「………俺のせいだ………………。俺が、俺がっ」
気がつくと口走っていたのは、懺悔の言葉だ。俺が義姉上のことを立てなかったから。俺が義姉上にちゃんと配慮できなかったから。次々と思い出されるのは、嫌がらせと表して行った義姉上の優しさの数々だ。
バン!!
義父上がノックもせず、扉を乱雑に開いた。義姉上のお部屋には初めて入るが、とても女の子らしい感じのお部屋だった。思っていたのとは違うが、やがてもっと大きな違和感にぶち当たった。母上もそうだったのか、片眉が吊り上がっている。
「どうしてこの子のお部屋には魔道具が無いのです!?」
「………ディアは魔力が強すぎるんだ。魔道具は使えない」
苦しげに紡がれた声は、お人好しだけれど冷徹な義父上のものだとは思えなかった。彼はどちらかと言うと義姉上を嫌っているような印象を周りに与えていた。義父上は義姉上の眠っている寝台のそばに膝をつき、彼女の顔を覗き込んだ。酷く荒い呼吸に、真っ赤な顔、熱にうなされる彼女は毎夜悪夢にうなされて涙を流す彼女よりも、もっと酷い表情だった。
『お嬢さまをよろしくお願いしますね。彼女は存外繊細なお方ですから。おそらく今頃寝込んでいらっしゃいますよ』
不意に、今日初めて会ったばかりのひげもじゃ先生の言葉が脳裏に横切った。俺は無意識のうちに魔法を使った。
「《全てを凍てつかせる氷の守護神よ、我が周囲の温度を下げたまえ、『
「!!」
義父上の驚いた顔を俺は何事もなかったかのように無視した。無視するのは大の得意分野だ。
俺は魔法が嫌いだった。けれど、何故か彼女のためならば、使っても良いと思った。制御に苦しみ、たくさんの人を傷つけた力だとしても、今は使いたいと思った。だから、闇の力によって僅かに温度が下がった空間の温度をさらに下げ、彼女の呼吸がなおのこと緩やかになり、少しだけ顔の赤みがひいたことに安心した。手を伸ばし、毎晩行っているように俺は義姉上の額に人よりも冷たい手を優しく乗せた。
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