①強敵はイノシシでした



 一回目の遭遇は完敗。小さな頃に動物園で見た普通のイノシシそっくりのそいつは、2本の牙を生やした最強の生き物(自分史上)だった。


 いや、木の棒で滅多打ちにしたよ? でも、平気な顔で突進してきて牙がグサーって刺さったら、俺は呆気なく死んだ。脚に刺さった牙の感触とか限り無くリアルだし、ドクドクと血が流れ出てスーッと気が遠退いて…あ、そっか。俺死んだ事無いからなって当たり前だろ? だからっていきなり意識飛んで草原で大の字で生き返るとか不自然じゃね?


 あー、よかった…唯一の持ち物の【きのぼう】は無事か。何も無いよりマシだけど、これじゃイノシシは倒せない訳か。


 倒れていた場所から起き上がって歩き始め、やがてごつごつした岩場にやって来た。おー! 原始人って言えば打製石器っしょ? だったらクラフトだな!!


 手近な石を持って…おい、何だよコレ。やたら重いぞ? たかがゲンコツ大の石じゃねーか。いや…もしかして、俺の能力じゃ石すら手に余るのかよ!?


 泣く泣く諦めようとして、考え直す。どうせゲームだ、スキル系の能力なら勝手に成長するかもしれないな。だったら振り回してる内に筋力つくんじゃね?


 なら、一択だな! いち、にー、さん、しー…





 …ろっぴゃくに、ろっぴゃくさん…いや、もういいか。しかし、他人の目から見たら、裸で石振り回してる姿は不審者そのものだぞ。まあ、他人なんて一人も居ないけど。


 さーて、石の重さは…軽っ!? いや逆におかしくないか!? さっきまでは漬け物石並みにずっしりと重かったのに、今はかかとを削る軽石並みじゃん!!


 ま、気にしても意味無いか。じゃー、コイツをデカい石に向かって…おりゃっ!!



 …ぴゃっ!? は、破片がかす…めて…首…えっ?





 …ふあっ!?


 …また死んだのっ!? あんなちっちゃい破片だけで頸動脈切れて出血死とかひ弱過ぎだろ!! …くそっ、全裸で出血死なんてシチュエーション的にホラー映画のシャワーシーンで死ぬ女優じゃねーか。誰得なんだよ、全く…。


 でも、お陰で【ちいさなはへん】と【おおきなはへん】が手に入った。けれど俺、全裸だから【きのぼう】の他は、どちらか1個しか持てないだろうな。何か入れ物は…有る訳ないか。


 このまま【おおきなはへん】でイノシシと戦って、勝てる見込みはゼロだろう。【きのぼう】でもイノシシを倒せなかった訳だし、まだまだクラフトしなきゃ何も手に入らないか?


 そうだなぁ…破片と棒が有れば手斧か。なら、固定する紐か何か有れば作れるか。なら、木の生えた森がいいかもな。



 森というより木がまばらに生える林に着いた俺は、【おおきなはへん】でツタを伐り、皮を剥いて【ツル】を手に入れた。それで【きのぼう】に【おおきなはへん】をグルグル巻きにして…


 …おお! 【いしのておの】完成!! 凄いっ!! …いや、ただの手斧じゃん。まあ、イノシシ位は何とかイケル…のか?



 …プギイィーーーッ!!


 …アッーーー!?






 …はっ!?


 …また、死んだのか。いやイノシシ、マジで強過ぎだろっ!! 通算2敗目だけど強敵過ぎなんだよ!! ゲームバランス無茶苦茶なんだよこれっ!!


 …あ? な、何だか急にめまいが…






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る