第84話 旅行《エブリディ》は続くよどこまでも 2

 試着を終え彼女たちは元の服装に戻る

 なんでも「似合わない見栄を張ってしまった」らしいがそんなことはない

 俺としては着ていてほしい。とお願いするのはセクハラに該当しそうなので閉口する


「いやー、すごかったねキャシーちゃん☆」


「ま、まあねッ!!女神だからね…っ!!私、女神だからねっっ!!」


 恥じらいながら照れ隠しのツンデレ風味ムーヴで女神を強調し踵を返すキャシー

 女神発言は問題であるがこの場合女神の様に美しい自称発言か女神を騙る変人としか思われないのでセーフだ


 そもそもキャシーが顕現化することで本来身を隠していると想定している追跡者は肩透かしを食らっているだろう。こんな白昼堂々闊歩しているとは夢にも思うまい

 最近はアリアとタッグを組みスキルを活用して行方をくらませている


 現実世界において唯一スキルを用いれるアリアだからこそできる芸当であり

 女神パワーとフェアリー化によるネットワークへダイヴで様々な情報を改ざんできるキャシーの二人だからこそ今まで追跡を逃れ女神キャシー氏素性うじすじょうを隠しおおせている。


 その辣腕らつわんぶりは見事というほかない。

 時間は11時を回ろうとしている

 そろそろお腹がすいてくる時間帯だ。何か食べようと切り出す前に

 アリアが提案する


「お腹すいてきたね。レストランで食事にしよっか☆」


「ですねー。実は私事前にリサーチしてきていて

 この近くに美味しいお店があるんですよ」


「ドコドコ?せっかくだし温かいもの食べましょうよ!」


 俺が何を言うまでもなく話は進んでいく

 ガールズトーク。そこには男の入る余地はない。寂しい

 くう…号生誘っておけばよかった…!!と悔恨に浸る俺だった


 *********


 食事を済ませて次の目的地へ

 到着

 それは

 まさかの

 ハコダテダンジョンのギルド(デデーーーーーーーーーン!!!!!)


「なん…だと…!?」


 驚愕の声を漏らす俺。食後の小休止でホテルにチェックインだと思っていたが


「いやー流石に私たちに付き合わせるだけじゃかわいそーかなぁって…☆」


 つまり俺のためだけにダンジョンギルドへ来たってことか…ッッ

 ダンジョンはいいよね。日常にはない刺激。血肉湧き踊る戦い

 ダンジョンって男の子だよなぁ


「ホント、血なまぐさい戦いの後大けがするってのに

 懲りないんだから…」


「あははは…それが雄一さんらしさですよ」


 テンションを上げる俺に女子勢は辟易しているが

 こればっかりは止められない。

 だって俺ハンター業好きだもん!宿業カルマだもん!!

 欣喜雀躍きんきじゃくやく。はしゃぎながら俺は受付に行き装備を整え

 初のホッカイドウダンジョンへ嬉々として赴く


「スゲーーーーーースッゲスゲーーーーーーーーーーッッ!!」


 何かしらの反動でテンションがおかしくなっているのは自覚しているが

 初めて見る雪景色の世界ステージにテンションフォルテッシモ状態である

 はた目から白い目で見られているが気にしない。仲間たちからも距離を置かれているが気にしない!!!


 モンスターとしては珍しい地方限定の精霊タイプ寒波の魔人フーンや

 血錆に塗れている鬼武者血傷の戦斧ブラッドアクスなど

 トーキョーでは見かけないモンスターが多い

 無論モンスターによってドロップアイテムは異なるので各々の都道府県を巡るハンターも珍しくはない

 小康しょうこうとはいえダンジョン区画は基本的に寒風真っ只中

 基本装備は体を温かくするアイテムや装備に切り替える必要がある

 俺の纏っている神楽は氷結対策がなされていないので金属部分が傷んでしまう

 故に雪原地帯の装備はモンスターの毛皮をメインとした装備がおすすめとされる

 だからこそ俺はみんなが買い物をしている最中こっそり買っていた装備を着こんでいる


 北海道限定対寒装備一式を!!

 姿はモッコモコの毛皮。この辺に生息しているシュープリルというマンモスみたいなモンスターから獲れる防具。簡単に倒せるモンスターのため安価であり初期装備であるがレベルの低い浅層での狩猟ハントのため問題ナッシング!!


 ──なんだけど、計算違いが一つ


 ≪みんなの分は買ってないのよね~≫


「そりゃそうだろ…。サイズ教えてなんて言ったら殺される…」


 キャシーの分ももちろんないのでフェアリー状態で来てもらい

 狩りは俺一人でやることとした。仕方ないよね

 事前に言わなかったのは俺の過失だけどせっかくハンター業から離れたがっていた女子勢を前にそんなことはできない

 快く俺を送り出してくれた仲間に感謝。まあ絶対無茶とかしない第一階層なのでモーマンタイ

 ということなので申し訳ないが神楽君には少し休んでもらって

 愛染烈火と魔法銃アレイシアに籠手オートクレールに活躍してもらいます


 ≪浅層だからって油断しちゃだめよ?今はほとぼりが冷めたっぽいけど

 いつ至徒みたいなやつが現れるか…≫


「もちろん注意するよ。でも心配しすぐは良くない

 羽を伸ばす時はトコトン伸ばした方がストレス解消になるしね!!」


 ≪はぁ…じゃあ私がストップ掛けるお目付け役ねいつも通り

 …あ、そうそう。みんなで旅行しているから水差したくなくて言わなかったけど

 旅行が終わった後頼みたいことがあるのよね≫


「珍しい。キャシーがお願い事とは

 良いよ。キャシーには助けられたしどんな願いも聞いてしんぜよう…!」


「何女神に対して神っぽい口調なのよ。

 まあアンタになら今話していいか

 私のパワーが9割みんなに与えられているのは知っているでしょ?

 それだけだと不安だから

 私、聖地パワースポットで力を補充したいのよ」


「パワースポット…、ていうかキャシーそういうことはもっと早く言いなさい」


 ≪え?何か問題発言した私?≫


「大問題だ。キャシーが弱っているのを知っている俺らからすれば

 キャシーが回復する見込みのある手段はとりたいに決まっている」


 ≪あー、そんなに心配してくれたの?

 でも9割って言っても単体で活動するには支障はないわよ?

 単に女神の力をあまり行使できないからリソースやストックは補充しておいた方がいいかなって…≫


「そういう問題じゃないよっ!

 まったく、キャシーったら全く…プンプン!!」


 ≪怒った擬音口に言わなくてもわかるから

 至徒との戦いで痛感したわ。私もパワーアップしないと助けれないって

 だから…≫


 その言葉で俺はカチンときた。この子、全然自分を大事にしてない


「わかってない!!何一つわかってないよキャシーは!!!

 そもそもキャシーが9割力を使う理由なんてないんだ

 すぐに返還して元の世界に帰ってもいい!!

 なのにそこまでした上にもっとキャシーに頼るなんてしたくないよ!!」


 憤慨をまき散らして爆発

 ぜえぜえと喘鳴しながら久々に怒鳴り散らしてしまう

 しまった。全然キャシーは悪くないのに悪し様に言ってしまった


 そんな俺の様子に驚いているのか発光体であるフェアリーの表情はうかがい知れないが俺にはキャシーが口を開けて驚いているのがわかる

 というかしまった。衆人環視で女神関連のことを声高に喋ってしまった

 何を言っているのだろうと他ハンターから怪訝な顔はされているが

 意味不明なことで怒っていると奇異な目で見られているだけに留まっていると思う


 そして


 ≪大丈夫よ。あれくらいでバレることはないから

 それよりも。そんなに心配してくれたの?≫


「あ、当たり前だ…。仲間だからな

 だから遠慮しなくていいんだ」


 ≪・・・・・・・・・・・≫


 声のトーンを下げて羞恥で上ずった声でそう断じる

 中々に恥ずかしい行動とセリフを言ってしまったことに加え

 禁則に触れそうなことを発信してしまい忸怩たる思いを感じる


 だがそれよりも俺はキャシー自身身を削ることを厭わない滅私奉公めっしほうこうぶりに怒りを禁じえない

 語気を荒げるほどそれは看過できない発言だったからだ


 俺はキャシーのことは何でもというほどじゃないが大体は分かっている方だと思った

 9割の力も支障はないとはいえ取り戻してほしいと思っていたが


 キャシー自身は全くの逆。それ以上に身を削り力を得てみんなを助けようとした

 その慈愛っぷりが許せない。

 そしてそれを今の今までくみ取れなかった自分に腹が立った。


 他人のために尽くすことは否定しない。だけど自分を大切にしないのは許せない。これを知らずキャシーが命を賭けて力を行使しようと思うとゾッとする


 献身や自己犠牲は美徳だが行き過ぎた潔癖は綺麗すぎて空気の様に薄く軽くしてしまう

 ただでさえキャシーが力を使い続けているというのにそれを俺たち以外知らず

 質が悪いことにそれを狙う輩を許容してその上での言葉

 求めることを当たり前としありがたみを感じないほどに見返りを求めない姿勢は女神であろうとも俺の仲間である以上容認できない


「だからこの旅が終わったら即行動だ

 それまでにそのパワースポット巡りとやらの方法を教えてくれ」


 ≪・・・・・・・・・・ごめん≫


「いや、俺こそ悪かった。こんなに怒ることじゃないのに

 キャシーにはあまり無理をさせたくない

 俺は誰も失いたくない…」


 脳裏によぎる水滴を、なぜ持続させたのか

 それは傲慢すぎるほどのエゴ

 枷となった両親を利用し鹿目雄一は定めた魔王討伐の心を揺るがせない為に生かしている。両親に生きていてほしいからではない。魔王討伐というモチベを持続させるためだけに両親をコールドスリープで魔食病を抑えている

 あまりに醜悪、あまりに醜怪、度し難いにもほどがある

 全部は俺のエゴに過ぎない。だから押しつけがましいことを是としてしまうのが俺という男だ。思い通りにいかなければ癇癪を起こす子供以下


 だから怒ってしまう。そんな美しい思想ココロを俺に見せるな。と

 そして調子を取り戻したようにキャシーは声を弾ませて


 ≪じゃ、遠慮なく頼むわね!

 どんどん酷使してやるから覚悟しなさいよマスター!!≫


「お手柔らかに頼むよ。それより今はパーッと遊びたい

 狩りを楽しませてもらうぜ…!!」


 ≪ハイハイ。まったく…自己犠牲はめつ型はどっちなんだか…≫


 小さな声で何かを呟いたキャシー。

 その言葉は良く聞こえない


 **************


 ダンジョンを楽しみたいのもあるが

 キャシーの発言に触発されてか

 俺もまた更なる自己強化を図る必要があると思った

 しかしここは公共の場、ゆえに練気アギトは使えない

 だがイメージすることくらいは自由だろう

 俺の零落の魑魅魍魎アディショナルヴァーミリオンは探知以外にも用途はあると思うので考えてみる

 例えばだが、大気中にまった光の粒子からビームとかロマンじゃね?

 その場合オートで単調な動きしか入力できないと思うが

 常時ビームを打てれば相手の動きを制限させることが出来そうな気もする

 だが練気アギトの訓練はさっきも言ったように一般人の目に触れてはいけないとトップランカーの人たちに念押しされている。使用する場合は個人のダンジョンで放つしかないがそんなもの俺は持っていない

 となれば出来るのは魔法銃の新たな戦術のみだ。

 カージテッド戦では持て余していた為申し訳なかったがこれからは生かす方針で行きたい

 …頭の回転が滞っている俺としては魔法銃は遠方から撃つ以外の用途が見つからない

 魔法銃には種類があって魔法を込めた実弾と魔力そのものを放つレーザーガン。

 その両方を使用できる特別性がアレイシアだ。

 魔法銃適性がないからこそ使える隙と大剣の近距離しか戦えない弱点の克服を考えて使用を考え籠手オートクレールで無理やり補正をかけて使えるようにしている

 MAGの機能を一時停止させ深呼吸。内なる世界にて力に呼びかける

 血中になんらかのエネルギーが生じる音を聞いた気がした

 疑念が確信に変わった音でもある


「やっぱりか…」


 魔人化に際して俺の中にわずかだが回路サーキットが生まれたようで

 本来使えない魔法がMAGに頼らず使用できるみたいだ

 だが所詮雀の涙程度。MAGを用いたほうがよほど建設的レベルではある

 それでも致命的な違いがありMAGと違いラグが短縮できる

 要は使い分け。魔法は従来通りMAGを用い

 魔法銃の場合は即座に魔力を体内から生成し撃つ方針。

 それはいい。俺が言いたいのはもっとこう。魔法銃を多角的多方運用方法をだな…

 難しく言ってごまかしている場合ではない。何というかいいアイディアはないものか


「キャシー。魔法銃ってなんかいい方法をなんかグワッとスゲーのできない?」


 ≪ざっくりというかフワッとしすぎて何一つ具体性を見いだせない質問ね…≫


「遠距離以外にもなんか使い道ありそうなんだけどそれがうまく言葉にできないんだよね」


 ≪そうね…逆の発想ならどう?遠距離じゃなく至近距離から撃つみたいな…≫


「キャシー!!!!!!!」


 ≪え!???な、なによ急に大声出して…!≫


 ぶっちゃけガシっと両肩を掴みたい衝動があったが

 フェアリー状態じゃ小さくて出来たいことが歯がゆいくらいに

 感極まっていた。流石だ…三人集まれば文殊の知恵とはよく言ったものだ

 二人だけど


「流石キャシー様だ…!!そうだよ。遠くから撃つだけじゃなくて至近距離からも攻撃できるんだ…

 盲点だった。ありがとうキャシー!うまく使えそうだよ!!」


 ≪そ、そう…役に立てたなら光栄だわ…≫


 妙案だった。コロンブスの卵とはこのこと

 当然と思っていた運用方法に目がくらみそれ以外の視野をすぼめていた事実

 後は卵を割ってオムレツを作る実践さえあれば机上の空論とはならない

 至近距離からの剣と銃の連撃技。それこそ必要としているファクター

 剣を補助するのではなく補強する案を取り入れ俺は新たなフェーズへ移行できる…!


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