第13話 リアルダンジョン

「MAG。噂で聞いていたけど思ったより人を選ぶな…」

「モンスターさん…ごめんなさい」


花道さんは消えゆくモンスターに向けて黙祷し手を重ね

俺はMAGを見て少し不満を漏らし

俺たちは最初に行く手を阻むモンスターの掃討に成功した


初ダンジョンにしては黒星と言える成果でドロップアイテムも回収


≪入手 ゴブリンの棍棒 ゴブリンの牙≫


入手品は武器屋で加工かダンジョンで換金が可能。

今回の戦利品はたいして役に立たないので


「すべて換金…と」

「・・・・・・・」


しばらく黙祷している花道さんを見て俺も合掌する。

正直俺には罪悪感など皆無なのでこの行為自体意味がないのだが。

祈りを終えて花道さんは俺を見て


「いえ…私に合わせなくてもいいですよ。これが偽善だという事。わかってますから…」

「いや…人を襲うっていっても生きてるからねモンスターも。命の大切さは俺が理解してなきゃいけないのに…」

「…?」


と、余計なことまで言ってしまった。前言を翻すように次の言葉を紡いだ


「いや、なんでもないよ気にしないで。それよりも、行こう」

「はい…」


そういってダンジョンの迷宮を進んでいく

死を悼むのは悪い事じゃない。

モンスターを殺めてそんなことをするのは無駄な事などは一概に言えない。


こいつらが一方的に人間を蹂躙しているなら別だが現実モンスターたちは人間に搾取され続ける資源であり畜獣だ。


同情の一つもする。


ダンジョンという檻に閉じ込めら世界を回すために食いつぶされると聞けば憐憫を感じられるだろう。


そして花道さんにとってはそういった哀れみではなく同じ命としての慈しみからきていると思う。花道さんは偽善だと言っていたが…


―その偽善を貫けないハンターは大勢いる。感傷に浸るなど意味不明という意見はもっともだしモンスターなんて殺してもいい存在だというのも知っている


それでも…命は命だ。奪うにしてもそこに何も感じられないのなら人道にもとっている…。殺すのが当たり前という価値観は人間にふさわしくない。そう思うのは傲慢だろう。


こいつらに心なんてないし逆の立場なら弱者を慮るなんてことはしないとわかっていても、こいつらとは違うという意味で呵責は必要な気もする。


それが人だと俺は思うから


ガラにもなく感傷に浸ってしまった。そういうキャラじゃないんだけどな俺は


そして次はトラップだ。


横殴りに来る槍衾やりぶすまを走って通り抜けドラゴンの火炎を俺の防御で守りしのいで逃走。

そんなことが結構あったがゲームで予習済みなので難なく対処し

俺たちはついにフィールドに足を踏み入れた



**************


・・・順調だなと少し解せない。いや、ゲームと大して変わらないからだと思うが

もっとこう…現実のダンジョンはもっと難易度が高いものだと思っていたので少し肩透かしを食らった気分である


「わぁ~やっぱり本物は違いますねぇ~」


と俺とは全く別に花道さんは充実しているようだ。どうやら俺はゲームに毒されすぎたようだ。

大体一週間くらいしかやってないのに(イーヴィルヴァーン討伐は一日)


だが悠長に事構えてはいられない。ゲームは練習の為無制限で出来るが現実のダンジョンは


「佳夕さん。水差して悪いけど現実ここは三時間しかいられないからね」


俺も危うく忘れそうなことを自分に復唱するように花道さんに伝える


「あ、そうでした。でも信じられませんね…こんなにきれいな場所なのに…」


確かに雄大な自然にあふれた世界であり世界の景観に匹敵するほどの美しさだ

こんな場所が魔素にあふれているというのは確かに信じがたい


…いわれるまで気づかなかったがもしかすると異世界もこんな感じなのだろうか?


「リミットはアナウンスさんであらかじめ教えてくれて、時間までにポータルに行かなきゃいけないんでしたよね?受付の方が説明してくれました」


「そう、だからハントの時間と帰還の時間の配分を決めなきゃならないんだ

俺たちはまだ初心者だからハントを少なめに必ず帰れるように時間にゆとりを持って行こう」


「安全第一ですね」


「生きてなきゃハンターは出来ないからね」


…魔素汚染だけは死んでもごめんだ。ハンターになるのでそのリスクは避けられないがそれでもアレだけは…


「雄一さん?」


どうやらまたもや物思いにふけっていたようだ。

数秒とはいえ時間制限のある世界で必要のない無駄を冒してしまった。

反省と謝罪を花道さんに言う


「…え?ああごめん。無駄に時間をロスしちゃったねごめん」

「いえそうではなく…何かお悩みでしょうか?」


…まあ、悩みと言っては悩みであるが…それは別に話す事ではない。花道さんは鋭いので下手な嘘は付けない雰囲気を悪くしない為にもうひとつ本当に思っていることでお茶を濁す


「いや、何というかゲームと同じで順調すぎるなー、なんて思ってね。憧れのハンターってこんなものかなとか考えちゃってて…」

「いえいえすっごく大変でしたよ!??迷宮はあんなに危険だって改めてわかりました!雄一さんがいなければ私やばかったですよ!!」

「そうかなぁ…。ぶっちゃけあんまり変わらない気がするんだけど…」

≪何言ってんの…そりゃアンタが死に慣れしているからでしょ?佳夕ちゃんの反応が普通よ≫


フェアリーであるキャシーがそのことについて代弁してくれる

確かにそうだ…俺はどの程度で死ぬかとかの検証をしたりを繰り返していたのでその感覚がマヒしていたが花道さんは違う。

というか普通の初心者なら花道さんと同じ反応をしているだろうと改めて認識する


『危ない危ない…危うくゲームと現実の区別がつかなくなるところだったよ

ありがとうキャシー』

≪まったく、アホな主人を持つと苦労するわ≫

「あの~雄一さん?今キャシーさんとお話していますか?」

「え?ああうん。ごめんごめん。聞いたらひいちゃう話だからね」

「それはちょっと気になりますが…。フェアリーさんって主人さん以外には見聞きできないのでしたよね…?」

「そうだよ?それがどうしたの?」

「実は…あのボス戦で雄一さんが倒された後、キャシーさんの声と姿が見えたんですよ」

「え!??キャシーそんなこと言ってなかったけど!??オイキャシー!!」

≪聞かれなかったからよ≫

『聞ける範疇の話でもないんですけど!??俺死んでて知る由ないんですが!??』

「それでですね…今は見えませんし声も聞こえないんですよ。それが不思議だなーって思っていて」

「うーん。謎だね。キャシー分かる?」

≪バグのせいじゃない?あの時何もかもおかしかったし≫


それはないだろう。バグの不祥事の時サーバー接続不可だったのに権限を持つ運営と繋がる以外そういった真似は出来ないハズ。


…なのかな?正直俺も詳しくは知らんから断言はできない

少し解せないがまあフェアリー自体にバグはないらしいし


「キャシーはバグのせいだっていってるね。俺自身少し納得が何故かいかないけど多分そうかもしれない」


「そうかもしれませんね…私ゲームとかあまり詳しくないので…」


うん、それは俺もです。この疑問について当を得ないがまあ保留でいいだろう。

あの異常事態はもう起こらないだろう。一体何が原因かはわからないが…




―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――

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鹿目たちが会話している中、遠方から望遠鏡で彼らを覗き見る少女がいた。

フェアリーを連れ武装している少女はハンターで間違いないだろう

そして彼女はチャットで自身のフェアリーと対話する


『あーあ、女神の居所。結局わかんなかったね』


特に残念でもなさそうに、少女はあっけからんとそう呟く。


≪少なくともあの男のフェアリーが女神の端末であることは確かな情報だ。失敗に終わったがな。女神が目にかけているだけのことはある≫

「あんなさえない奴が女神のお気に入りィ~?まじわけわかんないわね~」

≪だがそれを証明するように奴はことを打破した。通常の人間ではありえんことだ≫

「じゃあアイツも捕獲対象?」

≪いや…危険分子のひとつとリストに載せておくべきだろう。我々の目的は女神の拠点の情報と女神の確保だ。それ以外は捨て置け。お前さんも無駄に血は流させたくないだろう?≫

『ま~ね☆暗殺者っていっても人殺し好きってわけじゃないし。ぶっちゃけ助かってよかったって感じだし~』

≪暗殺者としてどうかか殺害する対象に向けてそのセリフはどうかとどちらを指摘すればいいか悩むな≫

『もちろん両方だよ~。本当は殺したくないのに殺すことをいとわないなんて。私ってば壊れてるぅ~』

≪その自覚があれば大丈夫だろう。引き上げるぞ≫

『は~い☆』


そういって彼女たちは踵を返してその場を去る。

なぜ女神を狙うのか。そしてそれが鹿目たちと何の関係があるのか

今は知る由はない

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