第6話 攻略開始
弱点解析? どんなスキルだろうか。一度、発動させてみよう。
「あら、もう終わりかい」アリナさんの顔が横向いた。
「すみません」緩めていた手に、力を込める。指の腹、くい、と同時に”弱点解析”発動。
脳裏に浮かんだ文字は、『母性本能の刺激』であった。それが、アリナさんの弱点らしい。うむ、母性本能か。どうすれば刺激できるであろうか。勇気出して「ママ!」と呼んでみるべき? それぐらいしか浮かばぬ。
ママと呼ぶのは、気恥ずかしい。僕は母はお母さんと呼んでいた。でも、アリナさんにはママと呼ぶのがしっくりきます。
とりあえず、しばらく黙って肩もみだ。なんだか彼女の凝りがほぐれたような気がする。気のせいかな。
そうだった。僕の身の上の設定は、ちょうど母性本能の刺激になるに違いない。
「こうしていると懐かしい、気分になります」指に込める力ゆるむず、僕は言う。
設定はこうである。僕は、家族と遠く離ればなれになってしまった。その消息不明。死んだことにした方が同情を誘うだろうが、それは嘘なのでよした。勝手に人を殺してはいけない。
アリナさんは数秒黙ってから「どうしてだい?」と言った。
「実は、おか、ママも肩こり持ちで、よくこうして揉んでいたんです」実際は、幼いころに一度か二度したくらいだ。思春期になってから、両親の身体に触れた記憶はない。
またも数秒黙するアリナさん。「そうか。だから、肩もみが上手なんだな」
お、口調が優しくなった。ゆっくりになって、高くなった。
僕の肩もみ、本当に上手なのかな。お世辞だろうか。もうちょっと、しよう。
それから五分ぐらい経って、彼女の首がぽかぽか温かくなった。血行がよくなったか。そろそろ、こっちの腕が疲れてきた。それじゃあ、段階をつぎへ。
「あの、アリナさん」と僕は言った。大丈夫、許されるはずだ。
「なんだい」と彼女は答える。満足そうな、なだらかな声で。
「実は肩の周りを揉むと、肩こりの予防になるんです」
全くもってでたらめである。
背中うごかして、アリナさんはこちらを顧みた。しっかり目が合う。にこついて、白い歯が覗く。青い瞳。
「それは、あんたのママにもしてたんだね?」
「はい。よくしてました」
真っ赤な嘘を、真顔でつく。殺しちゃいないから、構わない。
アリナさんは、その桃の下唇をあまく噛んだ。発露したなにかを隠すように。色っぽい。ひょっとすると、性癖を刺激できたか。でも、油断したら駄目だ。「げへへ」って笑ったりしたら、正体見破られるかもしらん。僕の中身は、童貞男子高校生です。
「じゃあ、周りもお願いするよ」彼女は前へ向き直った。
よし、まずは背中からだ。全体は、きゅっと締まっている。くびれからのお尻は、座っているから隠れている。悲しい。
肩甲骨の内側を、親指で押してみる。
「はあっ」つんと撥ねたような声。
無性に抱き着きたい。つるつるの背中に、頬をすりすりしたい。
無意識に発されたような声に、嬉しくなる。背中も、全体的にしよう。そうしたものだから、十分ぐらい経ちました。そろそろ前に行こう。
「では、次は鎖骨ですね」ここからは、もっと慎重に。鼻息荒くならずに。
「鎖骨? そんなとこ、マッサージする意味あるのかい」
「はい。リンパを流すんです」
「リンパ?」
「僕もよくわからないのですが、リンパを流すと体の中の、悪いのが出ていくそうです」
現実世界の女性は、リンパという言葉を十代のあいだに何度も聞くらしいが、ここはそうじゃないのか。
「へえ、リンパねぇ。どんなものか、体験してみようじゃないか」
「耳のとこから、失礼します」
耳の付け根を、人差し指でそっと撫でる。そうして、耳たぶをつまむ。
「はんっ」アリナさんは愛撫から逃れるように、首をよじらせた。
ありがとう、我が愛猫ミー。君に耳たぶ舐められてから、僕は耳が立派な性感帯であることを知った。
「ちょっと。んぅ。耳はもう、いいから」吐息の多い声。
「はい。続いて、首に流して行きます」悪くないぞ。良い反応だ。
正直リンパの流し方なぞわからぬから、適当に首を上から下へ、何かを流すように撫でる。
「ど、どうですか」一応聞いてみよう。
「うーん、なんだかよくわからないね」
首はあまり気持ちよくなさそうだから、さっさと次だ。
「ちょっと密着しても良いですか」今なら、拒否されない気がする。
「ああ、構わないよ」なんともなさそうな返事である。
鎖骨に触れるため、僕の身体をアリナさんの背中に密着させる。僕は背が低いから、アリナさんが座っていても、ちょうど僕の方が頭一個分大きいくらいの差しかない。彼女の体温が、安っぽい服越しに伝わってくる。
上から眺める乳房もよいな。ぶるんとぶら下がっている。日本人にはない、ゆっさり大きい半円である。首から伸びる細いひも、乳首をいじらしく隠すひし形、そこから再びひもが下乳から横に伸びて、背中で結ばれる。
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