第5話 俺、やっちゃいました

「わかりました。では係の者と代わりますのでもう少々お待ちを」


 男はお辞儀をしてまた奥へと戻っていく。

振り返った際、男が嫌な笑みを浮かべていたのが一瞬見えて俺は悔しくて俯く。

 怪我を負った仲間を救う、それが俺たち回復術師の誇りだった。

スキル【生体守護】はとてもいいスキルだ。冒険者たちの死亡数は格段に減った。

それと同時に俺たち回復術師は不要な職業とされ、冒険者仲間から蔑まれるようになった。


「お待たせしましたぁ。新規の登録ですねぇ。えーと見習い戦士さんでいいのかしらぁ?」


 間延びした喋りをする妙にケバイ恰好をした受付嬢が俺の前に現れる。

すごくきつい香水の匂いに俺は眉を歪める。

ケバイ受付嬢は俺を値踏みするように見た後、明らかに見下すように鼻で笑い


「では登録を行いまぁす。えーと、登録は2度目ですよねぇ。ではこちらの水晶に手を置いてくださぁい。ステータスを引き出しますのでぇ」


 そう言って丸い水晶珠を俺の前に置いてニヤニヤと笑っている。

俺は無言で水晶の上に手を置く。


「はーい、ではいきますよー」


 受付嬢がカードを読み込むための箱にカードを差し込むと水晶珠がほんのり温かくなる。

すると今度はカードを差し込んだ箱がガタガタと震えだし、ボンという音を立てて煙を上げた始めた。


「きゃっ、ゴホッゴホゴホっなに?なんなのぉ?ゴホゴホッ」


 ケバイ受付嬢が箱の煙をもろに浴びて咳き込みながら立ち上がる。

箱はモクモクと煙をさらに吐き出し、俺の持っていた水晶珠も赤色に輝きながら高熱を発しだした。


「アチチチ」


 俺はあまりの熱さに手を離す。


「もおぉぉぉ、なにこれぇ、しゅにぃーん、なんか箱が煙吐いてますぅぅぅ」


 ケバイ受付嬢は咳き込みながら奥へと逃げて行った。


 ケバイ女が奥で喚いているのが聞こえて先ほど出てきた男が戻ってくる。


「すいません、なにやら魔法道具のトラブルで……」


男がまだ煙を吐いている箱に近づき、差し込まれたカードを引き抜いてカードに目を落としてぎょっとした顔をする。


「な、なんだぁ?全部99999???なんの故障だ?」


「故障?それは間違いないぞ」


 俺はすまし顔で慌てる男にそう告げる。

そんな俺を狂人でも見るかのような目をして


「……さすがにこれは故障です。とりあえず道具の替えがございませんので最低数値の入ったカードを用意しますね」


 男はカードを取りに奥へと戻っていった。

うーん、壊れてるわけではないんだがなぁ。

俺は頭をポリポリと掻き、まぁ登録できれば依頼を受けれるからいいかぁ。

そんなことを考えていると


「あ、あの……」


 申し訳なさそうな小さな声が俺の背後から聞こえてきた。


「ん?」


 俺が振り返るとそこにはぴょこぴょこと動く髪の毛が見えた。

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