第116話 面接 ②

「んふふ……アリガト♪ 実は『お姉様』って呼ばれるの、結構気に入ってるんだ。でも、男の子は呼んじゃダメだよ。ヤキモチ妬くのがここにいるから」


 芳賀さんは後ろに立つ空をノールックで親指で差す。


「愛花、煩いぞ。しかし、皆パートが被らなくて良かったな。隆臣と晴乎はなんで去年入部しなかった?」


「いや、あん時の条件、『五人揃って』でしたから……」


「……だったな。すまんすまん。あれじゃあ、入りたくても入れないよな?」


 確かに、なんで去年は「五人揃って」なんて条件出したんだ? 謎だ。


「でもビックリですよ。部の紹介で浅原先輩が楽器弾く事は文化祭で知ってましたけど、セントフォーの二人も部員だったなんて……で、今、部員じゃ無い芳賀さんまでここにいて四人揃ってるって……」


「ま、お前らが言うセントフォーがここに揃ったのは色々と成り行きだな。でだ、早速お前らに入部記念のプレゼントだ」


「なんですか?」


「新入部員が入った今、俺らは昼休みをここで過ごす事はもう無い。お前ら明日から自由に使ってくれ」


「え? 何でですか?」


「元々俺ら男共は一年の時にこいつら彼女になって全校生徒から変な注目浴びてな。付き合い始めてから一緒に昼飯食べるにも、周りに見られて落ち着かなくてさ、そのタイミングで部を引き継いだ事もあってここに逃げてただけなんだ。三年になった今じゃもう注目もそんなに浴びなくなったし、もういいかなって……な?」


 空が俺に話を振る。


「ああ、三年になって周りの奴らも俺ら自身も皆慣れたし、今じゃ注目も殆ど後輩からだけだしな。それに後輩からの注目なんて彼女ら四人に対する憧れだろ?」


「そうなんですね? それじゃあ、お昼時間は遠慮なく自由に使わせて頂きます」


「ただ、部に関係無い奴はあんまり連れ込まなしで欲しいかな。せいぜい彼女とか本当に仲のいい友達ならいい。ここ、俺らも先輩から引き継いだ場所だから、ただ騒ぐ場所に使われるのはその先輩も不本意だろうし俺らとしても部活の場として使って無かったけど、静かに語らいの場として使ってきたんだ。何となく聖域を汚されるような気分になるからな」


「分かりました。ところで先輩方は放課後は部に顔出すんですか?」


「ああ、俺は愛花の部活が終わる時間潰しにここに来る。あと、大地もたまにだな。波奈々もたまに顔を出す。残りの三人は諸事情で一回も顔出したことないな」


「え?! それで昨日のあの演奏なんですか? 凄いですね」


 その言葉に俺が応える。


「あれは流行の曲のイントロ流しただけだからな。練習なんて家で十分だよ」


「なるほどです」


 お昼休みも終わり―――放課後を迎えたが今日は後輩達も自分の楽器を持って来ていないので部活は休みにした。明日、三年生は集まれる奴だけだが、一応全員集合って事でこの場を解散した。


 ・

 ・

 ・


 ———俺の部屋だ。今は丹菜と二人で勉強中だ。


「今日いきなり四人も入部するとは思いませんでしたね。そう言えば、紗凪ちゃんって服掴むのが癖だったりするんですか? 初めて正吾君と家に入ってきた時も、燈李君と部室に来た時も服掴んでましたけど……」


「あれな……フッ」


 俺は思わず鼻で笑ってしまった。服を掴む幾つかの失敗エピソードを思いだしてしまった。


「あれは癖だな。本人は掴み始めは気付いてないっぽい。途中で気付いて離すんだけど、気付くとまた掴んでるらしい。紗凪ちゃんの兄貴曰く、仲良しの子の服しか掴まないらしい。丹菜も早く掴まれるようになればいいな」


「そうなんですね? 分かりました。私も頑張って掴まれるようになります。そう言えば、お引っ越しの事は話さないんですか?」


「今日はタイミング逃したからな。明日にでも話せるかな?」

 


 しかし、新入部員の四人だが、調が有りそうで、「バンドになるな」って皆期待したが……思いっきり裏切られることになる。こいつらの演奏は俺達が思い描いたスタイルとは全く異なる……協調性もへったくれも無い。

 そして、ボーカルが揃ってバンドとして本格的に活動が始まると……あー、これはまだ内緒の話だな。

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