第97話 絵心
波奈々が差し出したスマホに写っていたのは波奈々を描いた一枚の「絵」を撮影した写真なのだが……その絵は「天使の格好をした浅原波奈々」が描かれたものだ……絵なのだが、ハッキリ言って「写真」と言われても誰も疑わない程のクオリティーだ。こんな絵貰ったら「嬉しい」以外の感情は多分必要ない。
「小宅君からある日突然渡されたんだけど……彼が言うには私を見てたらインスピレーションが沸いたんで描いてみたって…… 」
「凄いですよね。ネットでこういう絵を描く人たまに見ますけど……実際にいるんですね」
「うん、この絵を貰った時、凄く嬉しかったんだけど、それと同じくらい絵の描き方とかに興味が沸いて……それで色々お話し聞いていたらいつのまにかオタク君自身に興味が移って……」
「なんか私が正吾君に興味持った時に状況が似てますね」
「そうだね」
「———そうなの?」
そう言えば、丹菜が俺に興味持った話とか聞いたことが無かった。ま、俺は過去を振り返らない男だ。……そう! 過去なんて気にしないさ。お陰で歴史のテストは点数が悪いが……。
「その後、波奈々から彼に対して何か動いたとかありますか?」
「うん、手始めに文化祭でお化け屋敷に一緒に入ろうって誘って一緒に入った」
俺はその言葉で思い出したが、確かあの時……。
「あ! あの時って……あれ? 最初に俺を誘ったよな?」
「うん、だって突然小宅君誘ったら周りに変に思われるから……正吾君に声掛ければ絶対断るって分かってたし、そうすれば、代わりに小宅君誘ったって感じで自然に見えるでしょ?」
「うまいな……あの短い時間でそんな駆け引きやってたのか……」
「正吾君利用しちゃって御免なさい」
「それはいいよ、必然になる事を利用しただけだろ? で、一緒に入ってどうだった?」
「意外だったの……彼、私の事守ろうっていうか……怖がる私を支えてくれて……ずっと優しく励ましてくれてたの……あんまり怖くて抱きついちゃったんだけど……」
「オタク君結構男だな……もしかして、喫茶店に行く俺に付いてきたのも?」
「うん……オタク君達、2-Aの喫茶店に行くって言ってたの聞いてて……そのタイミングで正吾君も行くみたいだったから……後ろ付いてったんだ」
「あの時のあれはそう言う事だったんですね? 私もすっかり騙されました。そうだったんですか……なんか波奈々可愛いですね」
「え? どこが? 何が?」
「文化祭終わった後は彼にどう接してたんですか?」
「普通に世間話してたくらいかな……何回か買い物付き合ったり、付き合って貰ったりしたけど……」
それ、完全に「デート」だな。波奈々はその事に気付いて無いようだ。
「ちょっと踏み込んだ質問しますけど……いつから名前で呼ぶようになったんですか?」
「え? 呼んで無いよ。いつ呼んでた?」
「初詣の時『十斗君』ってずっと呼んでましたよ?」
「あー……あはは……バレちゃった。いつからか分かんないけど……二人の時は名前で呼び合ってます……はい」
「他に何か貰ったものとかあるんですか?」
「うん、違うモチーフの絵を何枚か貰った。どれも素敵で……」
一枚一枚スライドさせていくが……画面に映っている写真は、人魚だったりお姫様っぽいのから騎士風のまで、全て「コスプレして写真撮りました」ってレベルの絵ばかりだ。
「凄いです。これ、モチーフ自分じゃなくても部屋に飾っておきたい絵ですよ」
「うん、この絵、ちょっとセピアカラーでうちのお店に飾っても全然違和感ない。私も欲しい」
「で、クリスマスプレゼントに貰ったのがこれ」
そう言ってスマホに表示されたが写真は……、
「私のフィギアなんだけど……」
「うわー……素敵ですね」
「これは……女の子みんな心掴まれるよ……」
「確かに……正吾君……私の為に作って下さい」
「無理無理。師匠のレベルでなんて無理」
画面に写っていたフィギアは、大きさを比較する物も置いてあって、大体40㎝くらいだろうか? これも天使の格好をした波奈々なのだが、躍動感が凄い。見てると魅入ってしまう、そんなフィギアだ。実物見たらもっと凄いんだろうな。
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