正体を隠して生活してる俺の隣に住んでる美少女とカラオケ行ったらとんでも無い才能の持ち主だったからバンドのボーカルに誘った。

第79話 侵入

　―――今日は新学期二日目だ。朝、いつものように丹菜に起こされ、一緒に美味しいご飯を食べて、そして仲良く一緒に登校する。いつもと変わらない朝だ……教室に着くまでは。

「なんか……廊下が騒がしいですね」

「そうだな」

　俺と丹菜は教室に着くと、Ａクラスの前に女子の人だかりが出来ていた。

「あらー……女の子沢山いますね。浅原兄の見物人のようです……Ｅクラスの方は男子が集まってますよ」

　皆、浅原兄妹を一目見ようと集まってきたのだ。靴の色を見ると、2年生は勿論、1年生も3年生も集まっている。

「出入り口が前も後ろも両方塞がっています」

「ベランダからも無理だな。塞がってるな」

　人だかりを前に戸惑っていると後ろから陽葵が声を掛けてきた。

「ご両人おはよ」

「あ、おはよう御座います。困りましたね」

「うちら諦めて予鈴なるまでそこで待つことにした。一緒に待と」

「そうしますか」

　陽葵達は教室に入るのを諦めたらしい。俺ら同様、そんな奴らが数人廊下で待っていた。廊下の少し広くなっているスペースで大地と二人でいたようだ。俺と丹菜も陽葵達と一緒に予鈴が鳴るのを待った。

「昼休みもこんな感じになるんでしょうね」

「そう言えば、浅原兄妹、部室に呼ぶんでしょ？　素早く連れ出さないと駄目だね」

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　―――約束の昼休み。俺は浅原妹に予鈴が鳴ったら直ぐ部室に向かうと事前に話していた。そして予鈴が鳴る。俺はすかさず立ち上がり、直ぐ廊下に出た。それに合わせて浅原妹も着いてきた。少し早歩きだ。丹菜達も上手く連れ出したようだ。

「ここが部室だ」

　俺と浅原妹が部室に入ると、丹菜と陽葵、そして浅原兄が机に弁当を置いて待っていた。浅原妹は周りをキョロキョロ見ている。

　丹菜に目をやると、なんだか落ち着きが無い雰囲気だ。イライラしてる？

　大地も来て、そして最後に空と芳賀さんが入って来た。

　俺達は二つの長テーブルに八人並んで食事にした。

　食事しながら取り敢えず自己紹介をした。一応、ハイスペックスとしての紹介も含めてだ。ついでに俺と丹菜、大地と陽葵に関しては付き合っている以上の情報は一切教えていない。俺と丹菜が半同棲している事は勿論、大地と陽葵が幼馴染みなことも内緒だ。

　食事が終わり、空が話し切り出した。

「浅原、軽音部入りたいって話しだけど……実はちょっと困ってるんだ」

「困ってる？　何をだ？」

「まず、この軽音部に俺らが入った理由は、偶々知り合った先輩が『私達が作った部を継承して』ってお願いされたことが始まりだ。そして、ライブハウスで言ったとおり、俺らがハイスペックスであることは皆に内緒にしている」

「ああ、それは覚えてる」

「そして、俺らは軽音部に所属しているが、部としての活動は一切していない」

「え？　それは……どう言う事だ？」

「というか秘密だらけなんだよ」

「秘密だらけ？　ハイスペックス以外に秘密にする事って何？」

　ここは丹菜が説明する。

「私と陽葵は『楽器は何も出来ない』って事になってます。要は部を存続させるため、名前だけの入部です」

「あれ？　希乃さんピアノ弾けるじゃない」

「それも内緒にしてんの」

「なんで？」

「説明が面倒だから」

「……なんか希乃さんって、演奏からは想像出来ないほどやる気がないってっていうか……不思議な人だね」

　空は話を続ける。

「そして、俺と大地と正吾は一応楽器は出来てバンドっぽいことをやってるって設定にしている」

「設定？　設定ってなんだ？」

「人前で聞かせたことは無いって事だな。正吾は一度全校生徒の前でアコギ弾いたけどな」

「それもダミーだ。一応『部として活動している』って振りをしないと無条件で部を潰されかねんからな」

「そして、入部条件に『五人以上でバンドとして活動している奴らが揃って入部すること』って事にしている。その条件にかなう奴らが現れたら、俺らは速やかに退部する。以上が軽音部の現状と実情だ。この話を聞いて入部するか？」

「皆が部活出来ない理由は？」

　ここは俺が説明する。

「俺はバイトがあるから部活そのものが出来ない。丹菜も家庭の事情で直ぐ帰らなきゃならない。そして陽葵は日によってはピアノのレッスンだ。大地と空は一応、部活っぽい事はしてるっていうより、空の彼女……芳賀さんの部活が終わるまで時間つぶしでここにいるようなもんだな。その付き合いで大地がたまにドラム叩いてるくらいか？」

　陽葵の「喫茶店の手伝い」って話は内緒にした。陽葵を見たら、親指さり気なく立ててた。

「そう言う理由だったら……僕ら入部していいか？　いいよな？　波奈々」

「うん。今の話しであれば、私達入部すれば部活っぽい活動できるね」

「どういう事だ？」

「ベースとドラムがいて、ギターとキーボードは僕達二人が入ればいい。あと、ボーカルは僕がやってたし」

　確かに問題無さそうだ。空は天井見て考えてる。

　そもそも「ボーカル殺し」「ギター殺し」と言われてたバンドだ。この二人、ライブでの演奏聞いた限りでは当時のこいつらと同じレベルではあった。ただ―――。

「分かった。それじゃあ入部宜しく。活動は……俺は雨の日以外毎日来てるから、大地は火木良く来るな。そんな感じで活動するか」

「よし！　これでバンドも続けられるな」

「だね」