第34話 私たちの、悪だくみ

今日から10月。

暑さもすっかり和らいで、朝晩はちょっと肌寒く感じる日も多い。

私はこの季節の東京が好きだ。

10月の東京は、様々な場所で色鮮やかな景色を見せてくれる。

夏の残り熱がまだ残る中、季節の移り変わりを感じる風景はちょっと寂しくもあり、暑い夏と寒い冬との狭間で季節の変化を感じることができる、そんな東京の10月が好きだ。


夕食の後、シャワーを浴びてからいつものようにソファーでスマホを見ていると、山下新之助がやって来た。

今日はオフの日だったようで、一日中部屋に閉じこもっていたらしい。


「坂口さん、今、ちょっといいですか?」


「あ、はい、何でしょう?」


「例の、相沢って人の件なんですけど・・・坂口さん、何か良いアイデア浮かびました?」


「それが・・・いい考えが全然浮かばないんです、私もずっと考えているんですけど・・・」

その件については私も事あるごとに考えていた。

でもどうしたら良いのか、まったく考えが浮かばない。


「ちょっとこれを見てもらえます?」


山下新之助はそう言うと、5枚ほどの写真を私のテーブルの前に置いた。

望遠カメラで撮ったと思われるその写真は、夜の街角で相沢亮太が外国人と見られる男性と一緒に写っている写真だった。


「その3枚目の写真を良く見てもらえますか?」


山下新之助が指差した写真を見ると、相沢亮太と外国人男性が不自然にピッタリくっ付いて立っており、手にはタバコの箱が握られている。


「これって、何ですか?」


「その外国人の男は覚せい剤の売人です」


「え?ってことは、もしかして・・・」


「そう、そのタバコの箱の中には覚せい剤が入っているんです。相沢って人はその外国人から覚せい剤をかなり頻繁に買っているみたいです」


そして山下新之助がこの写真を入手した経緯を説明してくれた。

山下新之助は私が相沢の件を話した後、事務所で契約している私立探偵に頼んで相沢亮太の行動を監視していたそうだ。

そしてその探偵が撮ったのがこの写真。

相沢亮太は5日に1回くらいの頻度で、この外国人から覚せい剤を買っているらしい。

優子を脅して私に盛った高濃度フェンタニルも、恐らくこの外国人のルートで手に入れた可能性が高いと言う事だ。

その私立探偵が言うには、5日ごとに覚せい剤を購入しているという事は、相沢はかなりの覚せい剤中毒になっている可能性が高く、既に長期間の服用の疑いがある。

これだけの量を長期間使っている場合、検査をすれば簡単に薬物反応が出るらしい。


「この相沢って人、裏ではかなり悪い事してるみたいです。探偵の話では暴力団関係者と飲み歩いていたって」


どうやら思っていた以上に、相沢亮太はヤバいヤツだったみたいだ。

でもこの写真があっても、どうやって話を聞き出せばいい?


「相沢って人はこんな人間ですから、僕たちが正攻法で向かってもどうにかなるって感じじゃないですよね、だからもうこうなったら少々卑怯な方法でヤルしかないと思うんです」


「え?卑怯な方法?」


「はい。坂口さんが賛成してくれるかどうか分からないんですけど、僕が考えたプランを話しますね。もし嫌だったら言ってください。その時はまた別の方法を考えましょう」


「はあ・・・」


山下新之助が考えたプランと言うのは・・・・


まず、私立探偵からの情報で、相沢亮太はとある会員制の高級デートクラブに頻繁に出入りしているらしい。デートクラブと言えば聞こえはいいが、要するにそこは富裕層の男性を相手にする売春クラブだ。客は大手企業の重役や芸能人、プロスポーツ選手がほとんどで、会員の紹介でしか入る事が出来ないらしい。そこで男性が女性を選び、ホテルなどに行って事を済ませる。そしてそのデートクラブに美咲ちゃんを忍び込ませ、相沢を誘い出してホテルの部屋へ連れて来させる。

ホテルの部屋では私達が待機しており、そこで相沢から情報を聞き出す。もし暴れた場合は、珍之助に取り押さえてもらう。

そして用件が済んだ後は、覚せい剤購入の話をネタに、この件については口外しないように口止めをして解放する。


確かにこのプランだったら、相沢が大暴れでもしない限り怪我人が出るような事は無さそうだ。

でも心配なのは、美咲ちゃんをデートクラブに潜入させる事。

美咲ちゃんが危ない目にでも遭ったら・・・


「あの・・・美咲ちゃんをそのデートクラブに入れるんですよね?大丈夫なんでしょうか?私、そこがすごく心配で・・・」


「ですよね、僕ももちろん心配です。なのでそのデートクラブに関して、坂口さんにも協力して欲しいんですが・・・」


「え?協力?私、何すればいいんですか?」


「坂口さんも美咲と一緒に、そのデートクラブに登録してもらいたいんです」


「え~っ!私がですか?いやいやいや、ムリムリ!そんな、私なんか写真で落とされますよ!登録なんてさせてもらえませんって!山下さん何言ってんですか!」


「そんなコトないですよ!坂口さんなら絶対に大丈夫です。普段芸能界でキレイな女性をイヤと言うほど見てる僕が保証します!」


「え~・・・ムリだと思うけどなあ・・・でも、もし万が一私もそこに登録できたとして・・・私も、その・・・誰かに指名されちゃったら・・・どうすればいいんです?」


「大丈夫です。僕もデートクラブに客として行きますから、僕が坂口さんを指名します。それに、デートクラブって最終的には女性の方に選択権があるんですよ、だから僕より先に誰かに誘われたとしても断っちゃえばいいんです」


「はぁ・・・・・」


そんな・・・私なんかが富裕層相手の高級デートクラブ嬢なんて務まるのか?いや、別に本当にお客を取るワケじゃないからいいんだけど・・・

でも入れるのか?絶対事前審査で落とされるぞ。27歳だし、貧乳だし。


「相沢が入店したのを確認してから僕も入店します。ですから店内には僕と坂口さんが美咲のそばに居る事になります。それから店の外で珍之助君に待機してもらうようにしましょう。これだったら何かあっても大丈夫かなと」


「そうですね・・・山下さんと私がそばに居れば、美咲ちゃんも安心でしょうし」


「それで相沢と美咲が店を出たら、僕も坂口さんと店を出ます。僕と坂口さんは車でホテルへ先回りして、珍之助君はバイクで相沢と美咲の乗ったタクシーの後を付けてもらいます」


うーん、確かにこれだったら危険度は少ないように思える。

でもこの計画通り、うまく事が運ぶだろうか?

相沢が美咲ちゃんを指名しなかったら?

相沢がこちらの指定したホテルに来なかったら?


あ!


私は相沢に顔が知れているじゃんか!


「あの・・・山下さん、相沢って、私の顔、知ってるんですよ」


「え?そうなんですか?僕はてっきり優子さんしか知らないもんだと・・・」


「いや、仕事の関係で何回か会ってるんですよね」


「そうですか・・・困ったな・・・あ!それならいい考えがありますよ!ウチの専属のメイクさんに別人メイクしてもらいましょう!」


「えっ!?メイクで化けるんですか?いやぁ・・・大丈夫かなあ・・・」


「大丈夫です!ものすごく腕のいいメイクさんですから。それにカツラをかぶってロングヘアにして、メガネを掛けたら結構別人になると思いますよ」


「そうですかねぇ・・・でもそのデートクラブって会員制なんですよね?ひょっとして山下さん、会員なんですか?」


「いえいえいえ、ぼ、僕は会員じゃないです!そんなトコ、全然知らないです!」


「じゃあどうやって山下さんが入店するんですか?」


「いや、あの、実はウチの事務所の社長が会員でして・・・昨日その話をしたら『俺が紹介してやる!』って言いまして・・・だから明日、早速行って事前偵察してきますよ・・・あ、行っても女性を連れ出したりしませんから!あくまでも今回の件の事前偵察ですから!」


「ふーん」


「さ、坂口さん、何か疑ってません?その顔、絶対疑ってますよね?ね?」


「いえ、別に疑ってないですけど・・・だって別にワタシ、山下さんの彼女じゃないですから、カ・ノ・ジョ・ジャ・ナ・イ・デ・ス・カ・ラー」


「そ、そんなぁ~」


「冗談ですよ~!偵察、よろしくお願いします」


それから私と山下新之助で、このプランの詳細を考えた。

今月の15日から山下新之助は映画のロケで沖縄に行ってしまうので、決行日は9日から14日の間。それまでに私と美咲ちゃんはデートクラブへの登録を済ませておく。探偵からの情報によると、相沢がデートクラブに行く日は必ず夜19時から2時間、男性用エステサロンに行き、その後一時間ほど食事をしてからデートクラブに行くらしい。なので相沢を付けている探偵から相沢がエステに行ったら連絡をしてもらうように手配している。探偵から連絡が入ったら私はメイクをし、美咲ちゃんと共にデートクラブへ向かう。

一方、ホテルの部屋では優子に待機していてもらう。


うまく行くだろうか?

そんなに難しくないような気もするし、かと言って予定通りに行くかどうか、すごく不安だ。

相沢亮太はこっちの思い通りに美咲ちゃんを選ぶだろうか?

そうだ!

美咲ちゃん!?

今のままの喋り方じゃ、まるでちょっとおバカな女子高生みたいだよ。

あれじゃマズい。会員制の高級デートクラブだから、もっとちゃんとした言葉遣いさせないと・・・

それに立ち振る舞いもまだ子供みたいだし、あれじゃ全然上品に見えない。


山下新之助と相談して、美咲ちゃんに歩き方や身のこなし方のレッスンを受けさせる事にした。

幸いにも事務所専属のダンスの先生が教えてくれるらしい。

そして話し方だが、岡島激斗の時と同じように映画やTVドラマを見せて勉強させることに。

あの時は一夜漬けで何とかなったから、今回も大丈夫だろう。ちょっと不安だけど。



そして次の日・・・



私が帰宅していつものようにソファーでスマホを弄っていると、山下新之助が帰って来た。

時間はもう23時半。今日は事務所の社長とデートクラブへ行ってきたハズだ。


「山下さん、お帰りなさい。どうでした?デートクラブ」


「行ってきましたよ!いやぁ、驚きました」


そのデートクラブは赤坂の閑静な住宅街の中にある大きな屋敷で、外から見ただけではそこが会員制のデートクラブとはとても想像できないレトロで豪華な洋館だそうだ。

中の大広間にはバーカウンターと豪華なテーブルとソファーが置かれ、そこには20名ほどの女性が居て、各々好きな場所に座っている。男性客は女性に声を掛け、酒を飲みながら談笑した後に話がまとまると連れ立って出て行くシステムらしい。ちなみに店に支払う金額は5万円。これとは別に、女性に15万~30万ほどを支払うらしい。

という事は、最低でも一回20万円掛かるのね。ひぇ~。


「一応僕も女性を席に呼んで話したんですけど、やっぱり普通の女の子とは全然違うって言うか、その子はまだ22歳の大学生らしいんですけど、身のこなし方とか話し方とかがすごく落ち着いていて『育ちのいいお嬢さん』って感じでしたね」


「そうなんですか、で、山下さんはその子をお持ち帰りしたんですか?」


「ままままさか!お、お、お持ち帰りなんかしてませんよ!真っすぐ帰ってきましたっ!」


「えー、ホントですかぁ?何か慌ててるし、怪しいなァ」


「ホントです!マジです!あ、それから女性の登録について聞いてきたんですけど、女性の登録も紹介が必要らしいんですよ。でも男性客からの紹介でもOKって事だったので、僕からの紹介って事にして坂口さんと美咲の面接入れてきちゃいました。8日の15時から18時の間に面接に来てくださいって事です」


「え?め、面接、ですか・・・」


うわぁ、面接なんて今の会社に入る時以来だよ。

それに今回は普通の入社面接とかじゃなくて、高級デートクラブの面接だぞ。今更だけど私なんかが受かるのか?

一応広告代理店の営業だから、話し方なんかは何とかなりそうな気がするが、問題は容姿だ。

27歳で美人でもなく、ド貧乳のこのワタシが受かるのか?

それに美咲ちゃんと一緒に面接だよね?

あんな美少女と並んだ日にゃ、私なんかただの引き立て役だよ。

こりゃ無理。ぜってー無理だ!

ああ・・・ものすごく不安になってきた。


「山下さん、あの、私・・・やっぱり優子と一緒にホテルで待ってるのはダメでしょうか?」


「でもそうすると、僕が行くまで美咲が一人になっちゃうんですよね。それってちょっと不安な気が・・・」


「ですよねー、あははは・・・」


やっぱり私も面接受けるしかないのか・・・

もし美咲ちゃんだけ受かって、私が落ちたら・・・凹むなぁ。

美咲ちゃんは絶対に受かる。

スッピンでも超絶美人だし、おっぱい大きいし。

でも私は・・・

最近は厚塗りしてるせいか、化粧品の減りも早いし、おっぱいなんて、おっぱいなんて・・・

クソッ!何でこんな事で悩まなきゃならんのだ!

こんな事になったのも、元はと言えば相沢亮太のせいだ、あの野郎のせいだ!

もうこうなったら絶対にすべて吐かせてやる!

私のこの燃え滾る怒りのパトスを、相沢!てめぇに思いっきりぶつけてやるからなっ!


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物語に登場するキャラクターをイメージして、AIを使用してキャラクター画像を作成いたしました。

本編と併せてお楽しみいただければ幸いです。

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※あくまでも、作者の主観&好みです!



■坂口凛子

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■メルティー

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■岡田優子

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■美咲ちゃん

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■神様

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■珍之助

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■山下新之助

作成中


■岡島激斗

作成中

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