クロッカスの舞う夜に。
藤沢 玲
第1話 Long hand.
【Long hand.】
周りの女友達はこぞって運命の人だ、と異性と出会う度に言うが甚だ勘違いだと思っていた。そしてそう言う彼女らはまたこぞって別れる。恋愛を拗らせてしまった私の、行き場のない強がりなのかもしれないが、その思いもそう遠くない人生で払拭される。
入社倍率は毎年200倍近くになる、就活生に人気のあるこの会社で私は働いている。どうしてこの私が入社できたのか、私を知る人に不思議に思われる。雑誌編集長であり父親でもある田島 蓮之介がいるお陰で、私は俗に言う、コネ入社でこのローテ出版に就職した。偏差値の高い、頭の良い大学を卒業した人達が入社してくる、いわゆるエリート企業である。つまり、名の知られていない大学を、ぎりぎりの成績で卒業した私が、本来なら在籍していてはいけない企業なのである。
如何せん出版社で働きたかったわけでもないし、叶うのであれば家具デザイナーの道に進みたかった。大学で専攻していたインテリアデザインが私の進む道だと思っていた。親が業界で名の知れた人になると、自分の働く場所が逆に選べなかったりする。大学時代の友人からは羨ましがられるが、こちらからすれば選べること自体が、才色兼備を持ち合わせた人のように羨ましく感じる。
この仕事に情熱がある訳ではないが、父親という存在が良くも悪くも仕事に対してのガソリン燃料になっている。手を抜けば真っ先に編集長の耳に届くであろう。そこはかとなく仕事をこなし、入社から4年目が経った10月、来月の月刊誌でインテリア特集を組むことになり、私は一人の家具デザイナーにインタビューすることになる。
「田島さーん。学生の時インテリアを専攻してたよね?インタビューやってくれない?」
職歴年数が長いだけの、それを盾にして威張る上司だ。逆らうと後々面倒になるが、それよりもインタビュー担当を受諾したくない。やんわりと断ることにしよう。
「専攻していましたけど、4年も前のことだからあまり覚えてないですよ」
「大丈夫大丈夫、質問は用意しとくから。どうせ暇でしょ?」
半ば、いや、強制的にインタビューの担当を任せられた私だが、インタビューなんてしたことがない。と言いつつも仕事なので勿論行うが、暇だからという理由で仕事は振ってはいけないと思う。
「分かりました。インタビューを担当するのは初めてですけど頑張ります」
「お、ありがとうね。質問決まったら田島さんに回すから、簡単にインタビュー相手のこと調べておいてね」
その相手とは、最近名が出てきた若手の家具デザイナー「イツキ ホシカワ」である。大手家具メーカー「12kitchen」に勤務しながら、多くのコンペで賞を獲得している、将来有望株のいわゆる天才だ。彼の今までの過程を知らない私からすると、天才なのか秀才なのかという差は分からないが、とにかく凄い。
受賞歴の素晴らしさは言うまでもないが、同い年ということがこの5分で分かった。同い年に名を残している人がいるという誇らしさもあったが、同い年でここまで人生の経歴に差が出るのかと、ひどく落胆もした。インターネットには顔写真が掲載されていないので想像の範囲から足を踏み出すことは出来ないが、私好みの顔であって欲しいと、心のどこかで感じていた。
「笑っちゃう、仕事だからイケメンかどうかなんて関係ないでしょ」
ぼそっと呟いてしまい、隣に座っている同僚からの視線を感じた。
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