(二)-13

 いつもの直美なら母親の心の内から吹き出すどす黒い感情を、そのぶっきらぼうな返事の中から察知できたかもしれない。しかし、直美はそのとき嬉しさで一杯であり、それに気づくことができなかった。

 その夜、しばらくしていなかった父への夜とぎを、直美はすることになった。それはもちろん、直美が自分から進んで言い出したことではなかった。父の強制でもなかった。母がそうさせたのである。

 自分を差し置いて自分よりも先に幸せになろうとする自分の娘に対する、自らの心の内の強くて黒い衝動に対し、母・素子は抗えなかったのだ。いやむしろ、それまでの夫・威との関係に対する鬱憤もあり、その衝動はむしろ強化され加速されたのかもしれない。


(続く)

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