異人青年譚

kumotake

第1話プロローグ

『異人』

 人間と同じ姿形をしていながら、人間とは明らかに異なった体質や性質を持ち合わせた、異端の存在。


 この物語の主軸であり、中心であり、中枢を担っているこの言葉を、僕(荒木 誠)はこの春に、故郷である九州から、大学がある神奈川の横浜に来て、初めて知った。


『人間とは異なる』というのだから、この言葉が、人間ではない何かに対して誂われた言葉であることは、なんとなく、初めて知る人にも、理解できるかもしれない。


 実際、僕自身も、最初のうちはこの言葉の字面だけを理解していた。


 字面だけを理解して、全てを理解した気になっていた。


 そう、たったこれだけの説明では、どうしたってこれを理解するには......


 完全に理解するには、あまりにも短すぎるのだ。


 そしてそうなると、やはりどうしても、字面だけの、上辺だけを救い上げて理解するような、そういうモノになってしまう。


 いや......これでは『理解した』ではなく、ただ『知った』だけなのだろう。


 ただ見聞を広めて、言葉を知った。


 まるで小さな幼子が、はじめてその言葉を覚える様な......


 まだ意味も真意も意図さえも知らぬまま、言葉だけを覚えてしまっている様な......


 そういう感覚になってしまうのだ。


 けれどもし、この『異人』という言葉の意味が、本当にあの短い説明だけで理解できてしまえるようなモノならば、これから語られるこの物語は、そもそも語り始める前に終わってしまう。


 それでは物語として、成立しない。


 語らずして終わる物語など、成立する筈がないのだ。

 

 それにこれは、その人間とは明らかに異なった異端の者達が、人間だった筈の僕を巻き込んだ、僕が語り部となって語る御話で......


 だからこれは、僕が大学生になった、この一年を通して起きた出来事の、謂わば経験談のようなモノだ。


 いや、もっと端的に、『思い出』とでも言ってしまおうか......


 それにもしも、これから語る、この数十万の文字で紡がれる思い出を、例えばたった数十文字に要約したならば、きっとこうだろう......


『最初は吸血鬼に奪われて、次は殺人鬼と過ごした後に、旅人と追い求めて、その後は狼に悪戯をされて、結局のところ、雪女に損失させられる』


 そういう御話なのだ。


 やっぱり、これではあまりにも、要領を得ない......

 

 わかってはいたけれど......


 だからまぁ、退屈しのぎに触れてくれ。


 異人というモノが居ることを、この横浜という場所で初めて知って、初めて理解する青年が、化け物に囲まれながら、ただ青年然としようとする、そんな滑稽な物語を......


 


 

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