第38話 ゴンダレヌさん! おわりましたー!
「ウホホッ!!」
四本の腕を器用に動かし、フォレストゴリラが胸を叩いた。スパイクタイガーより知能は低いようで、ナータの存在を忘れて目の前のエサに食いつこうとしている。
近くに生えている小さめの木に近づくと抱き付き、引っこ抜く。ブンブンと軽く振ってから俺たちの方を見て、嗤った。
「ひぃッ!」
威嚇に怯えた商人の一人が腰を抜かした。足を必死に動かして後ずさっているが、あまり進んでいない。土を蹴っているだけである。
「俺は金を払うぞ!!」
「お、俺もだ!!」
無事だった二人の商人が駆け寄ってきた。
「金貨二枚出せるなら守ってやる」
手を出して、この場で払えと催促する。
商人は俺の目と手を交互に見てから、クソッと言って、腰にぶら下げた布袋から金貨を取り出し、置いた。
女の顔が彫られた金貨が四枚ある。
手をそのままにしてラビアンを見た。
「お前はどうする?」
「もちろん、払うさっ!」
金貨が六枚に増えた。価値はわからんが、商人の反応からして仕事するには充分な金額だろう。
「ぶぎゃっ」
金を受け取っている間に、腰を抜かしていた商人が叩き潰された。フォレストゴリラが持つ木に、べったりと血が付いている。
ポタポタと血を垂らしながら俺たちに近づいてきた。
勝てると慢心していて油断しているようだ。愚かな野生生物である。魔力が使える人間の恐ろしさを教えてやろう。
転がっていた石を拾うと、魔力で身体能力を強化する。
「その不快な笑顔をやめろ」
石を全力で投げつけた。盾に使った木を貫通して、フォレストゴリラの頭に穴が空く。
手から力が抜けて持っていた木が落ち、仰向けに倒れた。即死だ。
俺が特殊なのではなく、魔力を扱えればこの程度は誰でもできるだろう。それこそ一部の人間は、機械ゴーレムとだって対等以上に戦える。
だからこそ人類の反乱を恐れて、機械ゴーレムどもは管理の首輪に魔力封印の機能を入れたんだろう。
「すごい……少なくとも二級以上はあるぞ」
「ゴンダレヌがいれば、キメラに怯えなくて済む!」
仲間の死よりも俺への期待感が高い。さっきはラビアンに責任を押しつけようとしていたんだし、お互いは親しくないのかもな。都市を渡り歩いている性質上、無理してまで協力し合う必要もないだろうしな。キメラハンターより個人主義的な側面は強いのだろう。
「俺はスパイクタイガーの骨だけあれば充分だ。素材が欲しいなら、好きにして良いぞ」
「本当に良いのか?」
ラビアンが疑わしそうな目で見てきた。
そりゃそうか。さっきまで金貨をせびってくるような守銭奴だったんだから。警戒をしても不思議ではない。
「その代わり、骨を馬車に乗せてくれ。持ち歩きたくないんだよ」
「わかった。その条件で取引しよう」
会話が終わるとラビアンは手を前に出した。
何をしてきたのか一瞬悩んでしまったが、すぐに握手を求めていると気づく。契約書の代わりにやるんだろう。
遠慮なくラビアンの手を握る。少しひんやりとしていて心地よい。意外なことに肌は荒れてないようで、ツルツルとしている。
そういえば生身の体に触れるのは、目覚めてからは初めてかもしれないな。
「骨はそこに置いて、周囲の警戒をしてくれないか?」
「わかった。後は任せよう」
商人たちはフォレストゴリラの解体と、スパイクタイガーの骨を馬車にしまい始めた。
誰も俺のことを見なくなったので、手を上げて振り、ナータ達に合図を送る。
計画通りに進んでいるから、この場から離れて良いと伝えたのだ。
三体は都市に向かって移動したはず。ちゃんと侵入できたのであれば、どこかで合流できることだろう。
血の臭いを嗅ぎつけて新しいスパイクタイガーが一匹やってきたので、剣を振るって首を落とす。素材はくれてやると言ったら、商人たちは喜んでいた。
解体している声を盗み聞きすると、素材だけで護衛代以上の売上になるようだ。
ふむ、物の価値がよくわからんな。
こんなことならシェリーかニクシーを連れてくるべきだったかもしれん。
「ゴンダレヌさん! おわりましたー!」
ラビアンが大声で手を振っていた。残りは御者席に乗っていて、移動の準備は終わっている。
商人に付いていけば何とかなると思っていて、実は商業の神が納めている都市の場所がわからない。先導することはできないので、先頭の馬車に近づくと御者に飛び乗る。
「座らせてもらうぞ」
顔を引きつらせながらラビアンは頷いた。
「道はわかるか?」
「もちろん。混沌の神が治める都市と、何度も往復したからね」
丁度良い機会だ。しばらくは暇だろうし、他の上級機械ゴーレムがどのように都市を治めているのか聞いてみよう。
「俺は他の都市のことを知らないんだ。商業の神との違いを教えてくれ」
返事をする代わりにラビアンは、親指と人差し人差し指でわっかを作った。
情報量をよこせと言いたいのだろう。商魂たくましいというか、なんというか……。
「スパイクタイガーの骨を一本でどうだ?」
「良いのかい?」
「持ち運ぶのが面倒だからな」
情報に対しての対価が大きすぎるのか、ラビアンは納得していない顔をしている。
演技をするためにスパイクタイガーの骨を拾ったが、本当は不要なんだよな……。俺に取ってみればゴミに近い素材だ。捨てるのも面倒だし、都市に入ったらラビアンに押しつけるか。
「まぁ、上級キメラハンターは変わり者が多いと言うし、気にしたら負けか」
黙っていて良かった。どうやら自己解決してくれたようだ。
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