第24話

俺は森の中を駆けながらいろんなことを口々に走っていた。



「なんでここに人がいるんだよぉ!」

「ここ人いないんじゃないのぉ!?」

「ここ超不人気なんじゃないのぉ!?」


俺の運999はどこに行った。絶対にこの数字間違っている!

実は桁数が記述しきれてなくて、本当は運マイナス999とかじゃないだろうな!


そんな運がめっちゃいいと祭り上げられて、実はゴミでしたなんて言う逆チート展開はいらないよ!

普通の運を、運をください。



しかもさっきの女、なぜか裸だったし!

何であの女、森の中で一人裸だったんだ…。

変態すぎるだろ…。


「は! こんなダンジョンの中で裸になる!?」


考えをまとめるために、一度俺は止まった。

体を動かしていたエネルギーが急速に脳に供給されていく。



普通ダンジョンの中で裸になんてならないよな。

ダンジョンは危険がいっぱいみたいな空気だし。


そんな中で一人裸になる?


ひょっとして、ダイバーの中でダンジョン内で裸になるっていうのが流行っているんじゃないのか?


だとしたら俺が知らないのも無理がない。

そういう閉鎖されたコミュニティがあるのかもしれない。


そういえばここのダンジョンには砂浜があった。

つまりはここのダンジョンは『ヌーディストビーチ』ってこと?


限られたダイバーが入れるコミュニティ、ダイバーは金持ち、つまりハイソ限定仕様ってことか?


だから不人気、いや、だからこそダイバー達がこぞって不人気に仕立て上げた。

他のダイバーが寄り付かないように?



混乱のあまり、非論理的な思考が加速していく。

冷静になっていれば、近くに水着等があったのは見えたはずだった。



「俺はそんなところに入ってしまった!?」


やばい…消される。

秘密がばれたら消されるに違いない!



思考は加速し、暴走し、宇宙まで駆け上がる。



あのダンジョン協会に抹殺部隊なんてあるくらいだ。

秘密コミュニティのためにダイバーたちが組んだ抹殺部隊があってもおかしくない!

ハイソ限定だから抹殺部隊は精鋭クラス限定に違いない!



そしてダンジョン内の犯行だから証拠もない。

そんなところに入ってしまったのがばれてしまったら消されてしまう!



いかん! 悠長に止まっている場合ではない!

とっとと、この退廃的な世界から脱出せねば!


今日はスキルとかダンジョンとかを検証しに来ただけなのに!

なぜこんな目に!



あいつは入り口側にいた。

つまり入り口側は防がれていると考えてもいい。


なら、出口に行くしかない。

俺は中央で見つけた、ダンジョンのボスへと続く道へと向かった。









ボスの入り口がある湖に近づくと、遠くに虹色の入り口が見える。


俺は助走をつけて一段高く飛び、距離を稼いで湖に飛び込み、その後は泳ぐ。

バシャバシャ泳いでいると後ろから声が聞こえた。


「いた! 待ちなさい!」


「追ってきた!?」


さっきの変態女じゃん!

ってフル装備!?


やっぱし抹殺部隊はあったんだ!

あの鬼の形相、俺を殺しに来たに違いない!


「お嬢様! 一人で行くのはやめてください!」


しかもなんか増えてるし!

一人だったが今は6人になっていた。


そしてお嬢様呼び! お嬢様なんてハイソな人たちじゃん!

つまりあの6人はヌーディストビーチの番人!?


やばい。

俺はさらに速度を上げる。


追っかけてきた6人は当然のように湖の上を走り出した。


何で湖の上を走れるんだよ、湖の精霊かよ。

湖の精霊は『ヌーディストビーチ』の番人だったっていうのか。

変態しかいねぇ!



やばい! 追いつかれる!


おれはこれでもかという速度で泳ぎ、ダンジョンの入り口へと手をかけて、そのまま飛び込んだ。


「はやい!?」

「お嬢様警戒を!」

「わかってます!」


『リュミエハーツ』の一行も男に続くようにダンジョンの入り口に一緒に入っていった。










出た先は浅い湖だった。湖の大きさは直径…1キロを超えるくらいはあるんじゃないか?

水の深さが足首を超えるくらいになっている。

水底は白い石がはめられている。走ろうと思えば普通に走れるかな?


そして人の何倍もある大きな岩がところどころに生えていた。


周辺を見渡すが、岩以外何も見えない。


ボスは、どこだ?

ボスを倒せばいいんだよな? そうすれば出られるはず。


見えないボスを探していると、後ろから音が聞こえる。

振り返ると先ほど追っかけてきた6人だ。


「来た!?」


「待ちなさい! この変態!」


先ほどまで裸になっていた変態女が迫ってくる。

ただ正直姿様になってるなぁとは思った。


「へ、変態ってなんだよ! ダンジョン内で裸になっているほうが変態だろう!」


「な! 誰に向かって!」


顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけながら、近づいてくる。


やばい! テンションが高くなってハイソな人に口答えをしてしまった。

訴えられて味方の弁護士買収されて問答無用で敗訴してしまう!?


「お嬢様! 下手に近づいては」

「何であいつ、ダンジョンに包丁と鍋の蓋なんて持ってきてるんだ? 私たちの盗まれた?」


年上っぽい女性の一人(杏菜)がハイソな変態女を止めようとし、もう一人が(紬)が俺の武器について突っ込む。

盗んでないよ! ちゃんと俺の武器だよ!




その時、どこからともなく声が聞こえる。心に直接話しかけてくるような声。


「挑戦者を確認しました。試練を開始します」

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