第12話 あっさりと…

 ———日曜日になった。正吾君の部屋の掃除だ。


 昨日、正吾君がライブハウスへバイトに行ってる間、ある程度片付けてはいたが、捨てて良いものとか、片付ける場所なんかが分からなかったので半分以上、物を寄せて終わった。


 殆ど服が多いかな? 


「———それでは、大掃除始めます」

「はい、宜しくお願いします」

「寝室は自分でやって下さい。あと、下着類の洗濯とたたむのも自分でお願いします」

「はい、分かりました」


 なんか、彼の返事が可愛く聞こえてしょうがない。


「それと、こっちに寄せた物は捨てるか売るか片付けるか判断して下さい。手に取って、一ヶ月以上使った記憶がないものは捨ててしまっても何にも差し支えがないので、思い切って捨てて下さい。『いつか使うかも』って思う物は殆ど使う事は無いので、リサイクルショップに売りましょう」


「はい、分かりました」


 だから、それ———ふふ。


 ・

 ・

 ・


 朝からやり始め、既に昼は過ぎていたが、終わりも見えていたので最後までやり切った。


「ふ———、こんな感じでしょうか?」

「ありがとう。お陰で床に座れるようになったよ」

「この状態……キープして下さいね」

「はい、分かりました」


 ……ふふ。―――「キープして」って言ったものの、多分、私が掃除しちゃうんだろうな。



 一緒にご飯を食べ始めてまだ三日だけど、何となく生活サイクルが見えて来た。


 平日のバイトは六時から八時まで。なので夕飯は九時頃になる。

 土曜日は夜九時までバイトしている。なので帰ってくるのは十時近くだ。


 あんまりギター弾いてる暇が無さそうなんだけど、彼はご飯を食べたあと、ヘッドホンを耳に当てて、十一時過ぎまで弾いてるようだ。


 食事の片付けを正吾君の担当にしたけど、流石に遅くまで働いてての食器洗いは酷だなと思い、夜は私やる事にした。肩を並べてキッチンに立つのは悪く無い。出来れば一緒に料理もしたいな。


 食器を片付け終わると私は大体十時位に部屋に戻る。


 バンドの練習は、先日の一回しかまだやっていない。来週土曜日ステージに立つので、一週間は練習したいよね。


 明日から、四時頃から一時間半程練習が出来そうなので、学校から大宮楽器店へ直接集合することになった。


 ・

 ・

 ・


 ———月曜日になり、まだ、二人で意識しないように意識した、まだ習慣付かない朝の通学。今日も電車の中で正吾君と絶賛密着中である。


 正吾君は別に何もしていないんだけど、私が勝手に「彼の優しさに包まれた」と満足した後、駅を出れば悲しいかな、関係性が全く無いクラスメイトの二人になる。



 今日の正吾君はギターを背負って来ている。放課後の練習に持って行くためだ。大丈夫なの?


「おはよう」

「丹菜ちゃんおはよう」


 私が席に着くと早速陽葵ちゃんが振り向いて話し始めようとした時———。


“———ガタッ”


 正吾くんが席に座った。


 陽葵ちゃんは彼が背負って来たギターを見て、何か言いたそうな表情をしている……でも、彼女も学校ではバンドをやっている事は内緒にしているので下手な事は言えないでいた。


 そう思ってたら違うところから声が聞こえて来た。


高瀬玲央名たかせれおな」だ。


「———あれ? 御前君、ギター持ってきて……何? 弾けるの? てか、バンド組んでるとか?」


「———飾り」


 ちょっと、何のその「飾り」って答え。せめて「ああ」くらい言ってよ。


 でも、その答えに高瀬さんも会話が続けられないようだ。確かに「ああ」なんて答えれば、次に来る質問は「何が弾ける?」「バンド組んでる?」「好きなミュージシャンは?」パターンは数知れないが、「飾り」と言われたら……私だったら次なんて質問しよう。


 ただ、この時の正吾君、前髪で目が良く見えないけど、何となく陽葵ちゃんの方見てる気がした。多分、自分の事メンバーに打ち明ける気なのかな? 根拠はないけどそんな気がした。


 高瀬さんは何とも言えない表情で自席に座った。


 ・

 ・

 ・


 学校が終わって、大宮楽器店に向かってるんだけど、ちょっと面白い構図になった。


 最寄の駅を降りて、私、陽葵ちゃん、大地君、空君の四人で店に向かって歩いてるんだけど、私達の数メートル前を正吾君が歩いているのだ。


 始め私達の後ろを歩いていたが、私達が待ち合わせしている時に、正吾君は先に行かざるを得なかったようだ。


「丹菜ちゃん、あれ、御前君だよね?」

「そうですね」

「何で私達の目の前ギター背負って歩いてんの?」

「何ででしょう?」

「———え? 何で楽器屋入った?」


 私達も店に着き、二階へ上がるとそこには「学校の」御前正吾がギターをチューニングしていた。


 正吾君は、顔を上げ、皆の見ている。


 大地君と空君は「誰?」って顔をしている。彼らはクラスが違うから当然の反応だ。


 陽葵ちゃんは、「御前正吾」を知っているわけだが……。


「———御前君……何して……

   “ギュイ———ゥィンゥィンゥィンゥィン……ティラリラロラリリペレペレペレギュィ———ガッ!“」


 陽葵ちゃんの言葉を遮るように、正吾君がギターを弾き始めた。


 大地君と空君は気がついたようだ。


「トゥエルブ、お前、同じ学校だったんだな」


「ああ、今まで黙っててごめん」


 そう言いながら、トゥエルブのトレードマークとも言えるカチューシャで前髪を上げた。


 一番驚いてるのは陽葵ちゃんだ。


「———み、み、御前君だったの? トゥエルブって御前正吾だったの?」


「あ———……、そうでした。ハハ」


「メッチャびっくりだよ!クラス一根暗ボッチ……陰では『ボッチの権化』とまで言われているあの御前正吾が、ステージでは目立ちまくりのトゥエルブだなんて誰が思う!」


 大地君と空君は「へー」って顔だ。


「何? 彼そんなに目立たないの?」


「私、教室で御前君の声聞いた事ない」


「あ、私も…私はありますね。『ノート出して』って」


「でも何で正体バラしたの?」


 陽葵ちゃんが質問して来たが、それは私も思ったところだ。


「メンバーへの隠し事は『ロックじゃない』」


 なんか、凄く納得できる一言だ。確かに正体を知らない人と何かを成すのは信用に関わる。


 多分、正吾君も悩んだんだろう。何となく照れくさそうな表情してるけど、晴々とした顔でもある。


「ところで『トゥエルブ』って名前は何で?」


御前正吾ごぜん十二時ってわけだ」


「なるほど。しかし『トゥエルブ』ってちょっと痛い感じがしないでもないよね」


「そこはちょっと黒歴史になりつつある。あんまり触れないで欲しいところだね」


「で、今後もトゥエルブでいいのかな?」


「高校卒業まではそれでいいかなって。それから学校では出来るだけ無視して欲しい。陽葵が言ったとおりボッチだからな。急に友達できるのも不自然だ」


「今日、ギター持って来た時点で不自然だったよ」


「やっぱり? でも、陽葵はそこ、触れられないでしょ? だからギリ行けるかなって思ってたら、陽キャの高瀬が話しかけて来やがった……誤算だったよ」


 今後、ギターはここに預ける事にして、私達は練習に入った。



 正吾君、ついにメンバーにも正体明かしちゃった。私だけの秘密じゃなくなったのは残念だけど、半同棲生活は内緒にしなきゃね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る