全て、地獄から始まった

空秋(うろあき)茶

籠の中の鳥

 僕、青木閻(えん)は今年の誕生日を迎えれば18歳の高校3年生だ。家族は僕と母親、父親の3人家族だ。中学校時代は勉強を頑張って、都内でも有数の高校に進学した。その頃の僕はこれから明るい高校生活があると信じて疑わなかった。しかし、現実はそう甘くはない。その高校にギリギリの点数で入学した僕はみるみる自分の能力の低さを思い知らされた。毎回ある定期テスト、その度に勉強を死ぬ気で頑張った。でもその度に努力と結果は比例しないこともまた思い知らされた。

僕は毎日泣いていたと記憶している。

母親とは毎日喧嘩する日々、父親は見て見ぬふりで干渉してこない。

(親なんて、こんなもんか)

僕は生まれて初めて自分の親に失望した。

学校では友達が遊んでいる中、勉強をし続けいた。僕にも遊びたい気持ちはあった。しかし、それは許されないことを僕が一番わかっていた。

「あいつ、また勉強してるよ笑」

「あの性格じゃな笑」

「今度は大事な、大事なノートを隠してやろうぜ笑」

その僕のありさまを見て周りは笑い、気味悪がって近づきすらしなくなった。そして、時々いじめられることもあった。

(こんな奴らには僕の気持ちはわかるわけない、、、)

日々そう思った。誰にも助けを求められない。僕は日々自分の存在意義、アイデンティティを疑った。そしてある日の通学途中車にはねられたネズミを見た。

(かわいそうだな、、、どうか天国で安らかに眠ってくれ、、、天国、、、)

僕は学校を人生で初めてサボって、そのネズミを池に捨てた。なぜかはわからない。今思えばおかしくなってたのかもしれない。でも僕は知っていた。一緒に地獄にいく仲間が少しでも欲しいと思っていたその心を。

僕はその日、100均でロープを買って家に帰った。ドアの前で立ち止まる僕、床には涙が溢れていた。

(あれ、、なんで涙が、、出てくるんだろう、、、あぁ僕は感謝してるんだな、、、この世の中に、あの母親に、あの父親に、クラスメイトに、、)

そして、僕は決意をしたかのように自分の部屋の扉を力強く開いた。ドアの取ってに買ってきたロープを結んだ。自分の首をロープに通して、僕は思う。

(僕が悪いのか、世の中が悪いのか、、、これは教科書に、書いてあったかな、、)

その時には涙は乾いていた。僕は勢いよく自分の体を落とした。

「ううう、く、苦しいぃ、、」

(死ぬ時はこんな感じなんだな、、でも呪うことすらする資格は僕には、、ない)

僕は悟った、そして思った。

(みんなは悲しむだろうか、、、いやそれすら僕には確かめられない、、、)

「ははは、僕は何やってたんだろうな、、でもやっと、、籠から出られる、、」


死に際の僕の顔は微かに笑っていた。


それから、僕は急にまばゆい光に包まれ地面に引き込まれる感じがした。僕は抵抗もせず、なんの言葉も発さずにその光に身を委ねた。



 「おい、、おーい、早く起きろ、閻魔様の御前だぞ!なんか気味の悪いやつだなぁ」

何か不気味なしゃがれた声。僕は起こされた。

(ここはどこだ??それとも走馬灯か?)

「ガゴーン」ガベルが勢いよく鳴らされた。よく裁判などで使われる、小さいハンマーみたいなものだ。

「お前、、自殺か、、最近の若いものは、、すぐ死にたがるな、これはもはや社会問題だぞ」

僕は初めて前を見た、いや上と言った方が正しいかもしれない。

(な、なんだこいつは人間か?、、)

そこにはゆうに10mはあるような鬼?みたいなやつが座っていた。

「そうかしこまらなくても大丈夫だぞ?お前はもう一回死んでいるからな、これ以上は死なんぞ、ガハハハハ」

「かしこまってなどいない」

いつもの弱気な自分からは想像もつかない強気な口調だった。死んだ時のショックからなのか、元々の本性だったのかはわからない。

強気な自分がそこにいた。

「おい、貴様慎め!大王様だぞ!!」

(閻魔大王、、、?ああ、ここは地獄なんだ、、、)

閻魔大王の側近らしき男が言う。閻魔大王の側近は鬼はではなく普通の人間のような存在だった。

「おい、やめなさいサタン」

(サタンといえばソシャゲとかでよく見かけるあのサタンか、、、)

僕はつまらない想像を膨らませた。

「も、申し訳ございません。閻魔様」

「では、本題に入らせてもらう青木閻よ」

一気に場の雰囲気が変わった。でも僕は少しも怯まずにそこに立っていた。

「ガハハハ、さすがに質が違う魂じゃのぅ」

「どういうことだ?」

僕は一瞬意味がわからなかったが次の瞬間その意味を体で体感することになることはまだ知る余地もなかった。


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