第65話:オオタカさんのお食事



 カワサキさんと蘭先輩から……無理矢理……与えられたカメラ機材を使っての、初の撮影。


 自分のカメラとの違いに戸惑いながらも。


 捕捉エイムして、シャッターボタンを押す、と言う部分は、ほぼ同じ。


 ファインダーの中の映像、シャッターボタン以外のボタンとか、違いもあるけど、どうにか、こうにか。


 逆に、普段はカメラ自体を使う事のない方菜かたなちゃんの方が慣れるのが早いみたい。


 タカさんがいらっしゃらないので、他の鳥さんで、練習しきり。


 まあ、これは、これで。


 とか、やってると、シンさんがやって来て。


「オオタカ幼鳥が森の中でハト仕留めたみたい」


 カワサキさんやわたし達に教えてくれる。


 え?


「おー。場所、わかる?」

「うんうん。ボクも今から行くところ」

「ありがと。ウチらも行こう」


 と、三脚を担ぎ上げ、自転車へ。


 いや、カワサキさんと蘭先輩は、慣れてるからいいけどぉ!


 わたしも、自分の三脚でなら自転車に乗れるけど。


 この、重いカメラで乗るのは……。


「三脚畳んで、肩に担いだらええねンな?」


 方菜ちゃんは、何やら、すぐに対応できているっぽい。


 すごい。


 さすがに、わたしはこの機材を抱えて転倒するのが怖いので、カメラを三脚から外して、ストラップをたすき掛け。


 三脚は、半分だけ縮めて前カゴへ。


 と、思ったけど、重い雲台と三脚を前カゴに入れると、バランスが悪い。


 カワサキさんと蘭先輩が、自転車の後ろの荷台にカゴを付けて、そっちに三脚を乗せている意味が、よく解る。


 慌てて三脚を伸ば直して、三脚だけを肩に担ぎ上げる。


 この重さと言うか、軽さなら、バランスも取れるわね。


 カワサキさん達の後を追う。



 園内の園路を少し走り、おそらく目的地。


 園路沿いにずらりと並ぶ自転車の列が、すでに状況を物語っている模様。



 その自転車の列にわたし達も自転車を並べて、林の中へ。


 林の中、ずらりと並んだ大砲……じゃなくて、カメラ。


 大勢の人たちが、何かを取り囲むように円形に並んでいる。


 カメラマンさんたちの円の中心。


 何か、ではなく、オオタカさん。


「あれか……」


 並んだ人たちの隙間に入って、三脚を立てる。


 カメラを三脚に乗せて、捕捉エイムして、ファインダーを覗くと。


「!?」


「あ……苦手だったら、見ない方がいいかも?」


 カワサキさん、その注意、遅いです……


 モロに見ちゃったわよ。


 オオタカさん、の、幼鳥の、シーン。


 足元に散乱する、白い羽の絨毯。ちらっと見える、赤。



 弱肉強食。


 食物連鎖。



 野生の王国。



 そんな単語が、くるくるっと、頭の中を渦巻く。



 はぅぅ。



 シャッター音が鳴りやまず。カメラマンさん達の小声の会話も聞こえる。


「こんな近くで見れたのは初めてだなぁ、ウチも……」


 ファインダーを覗きながら、カワサキさん。


「私も……」


 まぁ、カワサキさんでさえ初めてなら、蘭先輩も初めてだろうね。


 もちろん、わたしも。


「うわぁ、えげつないなぁ、さすがに……」


 方菜ちゃんの素の感想。同意。


 正直、直視できない。したくない、感。


 でも。


「うぅ……」


 気持ち悪い、と、思いながらも、食事中のオオタカさんを、撮る。


「ふぅ……」


 ひとしきり、撮影して、一息。


 ファインダーから顔を上げて、ふと、見ると。


「?」


 ちょうど、わたしの斜め前に居た若い男性が、カメラを手に、一歩、二歩、前にゆっくりと歩き出した。


 慣れたカメラマンさん達が、オオタカさんを刺激しない、ギリギリの線を保って位置取りしていると思われる。


 それより前に出てしまうと……


 男性が、その線を越えて、さらに前へ。


 ここで、大声を上げたら、その声でオオタカさんを刺激してしまう。


 気付いた誰もが、そう思っただろう。


 近くで、小声で、「おい、やめろ!」と叫ぶのが聞こえたが、男性はさらに前へ。


 当然の如く、オオタカさんが男性の方を見たかと思うと、瞬時に。


 バサッ!


「!」

「あ」

「ああっ!」


 オオタカさんが飛び立つ音と、カメラマンさん達の、悲鳴とシャッターの連射音。


 そして、飛び去るオオタカさんを見送り、呆然とする一団。


 でも、すぐに。


 前に出た男性に、別のカメラマンさんが数人駆け寄って、怒鳴りつけている。


 男性の方も、大声で怒鳴り返している。


「行こうか」


 カワサキさんが先導して、わたし達は、その場から離れる。


 の男性がどうなったかは、わからないけど。


『もっと近くで』『もっと大きく』『もっとキレイに』


「気持ちは、わからなくもないけどね……」


 ぼそっと、カワサキさんがつぶやく。


「それにしても、ですわよね……」


「……せやから、ウチ、嫌いやねン、カメラマンは……」


 蘭先輩も、方菜ちゃんも。


 あの男性が居なければ。


 あの男性が、前に出なければ。


 誰かが、引き留めていれば。


 たら、れば。


 わたしも、気付いたけど、何もできなかった。


 下手に動いて、わたしがその引き金を引いてしまうかもと、一瞬、躊躇。



 とぼとぼ、と、自転車まで戻り、撤収。


 オオタカ島のポジションへと、戻る。


「まぁ、でも、ちょっとでも、こんな近くで撮れたのはヨシとしたいね」

「ええ、ギリギリ、間に合った感じ、ですわね」

「もう少し遅かったら、全く撮れなかったか……」


「ふむ……コレは、ハトやなぁ……」


 方菜ちゃん、めっちゃ冷静に、オオタカさんのお食事を分析。


「いや、最初に、ハト捕まえたって情報だったよね?」


「あ……」


 聞いたところによると、シンさんやカワサキさんと顔なじみの常連さんが、目撃したそうな。


 林の中でキビタキさんとかを撮っていたら、猛スピードでハトを追いかけるオオタカさんが飛来。


 目の前でオオタカさんがハトをキャッチして地面に叩きつけたんだとか。


 それが、さっきの場所らしい。


 その瞬間を。


 見てみたかったような、見たくないような。


 まぁ、見てないんだけど。


 想像すると、ちょっと……




 そんな、秋が深まりつつある日、でした。




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