第39話:夏の遠征⑤~鳥のケンカは誰も食わない?
ゴイサギさんもアマサギさんが飛び去ってしまったので、わたし達はそこで朝食を摂ることに。
田んぼの脇に大きめの樹があったので、その木陰で朝ごはんもぐもぐ。
食事を終えて少し休憩してから、再び移動。
カワサキさんが自転車のハンドルにスマホを付けて地図を表示して先導してくれる。残念ながら『ケリさんの居る場所』なんて表示は出せないので、それらしい場所を探して移動。
稲を育てている田んぼよりは何も育てていない休耕田の方が狙い目なんだとかで、休耕田を探す。
さっきのアマサギさんを始め、シラサギさん達は稲穂より背が高いので見つけられるけど、ケリさんはそれより背が低く、稲穂に隠れてしまうらしい。なので、稲が植わっていない休耕田がよいのだとか。
いくつか、水田の一角にちらほらとそれらしき場所があった。
完全に干上がってカラカラに乾燥しているところ。
水がいっぱい入って池みたいになってるところ。
少し水が残ってぬかるんだところ。
カワサキさん曰く、いずれも土地を休ませて土地そのものを育てているんだそうで。こういう場所は、秋から冬にかけて作物を植えるための準備をしているんだとか。
そんな中。少し水が残ってぬかるんだところで。
「あれは何でしょう?」
遠くに小さな鳥が居るのが見えた。
「あれは……多分、コチドリ、かな? ちょっと待って」
カワサキさんは自転車から降りてカメラを構え、何枚か撮影してプレビューを確認。
「ん。やっぱりコチだわ」
コチドリさん、か。図鑑の写真で見た時はあまり可愛く見えなかったけど、遠目に見ると小さくてかわいい感じがする。
背中と羽が茶色で、お腹側は真っ白。
こうやって見てみると、土の茶色と背中の茶色が溶け込んでちゃんとした保護色になっていることが分かる。お腹の白が目立って、動いたので気付けたけど。
わたしも自転車を降りて何枚か撮影。蘭先輩も続く。
撮影してプレビューを拡大してみると、うん、やっぱり可愛い。
なんでだろう? 図鑑の印象と全然違うなぁ。自分で見つけて自分で撮ったから、かな?
「おじさま、あれを」
コチドリさんを撮っていたら、蘭先輩が声を上げた。
蘭先輩が指さす方を見ると、二羽の小鳥さんが……ケンカ? をしていた。
ものすごいスピードで追いかけ合い、時々、正面からぶつかる様に体当たり? をしている。
「セキレイ……ハクセキレイかな?」
動きが早いのに加えて、上へ下へ不規則な飛び方なので、照準器で追いかけるのも大変。ちゃんと写ってるか全然自信ないけど、とりあえず、シャッター。
以前に、ツグミさんとヒヨドリさんがケンカバトルしているのを見た/撮った事もあったけど。意外と鳥さんってケンカっ早い?
と、そこへ。
「また何か来ましたわよ」
蘭先輩の言葉通り、ケンカしているハクセキレイさんのところにもう一羽、同じくらいの大きさの茶色っぽい鳥さんが乱入して来た。
乱入と言うか、近くに居て巻き込まれた?
「ヒバリだねぇ」
カワサキさんがぱぱっと撮影してプレビューを確認して断言。
「ハクセキレイは片方が今年生まれの若だな。巣立ちの追い出しされてるか、巣立った後に別のハクセキレイの縄張りに迷い込んだか……」
へえええ。そういうのもあるんだ。
「まあ、よくわからんけど。ハクセキレイに限らずだけど、鳥はたまにあんな感じでバトルしてるね」
おぉぉぉ。わりとあるあるなんだ。
とか、写真を確認したり、会話したりしているとハクセキレイさん達はどこかへ飛び去って、代わりに。
「ツバメさんだー」
ツバメさんが大勢飛来。田んぼの上、地面すれすれのところを旋回していた。
公園の広場でもよく見た、ぐるぐる周回飛行。沢山居るからどの子を狙っていいのかわからなくなるけど、撮りやすそうな子を狙って。
よく見てみると、何組か二羽づつペアになって飛んでいる子たちが居たので、優先的に狙ってみる。
あまり撮りすぎると、電池とメモリがヤバくなるので、ほどほどにして、プレビュー確認もそこそこに。
電池の予備は追加で購入してあるし、メモリカードも予備をお父さんにもらったから多少は大丈夫ではあるけど。肝心な時に電池切れ、メモリいっぱいは怖い。
なので、その場所での撮影はそれくらいにして。
少し水分とかも補給して、また自転車で移動。
んがしかし。
「ケリぃぃぃぃぃ」
「居ないですねぇ……」
「……」
カワサキさんは結構、テンション高めだけど、蘭先輩が無口になって表情もなんとなく怖いよ。と、言うか、体調悪いのかな? 暑さで熱中症?
「蘭、大丈夫? 具合、悪くなってない?」
「ええ、体調は問題無いですわ。ただ……」
「ただ?」
「野鳥撮影と言うより、ただのサイクリングになってるな、と……」
なるほど、確かに……まあ、これはこれで、アリ? いやいや。やっぱり鳥さん撮りたいよねえ。
お昼ごろまで探し回ってみたけど、空振り。
お昼ご飯は幹線道路沿いにある牛丼屋さんでささっと済ませた。近くにコンビニがあったので、そこでクーラーボックス用の氷と飲み物を補充。
かなりの暑さなので、わたしの自転車の荷台に取り付けたクーラーボックスが活躍。いつでも冷えた飲み物を飲めるのは有り難し。田んぼの真ん中で飲み切ると近くに自動販売機なんて無いし、さすがカワサキさん。用意しゅーとー。
幹線道路に出たついでに、道路に沿って少し移動。さっきのエリアから離れて別の方面へ。
場所を変えても景色はほぼ同じ。稲穂の波揺れる水田ばかり。所々に稲以外の作物の畑とか、プレハブとかもあるなー。たまに休耕田もあってケリさん探してみるけど見当たらず。あと、小さな公園と、ため池。
ケリさんは池にはいらっしゃらないと言うことで、一応、他の珍しい鳥さんが居ないか覗いてみるけど、特にめぼしい鳥さんは居られず。
お昼を過ぎて太陽カンカンで鳥さんも木陰で涼んでるんだろうか? 午前中に比べると明らかに少なくなってる気がする。
骨折りゾーンに入って来た感じで、暑さもあって疲れてきた。
小さな公園があったので、また少し休憩。
「なかなか、見つかりませんね」
「んー、ここらへんなら居るかと思ったんだけど。無理してもしょうがないから、ちょっと早いけど午後は少し早めに切り上げて夜に備えるか……勝負は明日の早朝、かな」
そう。
例のカワサキさんの予定表、旅のしおりによると今夜、鳥さんとは別にもう一つイベントがあるのだ。
「っと……ファミレスがあるから、そこで涼みながら時間調整してから目的地に移動しよっか」
カワサキさんの作戦で最寄のファミレスへと向かい、そこで少し休憩。
のんびりと涼んでから頃合いを見計らって再出発。
さて、夜のイベントだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
近況へのリンク
コチドリと鳥さん達のケンカバトルとか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます