第二章:三学期、新学期/春
第18話:三学期
冬休みが終わって、三学期。
高校一年、最後の学期。
えと、まあ、うん。若干、ダルい。
休みが終わるのもだし、学校へ行くのもだし、特に、ねぇ。『彼』と会うのが、やっぱり、なんか、辛いところがある。
冬休みに入って、『彼』に会えなくなって、暴走したわたしの心。
オオタカさんと言うか、鳥さんたち、鳥撮りさんたちに癒され、救われた感もあるけど。
自分でもどんな顔をして『彼』に会えばいいか。
休みに入ってからの急変だったのもあるし。
考えないようにしてたから現実に引き戻された感じ。
うう。
かといって、こんなんで登校拒否はナンセンス。
気を取り直して、気合を入れて。
「いってきまーす」
お天気でよかった。これで雨とかだったらそれこそ登校拒否りそう。
家から駅へ徒歩十五分。電車で四駅。駅から学校も十五分(ぐらい)
あるいは、もっと遠くのイイトコの私学とか。
わたしと彼はマイナーな、少し遠いところのこの学校に進学。
その学校に到着。
わたし達一年生は、校舎の四階。
二年三階、三年二階。一階は美術、化学とかの特別教室に職員室とかとか。
エレベータやエスカレータなんて、もちろん無い。
若い者ほど苦労をしろって? はいはい。階段をえっちら登る。
教室の前で、一旦停止。
はー、ふー。深呼吸。
扉を開けて自分の席へ。
深呼吸してきて正解。お隣さんがすでに来てた。今日はやけに早い。
方肘付いて、もう片方でスマホをいじいじ。ゲームかな。
自分の席に着きながら、新年のご挨拶。
「あけおめ、石田……くん」
「ん? あ、河崎か。あけおめ」
仲良くはなっていたけど、実は連絡先の交換とかはしてなかった。
たまに行き帰りに一緒になる程度だし、特に共通の趣味があった訳でも無く。
だからメリクリのメッセージも、年末年始の挨拶メッセージとかも、とくに無し。
もちろん、通話も無し。
そもそも、わたしも彼も連絡先を交換しようという発想がなかった。
それぐらいの浅く軽い関係。
連絡先を知ってたら、暴走したわたしがメッセージや通話で『やらかして』いたかもしれない。ある意味、『セーフ』だったかも?
「お正月、どうだった?」
平静を装って、軽く世間話を振ってみる。
「んー、寝正月?」
「あはは。何それ」
「そっちは?」
「んー。両親の実家めぐり?」
「大変だな」
「まあ、近所だしね。お年玉ももらえるから」
「それは……いいな」
「うん」
あえて鳥さんの話はしない。
何故? って理由に辿り着いてしまうと、色々とやばい。
石田君とは基本的に学校の話が中心。先生の愚痴とか、勉強の事とか。
個人的な趣味の話と言えば、二人とも読書が好きってところぐらい?
でも、その読書も好きなジャンルが全く違ってて、中身についての話はほとんどしたことが無い。
今にして思えば、意外に思えるけど。
だから石田君がやってるゲームの内容も知らない。
ゲームをやってること自体は知ってたけど、自分がやってるゲームを『一緒にやろうぜ!』みたく誘われることも無かったし。
逆にそういう淡泊なところに惹かれたのかなぁ。
今も、別に嫌いになった訳じゃないし。
まだちょっとドキドキ感は続いてるけど、話してたら、なんか、休み前のテンションを思い出して『普段通り』に戻って来たかな……?
他愛もない会話の後、時間が来たので体育館に移動して始業式。
校長先生の話を聞いて(スルーして?)、ホームルームで担任から三学期のイベントについて簡単な説明を聞いた後はすぐに解散。
徒党を組んで遊びに繰り出すグループもあれば、数人で寄り合ってどこかへ向かう算段をしているメンツも居る。
わたしも数人の女子に誘われたけど、用事があるって断った。
今日は本屋さんへ行くのだ。
ちなみに、石田君は、別の男の子達に混ざってどこかへ行く模様。
……ま、いっか。
さて、と言う事で、おひとり様でご案内。
学校を出て駅から離れる方向に歩くと、高速道路の高架に出る。
高架に沿ってしばらく進むとぽつんぽつんと大型の店舗がいくつか。
ホームセンター、家電量販店、そして目的地のブックセンター。
そう、『野鳥図鑑』を探しに来たのだ。
お年玉も入ったことだし、一冊カバンに入れておきたい。
まわりの人に教えてもらうばかりだと恥ずかしいところもあるし、自分で調べられるように。
駅前にも小さな本屋さんがあるけど、図鑑とか専門的な書籍はなかなか置いてない。学校に近いこの大型のブックセンターはありがたい。
えーと。専門書のコーナーは、っと。
入口近くにあった店内マップでおおよそのエリアを確認。その場所へ移動。
エリアに着くと、詳細マップで『ネイチャー』のコーナーにアタリを付ける。
木、花、野草、植物系。昆虫、魚、動物系……あった、『鳥』
鳥さん関係の本だけで、棚の1列近く並んでいる。
大きいのから小さいの、薄いのから厚いのまで。図鑑もだけど、読み物的なのまで、多種多様。
鳥の名前の由来とか、カラスだけで一冊とか。フクロウやペンギンの本なんてのもある。そうか、ペンギンも鳥だし、行くところに行けば、野鳥か。まあ、日本で野生のペンギンには会えないだろうけど。
っと、図鑑、図鑑。
図鑑だけでも数種類。分厚くて大きいのが目立ってるな。
手に取って、ぱらぱらっと中を見てみる。
ふむふむ。これぞまさしく図鑑! って感じで、解説もしっかりしてそう。
何より、大量の鳥、鳥。種類もいっぱい載ってて、よさげ。
裏を見て、値段を見て、びっくり、三千五百円。
「高っ!?」
いくらお年玉があるとは言え、高いものは高い。
それに、持ち歩くには大きくて重いのも難点。
もちょっと軽くて小さくて安いのないかな。
大きさが半分ぐらいのやつを手に取る。先に値段を見てみると、千五百円。
普通の文庫小説とかと比べるとお高いけど、さっきのと比べると半分以下。
表紙もフルカラー。中をぺらぺらっと見てみても、基本的にフルカラーのキレイな写真がいっぱい。
ぉぉ。
これよさそうだな。これにしようかな。
他のも見比べてみるけど、やっぱり、大きさ重さと値段で、この千五百円がリーズナブルん。
よし、これにしよう。
右手をぐっと握って決意を表明。
したらば。
「あら? 貴女、エイム?」
へ?
見ず知らずの女の子に声をかけられた。
眼鏡におさげ、制服は…ウチの高校のだな。背も高くてスタイルも良いけど、はて? なんとなく見覚えが有るような、無いような。
こんな知り合い居たっけか?
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