第12話:気分はスナイパー!?



 翌日、一月四日。


 今日はちょっと朝寝坊。

 

 昨日の午後、お母さんからカメラの構え方の参考にと銃の構え方についてレクチャーされたんだけど、これが結構、いや、かなり厳しくて、それで疲れて爆睡しちゃって今朝はお寝坊さん。


 教えられた構えの中に『うつぶせに寝転ぶ』なんてのがあった。

 狙撃手スナイパーなお母さんの、一番得意な構えだったらしい。

 確かに、安定感はすごくあるけど、いやいや、待って。鳥さん撮るのに、寝転ぶとか、あり得ないでしょ?


 と、思ってました。


 公園のお池へ到着すると、丁度、カワサキさんたち数人がカメラを担いで自転車に乗り込むところ。


「おはようございます。どこか行かれるんですか?」

「ああ、おはよう。丘にトラツグ入ってるらしくてね」

「トラツグ?」

「トラツグミ、ね」

 トラツグミ?


「タカさんは居ないです?」

「さっき一瞬いたけど、飛んでちゃった」

 なるほど。


「わたしもご一緒しても?」

「どぞどぞ」


 と言うことで、トラツグミがどんなのかわからないまま、カワサキさん達の後に着いて自転車で公園内を移動。


 もうひとつの大きな池に沿うように、小高い丘の連なりがある。


「ここですか」

「うん。この上。そーっと、ね」

「了解です」

 鳥さんが居ても、居なくても、基本はそーっと。


 丘のふもとの園路はすでに自転車がいっぱい。車列の後ろに自分の自転車を停め、カメラと三脚をセット。

 セットした三脚を担いでカワサキさん達の後を追う。

 丘を登ると、そこには異様な光景が広がっていた。


 鳥撮りカメラマンさん達が十数人…いや、二十人以上いるかな?


 居るのはいいんだけど、皆、座り込んでいるか、信じられないことに、半分ぐらいはいる。


 え、マジ!?


「地面に降りてエサを探すからね。できるだけ地面と平行にして表情とか撮れるように。立ったまま上の方からだと背中ばっかりになっちゃうでしょ?」


 頭の上に『!?』マークを浮かべるわたしに、カワサキさんが三脚をセットしながら教えてくれた。


 見ていると、カワサキさん達の三脚は脚を大きく広げて高さを低くする機能があるみたい。

 普段、脚が広がり過ぎないようにしているロックがあって、それを解除するとさらに脚を広げられるんだとか。


 わたしの……お父さんの……三脚はそんな機能は、ない。

 となると、三脚から外して手持ちで行くしかない。

 手持ちで一番安定させるとしたら……


 きょろきょろ。


 近くに落ちてた手ごろな大きさの枯れ枝を三本拾って、同じ長さにポキり。

 輪ゴム雲台から輪ゴムを一本外して、枯れ枝に巻いて三脚のように組み立てる。

 三本枝の下に手ごろな大きさの石も入れて強度と安定性を確保。

 その上にカメラを乗っけて、寝っ転がれば……

 んー。気分は完全にスナイパー?


 で?


 肝心の『トラツグ』さんはいずこ?


「来た」


 ナイスタイミング。


 トラツグさん樹の上の方に居たらしい。それがちょうど正面の地面に降りて来た。

 降り立つとすぐに樹の根元の落ち葉を漁り始める。

 その下に居る虫とかを探しているみたい。


 トラ『ツグミ』って言うぐらいだからツグミの仲間で、ツグミと同じ習性なのね。ツグミはそこらじゅうで見れるので、動きが似てると分かる。


 カシャ。カシャ。


 辺りから断続的にシャッター音が聞こえて来る。


 わたしも照準器でエイムして、ファインダーに切り替えて微調整。

 おぉ。これがトラツグ、トラツグミさんか。

 アップにすると表情までよくわかる。

 大きさはヒヨドリぐらいで、ヒヨドリよりポッチャりしてる感じ?


 いや、まあ、なんと言うか。


 可愛い系とかカッコイイ系じゃないですね。

 細かい縞模様がちょっと不気味系入ってる?

 ああ、このシマ模様が虎っぽいから虎ツグミなのかな。

 色は虎とはちょっと違うけど。


 いずれにせよ、初めまして。とりあえず、撮ろう。


 カシャ。カシャ。


 あっちへうろうろ、落ち葉をがさがさ。

 きょろきょろ。辺りを見渡して。

 こっちへうろうろ、落ち葉をがさがさ。


 あっちに行くとお尻の方になるので、撮影はほどほどに。

 こっちに来る時や、左右に移動して表情が見える時には、撮りまくり。


 しばらくすると、高い樹の上へ飛んで行ってしまう。


 周りの会話を漏れ聞くに、昇ったり降りたりを繰り返してる模様。


 なので、寝転んだまま、待機。


 うん。デニムのパンツにして正解だった。


 多少汚れるのも覚悟して、よそ行きじゃないくたびれた古いやつ。捨てずに取ってあったのがお役立ち。

 上着は寒いので、ダウンジャケットなんだけど……


 トラツグさんが木の上に登って待機中。


 まわりの人の装いを見渡して思った。

 わたしのこの『ピンク』のダウンジャケット、これは目立ちすぎじゃないかしら。

 ほとんどの人が、黒か灰、茶色系の落ち着いた色。中には完全に迷彩服の人もいらっしゃる。

 寝っ転がってる人を見ていると、草と枯草の地面に溶け込んでるのがわかる。

 ピンクはどうだったかわからないけど、黄色とか警戒色って言うし。

 派手な色より落ち着いた色の方が目立たなくて、鳥さんにも気付かれにくいかもしれない。


 こうやって寝転んだり、樹に寄りかかったりして汚れる事も考えたら、他にいいのがないかお母さんに聞いてみよう。


 いや、なんかもう、それこそ迷彩服が出てきそうな気がしなくもないけど。


 そんな事を考えながら、トラツグさんが何度か降りて来てぱしゃぱしゃ。

 でも、何度目かには別の方角に飛び去ったので、トラツグさん、終了。


 何人かは「また戻ってくるかも?」と期待して残ったけど、カワサキさん達は移動するみたい。


 オオタカさんが居ないなら、カワセミさんかなぁ、とカワサキさんに相談して、例のカワセミさんの居た小さな池に行くことにした。


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近況ノート:トラツグミのサンプル写真

https://kakuyomu.jp/users/nrrn/news/16817330654749571794








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