第3話:カメラでもって公園で



 早朝。日の出前。


 防寒対策もきっちりと。しっかりと充電したカメラも持って、いざ。


「帰ったら大掃除の手伝いしなさいよ」

 お母さんにきっちり釘をさされた。


「は~い。行ってきま~す」


 公園までは自転車で下り坂を十五分程度。帰りが登り坂になるので大変だけど、行きは良い良い。


 まだほの暗い中、昨日の場所へ行くと、すでに大勢の人が集まっていた。こんな年の瀬に皆さん……って、わたしも他人ヒトの事は言えないか。


 昨日と同じ池のほとり。あのおじさんも居た。


「おはようございます」

 近くによって小声で挨拶する。あまり大きな声を出すと鳥がびっくりして逃げちゃうかもってことだよね。


「あ? ああ、おはよう」

 おじさんも挨拶を返してくれた。


「今日も居ますか? オオタカさん」

「居るよ」

 おじさんの指さす方向を見るけど、どこに居るのかさっぱり分からない。


「太い木が三本あるでしょ? それの一番右の樹の左側に伸びてる枝の根本あたり」

 きょろきょろしていると、おじさんが説明してくれた。でも全くわからない。


「向こう向いてるから分かり辛いか。スコープで見て位置確認してみ」

 望遠鏡……スコープって言うんだ……を覗いてみるけど、ぱっと見た感じ鳥が居るようには見えない。目を凝らして見ていると、あ、動いた。あれか。


 黒っぽい葉っぱのカタマリみたいなものが動くと、白い顔が見えた。


 うっすらと明るくなりつつあるとは言え、まだ辺りは暗い。オオタカさんの背中は暗さに紛れて見辛くなっていた。


 わたしはカメラを取り出して電源を入れ、オオタカさんを狙ってみる。


 だいたいあの辺かな、というところを中心にして、ズームを大きくしていくけど、だめだ、暗すぎてよくわかんないや。陽が出て明るくなるまでは何もできそうにないな。おじさんに話しかけてみた。


「毎日来られてるんですか?」

「毎日って訳でもないよ。休みの日だけ。あっちの人達の中には定年して本気で毎日来てる人も居るけど」


 見渡してみると確かに、おじさんよりさらに年配のおじいちゃんおばあちゃんっぽい人が多い。若い人も居るみたいだけど、わたしみたいな学生風の人は全く居ない。

「カメラ持ってきたんだね」

「はい。おと……父に借りてきました」

「コンデジか……撮れるといいね」

「やっぱり、そういった大きいのじゃないと、ちゃんと撮れないですか?」

「まあ、目的にもよるけどね。値段の事もあるし、上を見たらキリが無いよ」


 そう言うおじさんのカメラはわたしのよりもはるかに大きい。でも他の人のに比べると少し小さい感じ。それでも昨日見せてもらった写真はとても綺麗に撮れていたと思う。


 お父さんに借りたこのカメラでどんな風に撮れるのかな……


「高校生?」

「はい」

「そっか。若いのに珍しいね」

「たまたま、昨日偶然……」


 おじさんと他愛のない世間話をしていると、少し明るくなって来たので改めてカメラを向けてみる。

 ピピっとカメラが音を出してピントが合った事を教えてくれる。そこでオオタカさんが横を向いて顔が見えた瞬間、シャッターを切る。すぐに再生ボタンを押して、撮った写真を拡大して見てみると。


「ボケてる……」

 何がなんだかさっぱりわからない感じ。


「ああ、それボケてるんじゃなくて、ブレてるんだよ」

「ブレ?」


「そう、手ブレ。シャッターを切るときにカメラが動いて、画像がズレるように映ってるんよ。多分、この暗さだと手振れ補正あってもブレちゃうと思うよ」

「そうなんですね……やっぱりもうちょっと明るくならないとダメでしょうか」


「いや、撮り方を変えたら少しマシになるかな」

「撮り方?」


「カメラを手だけで支えてるから揺れやすいんだ。液晶パネルじゃなくてファインダーを使って、顔でカメラを固定すればもう少しマシになるよ」

「ファインダー……」

「液晶の上の方についてる、小さな窓みたいなやつ」

 ああ、これか。


 そのファインダーとやらを片目で覗いてみる。確かに安定して画像の揺れ方が少し小さくなったような気がする。


「あと、そっちの樹に寄りかかるようにして身体全体を安定させるともっといい」

 なんか服が汚れちゃいそうで一瞬迷ったけど、言われた通りに横にあった樹に寄りかかってファインダーを覗いてみる。なるほど。もう一枚、シャッターを切ってみた。


「おー」

 さっきと比べるとかなり良くなって、オオタカさんの表情もそれなりに判別できるようになった。


「あ、あとね……その、カメラの音は出さないようにした方がいいよ。気にする人が多いから、小言を言われるかもしれない」

「は、はい」

 それが小言というのでは? とは言わない。こういうのはマナーなんだろうな。設定のメニューがあったはず。


 どうにかメニューを探し出して音を「なし」に。シャッターの音までは消せないから、これはいいよね。昨日もオオタカさんが飛び立った時、ものすごいシャッターの音が鳴り響いてたもの。


 そうこうしていると陽が昇り、かなり明るくなって、おじさんから教えてもらった方法で何枚かオオタカさんを撮ってみる。


 かなり大きく写せてはいるけど画面いっぱいにとはいかず、真ん中にちょこんと写っている感じ。でも拡大するとオオタカさんの顔がはっきりとわかる位には撮れてる。


 んー、やっぱりカッコカワイイ。


 撮れた写真に満足しつつ、昨日見た、飛び立つ瞬間の翼を広げたところとか撮れたらなあ、と、思いながら再度カメラをオオタカさんに向ける。


 すると、昨日のようにオオタカさんがお尻を上げて前傾姿勢になった。


「お、飛ぶぞ」

 おじさんが言った直後、オオタカさんは翼を広げ、ジャンプした。


 わたしも夢中でシャッターを押した。


 他の人達のカメラのシャッター音も鳴り響く。

 ただ、飛び出した後はカメラで追い続ける事ができず、飛び去る姿を見送る事しかできなかった。


 残念だけど、やっぱり難しいものなのね……


 オオタカさんが見えなくなると、我に返って、撮った写真を確認してみる。


 前傾姿勢になったオオタカさん。カッコイイ!


 次。


「ぐあ……」


 次の写真は、オオタカさんのお尻だけが画像の隅の方に写っているだけだった。


 くうう。残念。次こそは!










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