第6話 第二章 養成学校
第二章
心配する母と兄を残して、私はついに東京に出発する日が来た。
「母さん、兄ちゃん。頑張って歌手になったら沢山仕送りするからね」
「こっちは大丈夫さ、正直助かったよ。兄ちゃんの入院費どうしょうかと困っていたんだ。 でもねぇ、お前を身売りするようで母さんは心苦しいんだよ」
「そんな事ないわよ、きっと大スターになって故郷に錦を飾るから」
夕張駅のホームでの事だ。兄は車椅子に乗って頑張れよと言ってくれた。母はもっと話しをしたそうだが、クラスメートや友人達が大勢私を見送りに来ている。母の切ない気持ちは分かるが明るく見送って欲しかった。でないと私の決心が鈍るから。
やがて発車のベルが鳴った。ドアーが閉まる。友人や母が大きく手を広げて振っている。
列車のスピードが上がるとその視界は消えた。代わりに故郷の見慣れた景色が広がる。アイヌ人が名づけたというポロポロカベツ川を列車は渡る。子供の頃よく遊んだ川や山がその総てが通り過ぎて行く。沢山の想い出の詰まった夕張が遠くなる。
私は千歳空港から羽田空港へと乗り継ぎ空港ロビーに出ると事務所の人が迎えに来ていた。私は既に心のスイッチを切り替えていた。私はスカウトされたと言うよりも七百万で買われた身だと自分に言い聞かせた。そう思わないとこの先どんな辛い事が待ち受けているか分からない。そう思えば乗り切れると覚悟を決めている。
その日のうちに事務所のスタッフを紹介され、芸能養成学校の寮に案内された。
翌日から早速レッスンが始まった。歌のレッスン、ダンスのレッスンと基礎訓練などハードなスケジュールが組こまれた。それが半年以上に渡り続いた。
つづく
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