第33話

午後十時。


 


「・・・・・」


 


朱羽コウハは赤い髪を揺らしながら十二区のコンテナ置き場へと足を運んでいた。


今日の朝、学校の自分の下駄箱に入れられた手紙。


その手紙の内容を見た時、コウハの内側に燃えるような怒りが湧き上がったのを未だに感じている。


コウハが目指す目的地。それはこのコンテナ置き場の一角に聳え立つ倉庫だった。


 


「・・・・・」


 


倉庫の端の重厚な金属製の扉のドアノブを捻ると、キィと音を立てながら重々しく開いた。


コウハは険しい表情のまま、暗闇しか見えないその倉庫の中へと足を踏み入れた。


────と。


 


「・・・・・ッ!?」


 


開けた扉が勢いよく閉まる。後ろには誰もいなかったし、風も吹いていないこの状況で、こんな重い扉を閉めるとしたらかなりの勢いがないと閉まらない筈だ。


だがコウハはそちらには視線を向けない。何故なら自身の数メートル先に一人の男の姿があった。


蹲るようにしている男子生徒の姿。彼には見覚えがあった。


 


「やっぱり君かぁ。確か去年、みゃーこにストーカーしてたこと私は覚えてるよ」


 


「・・・・・・」


 


だが、男は何も言わない。そんな男にコウハは更に目つきを鋭くする。


 


「で?君はなんで私を呼んだのかな。みゃーこを呼ぶのは無しね。私は君の事嫌いだし」


 


そう言うコウハに、男子生徒は口元を歪めた。


 


「■◆△に■◇◆▶■●い。それに────」


 


言葉になっていない言葉。そんな彼にコウハは寒気を覚えるが、その男子生徒の声が聞こえてくる。


 


「お前は大気中の空気が全部酸素になると身体に毒になることを知っているよな?」


 


「何・・・言ってんのさ」


 


訳が分からない。話が噛み合わないし、そもそもこの男子生徒は何を言っている?


 


「酸素中毒って言葉────知っているか」


 


「なあ、憎き憎い俺の人生を全て狂わせた大嫌いな魔法少女。俺とイッショに死のうぜ」


 


その言葉と同時に男子生徒が能力を発動させた。


そして一気に周囲の“大気”が“酸素”になる。


 


「・・・・ッ!?あ、!?」


 


大気中が全て酸素になった。酸素の過剰摂取は身体にとって猛毒だ。


目が霞む。気持ち悪い。息が出来ない。


そんな中で男子生徒は激しく咳き込みながら笑っていた。


 


「ガヒュッ!?は、は、はは、あいつの、せいだ!あの女のせいで全部、終わった!あの、女を呼び出せないのが残念、だが、ガフっ!?アイツの大事なモノを奪って、後悔させてやる!」


 


「ただの、逆恨み、だし、みゃー・・・こは関係、ないじゃん」


 


「うるさい!うるさいうるさいうるゲボッ!ゲボッ!?」


 


男は激しい咳込みと共にライターを取り出した。


 


「だっ、たら、跡形もなく消し飛ばしてや、る」


 


そう言ってつけられたライターの火は爆発するように燃え広がる。


そんな中、視界が霞むコウハは何もできずに倒れ伏した。


 

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