第27話 雨宮都
雨宮都は魔法少女になる前は、努力家の女の子だった。
雨宮都の母親は、有名な女優だった。各種メディアで頻繁に露出され、テレビで見る母親は、綺麗で、優しそうで、まさしく理想の母親然としていた。
だが、都は、そんな母に褒められた記憶がほとんどない。
命令。禁止。命令。禁止。それだけが、彼女が母から与えられた言葉の全てだった。
両親が離婚したのは、都が五歳の時だ。
優しい父親だったと今でも覚えている。機械部品を作る生産者で、よく自分を連れて色々な所に連れて行ってくれた。
家を出ていったその日も、父親は都に沢山愛情を注いでくれた。
大きな家には都と母親しかいなくなり、厳しかった母親がヒステリックに叱りつけるようになったのはちょうどその頃からだ。
小学校に入学すると同時に、都は中学受験塾に通わされ、やがてスイミングスクールと英会話教室が追加された。遊ぶ時間など存在せず、数少ない友達と遊びたいと言えば、激怒した母親に思いきり殴られもした。
勉強はできたがクラスでは浮いた存在で、友達と呼べる子も徐々に都から離れていった。
だが、母親が血道をあげたのは教育だけではなかった。
都を優秀な女優に仕立てる為に、様々な教育を都に教えていた。
演技やダンス、歩き方から話し方まで彼女の自由までも強制させた。
なぜ、母親は都にそんなことをさせたのか。
それは、自分の本や雑誌に、都の写真を載せる為だった。
自分がいかに正しく子供をを育てているか。自分の娘がどれだけ優れていて素晴らしいものか。それを誇示する材料に都は使われた。
最初は都も母親の期待に答えようと努力した。
母の期待に答えれば褒めてくれるだろうと。だが、そんな都の期待は裏切られる。
少しでもミスをすれば怒鳴られ、テストで満点が取れなかった時はお仕置きを受けた。
暴力
暴力
暴力
そんな都が母親から暴力を受けていることを気付いたのは、学校の教職員だった。
身体測定の時、彼女の身体がアザだらけだったことに気付き、教職員が警察や児童保護団体に連絡したのが、きっかけだったらしい。
そのせいで都の母親はこれまでの人生で積み上げてきたモノ全てを失なった。
メディアには悪いように言われ、会社には契約を切られ、そのストレスからか母親の体調はみるみるうちに悪化していった。
そして、なにもかも失った都の母親は呪詛を吐くようにまだ小学ニ年生の都に、叫んだ。
───せっかく積み上げてきたモノがアンタのせいで台無しよ!さっさと出ていけ!!アンタの顔なんて見たくもないわ!!この───疫病神ッ!!
まだ幼かった都にとって、母のその言葉は呪いとなった。
そして次の日。都の母は首を吊って死んでいた。
幼い都は自殺した母親だったモノを見て、自分が母親にはどう写っていたのかを知った。
“この───疫病神ッ!!”
私は───“要らない子”だったんだ。
私は居るだけで周りに迷惑をかけちゃう要らない子なんだ。
ごめんなさい。生きていてごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
そんな呪いのような自罰の念に囚われた都は、自分の命を絶とうと橋から飛び降りようとしたとき、そんな彼女の手を掴む人がいた。
顔はもう覚えていないけれど、“彼”の手の暖かさは今も覚えている。
父親がいなくなった都には縁遠いものの筈だったもの。
寒くて暗いところから引っ張ってくれるような暖かい手。
都は一度、それに救われた。
生きていいのだと。誰かが肯定してくれた気がして───
だけど───
ごめんなさい───あの時、助けてくれたおにいさん。
わたし頑張って生きたけど、やっぱり要らない子だった。
ごめんなさい、お母さん。 ごめんなさい、お父さん。
ごめんなさい、白音ちゃん。 ごめんなさい、コウハちゃん。
ごめんなさい、海さん。 ごめんなさい、モノさん。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい──────“慎一郎さん”
雨宮都の───魔法少女の力が堕天する。
そして───
「aaaaaaaaaaaaaaあああああああああッ!!」
破滅の歌姫がここに誕生した。
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