第63話 東京で異世界の扉開いたってよ

「何とか、間に合ったな……」

「「「「「ありがとうございまーす!!」」」」」



 丁度店が閉まる頃、俺と源さんは弟子達の宿舎を作り終えていた。場所は凪さんの家の後ろ、つまりは店の斜め後ろ側だ。


 中は簡単に部屋を10部屋、共同スペースのリビングに台所、トイレ等を作った。中は少し簡素だが、これから個人個人の荷物を入れれば良い感じにはなるだろう。



「哲平」

「ん、ありがとう」



 俺は源さんからサイダー瓶を受け取り、飲み干した。はぁ、久々にサイダーとか飲むと最高だよな。



「此処も随分人が増えたなぁ」



 源さんがボソッと呟く。

 此処ら辺はお年寄りが多い。だからだろうか、若者が増えたお陰なのか源さんの表情が何処か明るく見えた。


 気持ちは分かる。若い人が居るだけで、力を貰える事は多いし、明るくなれる気もする。



「まぁ……肝心の客数は増えて無いんですけどね……」



 俺は大きく溜息を吐いた。



 祭りでさ? あんなに宣伝もしたんだし、態々2回買いに来てくれた人も居たぐらいなのに?何故こうもお客さんが来てくれないんだ……!!



 俺が悔し涙を流していると、源さんが俺の肩をポンポンと叩いて来てくれる。



「しょうがねぇだろ。今のご時世だとなぁ?」

「……まぁ、値段も高くなって来てるからね」

「あ? 哲平知らねぇのか?」



 ん? なんだ?



「最近ニュースでもっぱらの噂じゃねぇか。東京に店の裏にある扉と同じやつが出たって」



 ……ん? 店の裏に扉? それってもしかして。



「『異世界の扉』?」

「おー! それだそれだ!! 天峯もぼやいててな? 旅館の来客数が激減したとか……」



 そ、そうなのか……全然知らなかった……。って、それって大丈夫なのか? もしかして魔物とかが出たりしてるって事なのか?



『はい。出ているみたいですよ?』



 俺が心配してると、それに指導者さんが応える。振り返るとそこには指導者さんが居た。



「マジ……?」

『はい。エースさんの話によればですけど』



 え、エースさん? いや、まぁ今はどうでも良いか。


 俺は直ぐ様スマホを開き、インターネットを見た。



「………oh」



 そこを見れば東京に出た異世界の扉のニュースが沢山載っていた。



『大きさはアメリカよりは一回りほど小さいですが……相当な大きさらしいです』

「……みたいだな」



 俺はスマホをスクロールする。しかしーー



「魔物の話題は出てないみたいだけど……?」

『その事は比奈様が言っておられましたが、ご友人からの話では国が情報を統制している様なのです』

「情報を統制?」

『はい。国民に不安を与えない為……だとは思いますが、それが裏目に出ていますね。SNS等で、徐々に魔物が扉から出ている事がバレてきて、それが国民の不安を逆に煽っているようです』



 あー……何で隠すのか、なんかヤバい事でもあるんじゃないかって事か。



『その為、ウチの店にも影響が出ているのではないかと』

「……関東にある『桜花』は兎も角、何でウチまで?」

『………それについてはまだ調査中です』



 ふーん……何でかなぁ?



「まぁ、分かったら教えてくれよ? KIROの為だからな! すぐ対応するぞ!」

『はい』



 俺はスマホをポケットにしまい、また源さんの隣に座り込んだ。



「哲平もしっかりしたなぁ」

「ま、一応此処の責任者だからね」



 そして、久しぶりの源さんとの会話を楽しんでいるとーー



「おとーちゃーん!!」

「おー、どうしたー?」



 遠くからメマが走って来て、俺は振り返った。



「みてみてーっ! ひろったー!!」



 メマの抱え込んでいる腕の中には、小さな人形の様な物があった。切り株のような物を被り、後は手抜きの緑色の全身タイツみたいなデザイン。



「おー! 可愛いな〜」



 俺はその人形に手を伸ばした。



 まぁ、これが最近の可愛いってやつなんだよなぁ。でもこんな所に人形なんて捨てられてるかね?



 俺が人形に触れようとした瞬間。



 ぺし



「ふぇ?」

「すごいでしょ、このこー!!」

「て、哲平! い、今う、動いっ……!!」



 ………捨てて来て。怖いから。

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