第51話 2人は優しい
「メマー!」
屋台の通りから裏側の路地まで、俺は隅々と言うほどに走り回り汗だくになった。
くそ……何処に行ったんだ! もう時間が……。
花火大会の開始時間前まで探し回ったが、俺はメマを見つける事が出来ず、一先ずKIROの屋台まで戻った。
「やっと戻って来た……ほら、準備して下さい」
「早くしろ。ぎゅー様にも協力して貰ってるんだぞ」
「2人とも……悪い……」
「「?」」
俺は首を傾げる2人に、メマとはぐれてしまった事を簡潔に説明した。
「ーーって事なんだ。本当にごめん」
大人として、保護者としてメマと一緒に居たのに……何をしてるんだ。
俺が深く頭を下げると、2人はそれぞれ反応を示した。
「なるほど……まずは運営本部の方に迷子が来ていないか確認しましょう」
「何故メマ様の事を見ていなかった……お前にとってメマ様はその程度だったって事だ。反省しろ」
2人は怒る事なく俺に言った。凪さんからの言葉はキツイが、何処か愛のある叱り方の様な気がする。
「……」
「何だ? 早く行くぞ?」
「……何で怒らないんだ? 俺は保護者としてメマの事を見守る事が出来なかった……それに俺は……」
メマを信用する事も出来ずに、真っ先に頭を下げてしまった。
今思えば恐らく、それがメマには納得がいかなかったんだ。社会人としては正解だったのかもしれない。だけど、アレでは"親失格"だ。
俺がもっと上手くやってれば……。
「はっ!」
俺は2人に目も合わせる事も出来なかった。それに凪さんは呆れたのか、先へと行ってしまう。
「……しょうがないよ。誰だって失敗する事はあるから」
「比奈……でも……」
「多分凪さんも……哲平さんがちゃんと反省してるから最初の一言だけ終わったでしょ? 元気出して?」
比奈は優しく俺に微笑んで来てくれる。
……いつもなら俺の失敗に怒涛の毒舌を披露する凪さんだけど、多分心の中で俺の事を貶しているに違いない。そうに決まってる。
「一先ず………屋台はまだ始められないですね。メマちゃんの事探しに行きましょう?」
落ち込む俺は、比奈に困った様な笑顔で手を引かれながら運営本部まで向かうのだった。
__________
「あぁ? 1発でのされた?」
「はい。コイツ、使えないですよ」
薄暗い部屋の中。黒髪の男は、部屋の奥に座っていた30代ぐらいのメガネを掛けた者の前に、気絶した大男を投げ飛ばした。
周りには数人黒服を纏った者が佇み、奥にいる者の鋭い視線が、更に重い空気を作っていた。
「ふぅー…………あのなぁ、クロ」
「今回は俺じゃないですよ」
「ん? ……お前が気絶させたんじゃないのか?」
驚いたかの様に片眉を上げられ、クロと呼ばれている男はそれに答えるかの様に首を横に振った。
「違います。まぁ、コイツには見込みがなかったんで、後でやるつもりでしたが」
「これ以上は勘弁してやれ……それで? 何処のもんにやられた?」
クロを見据える鋭い視線は変わらず、奥に居る男は尋ねる。
「一般人に、やられました」
「一般人だと? ケジメは付けてきたのか?」
「……いいえ。俺1人では手に余ると思い、手を引きました」
そう言った瞬間、部屋に居る全ての人間の呼吸すら止まったかの様な静けさが部屋を支配する。
「お前が、か?」
「倒せは出来ます。しかし、信条もないバカ1人に釣り合わない傷を負わなければならない……」
そう言うと、メガネの男は葉巻の煙を上に大きく吐いた後言った。
「……クロ、まずはそいつがどんな奴か調べて来い。話はそれからだ」
「はい」
クロは冷静にメガネの男を見つめ返し、部屋から出て行く。それと同時に空気は弛緩する。
「あ"ー、クロから見てもヤバい奴がいんのかよ……」
メガネの男は、後ろの壁に立てかけてあった刀を持つと倒れている大男に近づく。
「世の中怖いねぇっと!」
そして何の躊躇いもなく、突き立てられる刃。その刃先は大男の顔ギリギリに突き立てられる。
「っ……」
「ウチで汚ねぇ真似してんじゃねぇ……さっさと失せな」
大男は急いで部屋から出ようと、四つん這いのまま部屋から出て行く。
男の倒れていた所には少量の血の跡、それに黄色の液体が水溜まりになっていた。
「お前らー、これの後始末頼むわぁ。俺パターの練習しねぇとー」
「「「は、はい!」」」
そう言い、男は部屋を後にした。
「よく気づいてたっすね……ボス」
周りに居た1人の黒服が呟く。
「そうか、お前は最近入ったから分からねぇのか」
「え、なんすか?」
「あの人には不意打ちが効かねぇんだ……昔からなんだが、最近になってからは更に鋭いんだよな」
「あぁ……ほんと、恐ろしい人だぜ」
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