第49話 花火大会当日

 俺がメニューを決めてからはや1週間。料理の試行錯誤をしながらも、あっという間に時間は過ぎ花火大会当日。



「おとーちゃん! あれ!! あれなに!?」

「おー、アレは"わたあめ"だな。甘くてフワフワだぞ」

「ふわふわ!? たべたい!!」

「分かった分かった。お祭りが始まったら買ってやるからなー」



 俺はメマと共に屋台がある通りを見て回っていた。

 本当ならKIROの屋台の準備をしないといけないんだが……。



『みにいきたい! みにいきたい! みにいきたい!!』



 と、メマが駄々をこねた結果、急遽準備は比奈と凪さんに任せて、俺はメマのお守りとして駆り出た訳だ。因みに指導者さんは留守番兼店番だ。この祭り期間でも貴重なお客さまは逃せられない。






「それにしても、こんなもんだったか?」



 見て回っている途中、俺は思う。

 屋台は数える程しかなく、人もまだら。まだ花火大会が始まっていないというのもあるだろうが、人が少ない。久々に来たからか、子供の時の記憶が衝撃的だったからか、今がそうでも無い様に見えているのかもしれないが……。



「……此処も廃れたって事かもしれないなぁ」



 悲しい事だが、時代が時代だ。若者は刺激や夢を求めて都会に行く。地元に残った知り合いなんて数人だ。



「おとーちゃん! あれすごい!!」

「ん?」



 そんな事を思いながら黄昏ていると、メマに手を引かれ、ある屋台の前まで走る。



「おー……!」



 他とは一線を画す豪華な見た目に大きな看板。田舎の屋台の中では異彩を放っていると言ってもいいだろう。



「『ダンジョン屋台』?」

「すごーい!!」

「気になるかい、お嬢ちゃん」



 メマが目をキラキラさせて見ていると、30代ぐらいの気の良さそうなオジちゃんが笑顔で近づいてくる。



「これはね、最近出来た"異世界の扉"にあやかって作っててね? 異世界をモチーフとした出し物を提供するんだ」

「ふーん? すごいね!!」



 メマは言ってる事があまり分かってないみたいだ。



「具体的にはどんなのをやるんですか?」



 敵情視察だ……この目立つ屋台がウチの屋台とは反対側に位置するのが、どれだけ影響するのか予想を立てていないとーー。



「モンスターを標的とした射的、モンスターを形どった型抜き、モンスターをモチーフにした鉄板焼きをやります。他の祭りでも出して見たんですけど、その時も祭りが始まる前に商品がなくなってしまって此処でも出してみようかと。やはり若者は流行に敏感なんですかね?」



 お、俺の胃事情が……!!



 予想通りと言った所か、キリキリと俺の胃が痛み出す。やっぱ流行って大事だよな……俺達に関しては屋台の見た目なんか普通だし、流行に乗ってる訳じゃない普通の出し物だ。



「いやー、多分そうだと思いますよー、はははは……」

「あ、そ、そうですよね」

「は、はい」

「「……」」



 や、やべー。変な返事しちまった。会話が続かん……。



「すみません、じゃあこの辺で……」

「あ、開店したらぜひ来店して下さいね」



 俺は頭を下げながら、騒ぐメマの手を引いてそこを離れた。



 ま、まぁ? まだ屋台回り切ってないからね? 気まずいからじゃないから……。



 ん?



 おずおずと端っこを歩いていると、俺はある事に気付く。



 ………メマは?



 血の気が一気に引き、俺は周囲を見渡した。



「居ない! 居ない!!」



 油断した。手を握ってるから完全に。メマは初めてのお祭りだ。異常に興奮してしまうのも理解出来る……それなのに俺は何をしてるんだ。





「あ? 何だこのガキ?」

「にゅうぅ……!」




「メマ!?」



 俺は、苦しむ様なメマの声が聞こえた路地の方へ足を向けるのだった。

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