第4章 お祭り

第46話 散歩がてら屋台メニューを

 よーし。さてさて、どうするかだなぁ。



 俺はカウンターに置いてある真っ白な紙と睨めっこしていた。



 比奈が知り合いから屋台を出して良いぞと許可を貰って数日。祭りまであと1週間まで迫った日に俺はーー。



「屋台で出すメニューどうしよう……」



 出すメニューが決まっておらずに、困っていた。



 いや、まぁ、そのまま枝豆とか牛乳を出すのも良いんだけど、枝豆は兎も角、牛乳はお祭りって感じしないからなぁ。



 枝豆なら、なんか親父達に売れそうな気がする。ビール片手に枝豆を頬張りながら花火を見るのは最高だと思う。どうせなら俺もそっちにあやかりたい。



「っとはいかないからなぁ。KIROの為にも」



 ふぅっと短く息を吐き、俺は鉛筆を手に取るが、どうも何も思い浮かばない。



 うーむ。気晴らしに散歩でもしながら考えるか。うん、それが良い。



 そう思った俺はKIROから出ると、まずは飼育小屋へと向かった。



「おとーちゃん!」

「……ちっ」



 向かう途中、畑で汗水を垂らしながら作業をしているメマと凪さんと出会い、俺は足を止めた。



「おー、メマ。畑仕事頑張ってるかー?」

「うん! がんばってるよ!!」



 そう言うと、メマは元気にジョウロを掲げる。可愛い。



「凪さんも、お疲れ様です」

「話し掛けるな。ロリコン野郎」



 なんという言い草だろうか。これ程にメマが可愛いんだから仕方がないだろう。

 俺がそんな事を思っていると、メマが首をこれでもかと倒しながら聞いて来る。



「おとーちゃんはなにしてるのー?」

「ん? 実はなー、祭りの時に出す料理について迷ってるんだ」



 俺が言うと、凪さんが「はあ?」と声を上げる。



「まだ決めてなかったのか。比奈さんにもシドウさんにも言われてただろうが」



 はい……早めに決めておく様に言われてたのに、1週間前になってやっと危機感を覚え始めました。すみません。まぁでも? 俺って夏休みの宿題とか最後の日にやるタイプだから。3周目になってちゃんとエンジンが掛かって来るんタイプだから。何とかなる何とかなる。



「候補は考えてるんだろうな?」



 凪さんが眉を顰めながら聞いて来る。



「色々考えてはいるんだけどさー……」



 実は、何個か考えてはいた。だけどどれもピンっと来たヤツがない。

 俺達の店のおススメは枝豆と牛乳。それを1つの店で出して売るのも悪くはないんだろうけど、これだとどんな客層を狙ってるのか定まってない気がするんだよな……。



「早く決めないとダメなんだろ? ありがたい事に私も手伝ってやる、感謝しろ」

「へ?」



 ……さっきまで俺の事ロリコン呼ばわりしてたのに?



 急に手伝いを申し出る凪さんを訝し気に見ていると、俺の服の袖が引っ張られる。



「さっき、あまねおばーちゃんがきたんだけどね?」



 メマが口の横に手を当てながら、小さな声で言う。



 あぁ、ついさっき枝豆と牛乳飲みに来てたな。その帰りかな?



「そのときね、ここにきてなぎおねーちゃんのことほめてたの! 『貴女のお陰でいい所が出来た』って! そのときからなぎおねーちゃんごきげんさんなの!」



 ははーん……何がいい所なのか分からないけど……成程ね。

 右京さんのおかげって訳か。納得だ。



「何を言っている? 早く決めるぞ」



 こんなに強がっているけど、心の中では右京さんに褒められた事で頭一杯だと思うと、何か可愛く思えて来るな。



「……何を気色の悪い目で見てる。〇すぞ」

「……取り敢えず、飼育小屋の方に行ってみないか? 最初は散歩がてら皆んなの様子を見に行こうと思ってたんだ」

「まぁ、ずっとここに居ても良い案が思い付く訳ではないからな」

「おさんぽ〜!」



 俺達は比奈とぎゅーさんが居るであろう飼育小屋へと向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る