暗殺4
「死人は黙ってろ」
仲間に情報を漏らさぬよう銃口を頭に突きつけ引き金に指を掛ける。手錠を取り出し、助けに行かないよう男の腕と自らの腕につけニンマリ。
「躾てやる」
企む顔に和は、俺ちゃん加勢してくるねん、と手を振りながら笑顔で立ち去る。駆け出すとフェンス越し、二人を追いかける勝が目につく。ドラム缶やポール、壁等使いフェンスを乗り越え、先回りすると落ちていたバールで薄暗い中一人を殴り、二人目に回し蹴り。サバイバルゲームのはずが知らぬ間に肉体戦。ガシャンッとド派手な音に、めんごめんご、と謝りながら落ちたトイガン。アサルトライフル AKー47を拾う。
「えっと、hitにさせれば良いんだよね。さっき、兼二がゾンビやったからさ。多分、一発当ててもこの子らも降参しないと思うのよ。勝、我慢大会と行こうじゃないの」
倒れている男一人一人に銃を向け、逃げぬよう胴を踏む。叫んだらリロードするから我慢するんだよ。今さら許してなんて無しだなら、と二人は全弾丸うち尽くすまで引き金を引く。狙いは一点。装備の薄い手。もしくは、左胸。装備が暑くともBB弾とはいえ何かと痛い。
「ほらほら、叫ぶんじゃねーよ」
「頑張れ、大学生。こういうことやって来たんでしょ。なら、痛くないよねぇ。ねぇ?」
子供のように撃ち込む二人。だが、あっという間に弾が切れ、納得しなかったのかタクティカルベストからカートリッジを引き抜くとリロード。
「もう一回行こうか。今度は、顔面で」
一度目はなんとか耐えた彼らだったが、二回三回と続く銃撃には耐えられなかった。
痛い、そう告げる声が幾度なく響く。ごめんなさい、やめて、すみません、懺悔の言葉に笑みを浮かべるも手をカートリッジが無くなるまで止めることはない。
アハハッ痛い? 痛いよね、弱いものイジメのように赤く腫れる肌。それを見て笑うと背後を足音が通り過ぎる。
ん――。
和は手を停め、勝の銃寄越せと差し出す手に銃を置く。しくよろ、とまたふらつき始めると銃さえ投げ飛ばし、息切らしながら逃げ回る最後の一人。服の所々が切り裂かれ、白く綺麗な肌には赤い線。シューティンググラスもなく、タクティカルベストもなく。ラフな格好な彼は“誰かさん”には獲物でしかなかった。
見た目はとてもめんどくさそうで頼りない。でも、限度を超えれば狂犬と同等な暴れ者。舐められ、狙われてからこそ力を出すスロースターターであり、勝でさえ時に手出しでき無くなる。
「京ちゃん、刃物はダメよ。死んじゃうから」
彼の言葉に男が、助けてくれ、と崩れ和の足に手を伸ばす。その手を蹴りは無し、逃げるよう一歩下がるとガナリな声。
「旦那、邪魔しねぇーで下さいますか。すげぇー良いとこなんですよ。コイツ、俺のことバカみたいに貶してきて糞苛ついたんで殺していいですかい?」
羽織っていた上着は片腕が脱げ、いつも気だるそうな表情の彼は今は居なく。勝が人を見下し嗤う姿と被る。
「あ~とね。ナイフで刺すのはダメだけど、メリケンサックでボコボコにするのはいいよ」
それに、ひぃぃ、と怯える声。
四つん這いになる男の背を和は踏み、ほら、と指を指す。
「んじゃあ、気が済むまで殴るので掴んでで貰えますか。すぐ終わるんで」
すぐ終わる。
そのわりには長かった。
暗闇に響く鈍い音。
床に黒い水溜まり。
腹を殴ったとき衝撃で込み上げたか。
吐瀉物、唾液、血と不快な臭い。
無惨に倒れ息はあるも動かぬ男。
頬や瞼は赤く腫れ、目には大きな痣。
唇が切れ、垂れる血は京一の拳を染める。
「やりすぎ。まぁ、知り合いの医者に引き渡すからいいけどさ。今回は殺しじゃない。それ以上やると内蔵破裂で死ぬよ」
殴り疲れ、中腰で肩で息する京一に和は静かに声かけると引き摺る物音に目を向ける。撃つのつまんないわ、殴っていい? つまらなさそうに首根っこ掴み男二人を引き摺る勝。お前もかい、と突っ込みたくなるも離れた場所から転がり込んできた警棒を足で止め、拾うや思いっきり振り下ろす。バキッと痛々しい音に、俺知らないよ、と和は半笑い。
「(パンッと手を叩き)はい、終わり。依頼者に報告してくるから見張ってて」
フィールドを抜け、セーフティーゾーンの奥へ。人様に見せるものじゃない、とスタート合図だけは依頼者に任せ、依頼者だけ残し他は退社。
鼻歌歌いながらドアをノックし顔を出す。
「依頼者さ~ん、終わったよ。悪いんだけど結構荒れたから掃除もやらせてもらうね。あと、小一時間ちょーだい」
先程の出来事を無視するようなニコッと人を安心させる笑み。ドアを閉め、スマホを取り出す。慣れた手つきで画面をタップし耳に当てる。
『(焦りながら弱気な声で)あ、此方。
「あ~オレオレ。時間外に申し訳ないんだけど――今大丈夫?」
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