ミンチ事件2
「はい?」
おめぇ、何いってんの。意味分からず頭を持ち上げ抜く。和は不器用ながら耳に付けると、右から独り言を呟く京一。左から事件の捜査をしているのか兼二の声。ある意味、盗聴だ。
「なんつーもん聞いてんの」
外し、勝の腹に置く。
「ちゃんと許可取ってる」
「いやいや、そういう問題じゃ」
「あの二人だってやってるぜ」
なぜ俺だけ仲間外れ。そう、和は自分を指差す。
「まぁまぁ、お前は依頼を実行する担当だろ。調査は俺と助っ人の警察と探偵で事足りる。拗ねんな」
トントンッと肩を叩かれ、自慢げに見せ付け笑われも嫌じゃない。からかわれ、からかう。彼らとはそんな仲。
「デスクの引き出し」
「ん?」
不意な言葉にデスクの引き出しを開けると『骨伝導ワイヤレスイヤホン』が入っていた。
「マジか。ありがと、勝」
返事は返ってこない。だが、背を向け軽く手を上げる。素っ気ないがそれで十分だった。
夕刻どき。
勝の記事が珍しく土曜アフターという情報番組で取り上げられる。『女性ミンチ事故』を改め取り上げ、政治家や専門家の下らない口論。つまらないとテレビから視線を逸らすも女性の写真を手に訴える遺族のインタビューが流れた。
泣きながら訴えるインタビューに心打たれ、早くしないと、と夜明け頃。勝と向かったのは都会から少し離れた場所にある黒い柵とブロックに囲まれたヨーロッパな雰囲気漂う豪華な白い家。確信はないが【例の社長の家】らしい。
「此処?」
「じゃねーの。知らんけど」
「え、知らんの」
レンガや柵と防犯対策はバッチリ。見上げると木々に隠れた監視カメラ。撮られないよう近づかず少し離れた木の影で様子を伺っていた。
正面の門に出待ちの取材班。餌欲しがる鯉のよう群がり、誰か出てきたか
「ちげーわ。ターゲットじゃない。騒ぎになる前に逃げたな」
門を押し開け出てきたのは老夫婦。都会から離れ、死に際に静かな場所を選んだつもりなのだろう。困った顔をし、違います。違います、と必死に頭を下げていた。
勝は迫られ、責められ、フラッシュたかれる姿に唇を噛むと毒を吐く。
「部外者さらしてんじゃねーよ、バカ。俺はそいつらを取り上げたいんじゃない」
文句いいながら歩き出し、取材班に近づくと空き地を見つけ入っていく。すると、大きな声で「居たぞー。すみませーん、例の件でお話ししたいのですが」と一人騒ぎ始め勝の声に取材班が一気に走り出す。
土地を事前に調べていたのだろう。伸び放題の茂みを掻き分け勝が帰って来る。
「お前、意外と優しいのな」
いい子、と頭を撫でるが「デマ流したやつを懲らしめてやる」の言葉に手が止まった。
「あ、やっぱりさっきの無し」
「はぁ?」
不満ありげな反発的な声に「悪い子」と指差し言うと不思議と黙る。
「勝、俺らの目的は老夫婦を助けることじゃない。分かってるよな」
背中を押し歩かせ様とするも動かず。囁くように、ダメなのかよ。と小さく言う。
「あのな」
文句言いたげに口を開くと即舌打ち。
「知ってる」
「なら」
「好きで
それは何処かで聞いたフレーズ。
数日前、兼二も同じことを言っていた。
意味深な言葉に和は手で顔を覆う。
「そうだな。お前らは
和の言葉に笑みを浮かべ、勝はスマホを取り出す。
「じゃあ、メッチャ荒らす。死ぬギリギリの所まで追い掛け回してやる。いや、死んでもいいか」
気分転換に近くのカフェで休憩中。勝が自慢げにスマホを見せて来る。
【記者、ミンチ事件の社長宅見つけるも勘違い。現在持ち主の老夫婦は困惑。謝罪か】
デカデカと太文字で書かれ、本文は悪意あるモノだった。『行きすぎた取材』『ネタ目的のやらせ』『悪意ある報道』『迷惑』。本来なら記者が記者をバカにするような記事は書かないが勝は“こういう”のを好む。
「ビビって取材班の減れば楽なのにな。ハイエナみたいに群がりやがって」
悪態をつくと両者のイヤフォンから京一の声。愚痴か聞きたくないものが聞こえる。
『あーキスしてるし。あーイチャイチャしてるし。このままラブホ行け、もう!! 好きで浮気調査してんじゃないっす。蹴るぞ、急所!!』
軽い下ネタ発言に二人は笑う。
「なに、どうした。アイツ、すげぇー怒ってる」
「色々あんのよ、探偵も。そろそろ行くか」
和はバイクを走らせ、京一がいると勝が噂している場所へ。一つ二つと駅を越えたビジネス街。若者が好みそうな店が集い、小さなスクランブル交差点を通り過ぎる。
「高校生スカート短ッ。ありゃ、階段上がったら見えるな。風吹いてくれねーかな」
ツンツンッと腰を突っつく。
「勝、変態。めっ!!」
「チッ乗りが悪い」
近くの駐輪場に停め、さらに数分歩いた人気少ない場所。近くには公民館があるが周辺は空き家となった建物ばかり。シャッターが下ろされ閑散とした繁華街に行こうと信号待ちをしていると背後から明るい声。
「やーまと」
優しく膝カックン。隣に居た勝も同じ。
「あーくま」
と、膝カックンするも「誰が悪魔だぁ」と逆上。小学生みたいに京一と勝が走り出す。
「少しからかっただけじゃないっすか!!」
「気が立ってんだよ。紛らわしいことすんじゃねぇ!! 事務所では無口なくせに仕事で馴れ馴れしく話すな!!」
遠ざかる二人に和は静かに見つめ、ドテッと運動不足で転ぶ二人に笑った。
「だっさ」
*
「あんさ、例の件なんすけど」
浮気現場のラブホ監視しながら京一が一瞬北を指差す。
「噂の噂のまた噂。信用度低すぎるがこの辺に女子高があるっす。そこで校長やってるとかなんだとか。新規一点で知り合いの工場の社長。自慢するためにやってるだけで校内ともに評判は最悪。学生には出来る人には見えるらしい。登校時間にちょっと聞いた話しっすけど」
勝よりまともな情報。嫉妬するように勝がさりげなく足を踏む。
「でも、住所までは掴めなかったんで。名前も変えて俺じゃありません状態っす」
その言葉に足を退けると「使えねーな」と勝はからかうが「車は分かってる。周囲の監視カメラを“ハッキング”しやした。確か黒い高級車」の言葉に「使えるじゃん」と言い直す。
浮気調査を探偵仲間に任せ、京一と共に向かったのは女子高
「どの車よ」
和が正門から何枚か見える車を指差す。
「あれ、おかしい。なくなってる」
ん、と眉間にシワを寄せ京一。身を乗り出しそうになるも勝が腕を引く。
「バカッ入るな」
そんなやり取りをしていると「あの」若い声に三人は顔を右へ。自転車に股がり、不思議そうに首を傾げる高校生。赤チェックのリボンとグレーに白やビンクの線が入った制服はこの学校の生徒だった。
三人は顔を合わせ「なぁ、ちょっと聞きたいんだけど」と女子高生に問いかける。
「この校長ってさ」と和。
「評判」と京一。
「クズ?」と勝。
それに女子高生は笑うと「はい、クズです」。それはそれは、とても素直な子だった。
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