09
茜は一度深呼吸する。
グダグダと考えているのは自分らしくない。さっさと認めるべきなのだ、自分の気持ちを。
だけど、本当に自分でいいのだろうかと自信が持てない。
今まで年下を好きになったことなんてないし、恋人も年上ばかりだった。だからこれからもきっと、自分はそういう人を恋愛対象に見るのだろうし、そういう人から好かれるのだろうとばかり思っていた。
それに加え、自分の性格もあまり可愛らしいものとは言えない。どちらかといえばサバサバとしていて守ってもらうタイプではないのだが。
「ねえ、私、気が強いってよく言われるんだけど、それでもいいの?」
「うん、いい。そういうとこも含めて好き」
「知らないでしょ、私のこと」
「そうかもしれない。でも一目惚れだし、これから知っていけばいいよね」
「そんな単純な……」
「でも人を好きになるってそういうことでしょ」
茜はぐっと言葉に詰まる。
浩輝の言うことはもっともで、深く知ってから好きになることよりも、好きになってから深く知っていくことの方が多いような気がする。あくまでも、茜の経験上の話だが。
だからこそ、そういう考えが一緒なところもまた好感が持て「好き」に拍車がかかっていく。
「私、先におばあちゃんになっちゃうよ」
「そこまで将来を考えてくれるなら願ったり叶ったりだ」
ニカっと屈託のない笑顔は実に爽やかで、それだけで心を持っていかれそうになる。
「何と言われようと、俺は茜さんが好きだから。俺がバイトの時に来てくれるのがすごく嬉しかった。次はいつ来てくれるのかなって思ってて、バイトたくさん入れたりして……」
揺るがない浩輝の想いが、水が染みていくようにじわりじわりと茜を満たしていく。
自分の気持ちを隠して大人なふりをするのはもう限界だ。
だって茜の方こそ、もうずっと前から浩輝のことを好きだったのだから。
「……あのさ、雷、まだ鳴ってて……怖いから……家まで送ってくれない?」
おずおずと手を差し出すと浩輝はすぐにその手をぐっと握る。
「了解です、お姫様」
嬉しそうに満面の笑みを向けてくる浩輝は本物の王子様みたいで、そんな風に見えてしまったことに茜は動揺を隠せない。
だけどそんな自分をさらけ出すのはなんだか気恥ずかしくてぐっと息を飲む。
「……ちょっと、それ言ってて恥ずかしくないの?」
「茜さんを辱しめようと思って」
「なんでよ?」
「だって可愛いから」
カアアっと頬が染まるのがわかった。
浩輝は悪びれることもなく楽しげに茜を煽る。
だけどそれが妙に嬉しくてくすぐったくて、そしてちょっとばかり対抗心が芽生えて――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます